第十四世  赤

……ピチョン………

…ピチョンッ…

 どこから―――?あっち―――――? 目を向けた方向。………うん。そうだ。

カタン
「!」
「――」
「……」
 それぞれに、皆が反応する中、私は、椅子から立ち上がって床を歩いた。

 どこ? ――――そこ―――?
 窓のないほう。壁際のカーテン。真ん中よりのカーテンの一つに、近づいた。

ピチョンッ―――ピチョンッ!

 どんどん、大きくなる音。全身に響く音は、私を捕(と)り付かせるつもりなのだろうか?
 ―――同じ、「元」を見た時と。行ってはいけないと何かが告げる。でも、動く足。止まらない足。近くなる音。頭に響く音。ぐらぐらと頭を揺らして、くらくらと惑わして。狂わせて。私はゆっくり確実に。

ピチョンッ…

ピチョンッ………

 音のするほうに向かっていた。
 ―――いったい―――?
 皆が十音を見て絶句する中、一人、口元が笑う者がいた。………すべてを知っているかのような笑みは、誰にも向けられていない。気づかない。

「ここ」
 赤い赤いカーテンの一点を握った。――――分厚い。いったいこの生地いくらするんだろう? 厚みもあり肌触りもよい。でも、重くまとわりつくような生地。色がとても濃くて、なんだか似ている―――――そう。
ジャァッ!!
 重く、厚く何もかもをさえぎるカーテンを。力をこめて引いた。
 ――――瞬間に、部屋に広がる香り――――怪しく、そう、誰もが嫌悪する匂い。一枚のカーテンを隔てただけで香りを抑えていたならば、ずいぶんと優秀な生地だ。
 ―――――そう、カーテンを見て思い出す赤い色。
 …………血。

「キャァァァァアアアア!!!」

 “血”の色をしたカーテンは、元の色?それとも――――
 赤く赤い血を吸っていた。



「「―――二乃! 二架!!!?」」
 呆然と、名を呼ぶ声と共に走り出した五依。
 その姿は、あまりに―――

 カーテンを開いたその先、磔(はりつけ)にされた二乃と二架。
 すでに、両の手と足は身体のものではない。切断されなお、あるべき場所にあるかのように釘で壁に打ち付けられた身体。胴体ですら一方は半分に、一方は貫かれた穴が。ただ寝転んでいるかのような格好ででも、よく見れば身体はねじられている。切り取られた切断面から、普通曲がることない方向に。人の指と同じくらいであろう太さの釘が、幼い少女の身体を壁に縫いつける。

 どこを見ているのかわからない。開ききった黒い目が映すものはもうない。ただの鏡のようだ。――――黒くくすんだ。磨かれていない。
 元の色がわからないくらい赤く染まった服。滴り落ち流れる血。打ち抜かれた骨。

 空(うつ)ろな瞳は朽ち果てた。

「―――――二乃!! 二架ぁ!」
 足にすら手が届かない。二人の血を浴びる五依。
「どうして! なんでなのよぉ!!」
 泣き叫ぶ言葉に、空気が震えた。
 ――――私は、五依に簡単に押しのけられた身体を、自由に動かすことができない。かろうじて立ち上がってみたものの、すぐにも崩れそうだった。
 三臥に抱かれて悲鳴をあげながら泣く五依。
 そんな光景が目に入る。――――私は、“二人(二乃と二架)”の言葉を、思い出していた。



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