第十五世  秘密

………「十音お姉ちゃん!」
「絶対誰にも」

「「ないしょだよ!!」」………

「あのね、五依とね、」
「三臥わね、」

「二乃と、」
「二架の、」

「「お母さんと、お父さんなの!!!」」

「―――は?」
 ここにきて、一番まぬけな声だったろう。
「だーかーーらーー」
「十音お姉ちゃんどっかぶつけたの?」
 ――――おい!! なんでそうなる。
 一回で理解しない私に、不思議そうに二人は首をかしげる。
「わかったわよ。つまり、二人は二人の親だって事ね。じゃぁ、何でそう呼ばないの?」

 ――――母と、父と。

「「……………」」
 絶えずはしゃいでいた二人は、ふと静まった。
「あのね。昔ね」
「聞いたことがあるの」
「…………何を?」
 この話し方、どうにかならないものか。
「お母さんがね」
「私たちをね」
「忘れたらどうしようって、」
「目の前にして“誰”って言うことになったらどうしようって」

「「恐れていたから」」

 ――――「元」に“記憶”を奪われたら、そうなる事もあるのか。
 私は、そう考えた。

「「だから!! 忘れてあげることにしたの!!!」」

「…………はぃな?」
 い、意味がわからない。

「二乃と」
「二架が」

「「お父さんとお母さんを!!」」

「―――っ!!!」
 あまりに無邪気に言うもんだから、言葉を失った。

「「そうすれば、心配しなくていいでしょう」」

「お母さん、泣かなくてもいいでしょう?」
「悲しまなくてもいいでしょう?」

「「恐れなくてもいいでしょう!!」」

 ―――――いつか、この世界で体験した記憶全てを失う前に、俺たちは「元」の言葉を聞く。――――そして、次の者を選び出す。俺たちが死んだ後、次に記憶を餌として渡す者を。
 …………すべての“記憶”を失う前に。
 “過去”の話をしない。それは、相手が覚えているとも限らないから。
 ――――それって、普通でしょ? 誰しもが、同じ場所にいたことを覚えているとは限らない!
 ―――覚えてすらいないんだよ。初めから。自分はそこにいないのと一緒さ。自分が何処にいたかも、誰といたかも、すべて知らないんだ。“そんな事があったかも”すらわからない。今ここにいる自分が全てで、過去がない。わからない。


「……………違う。」
「「??」」
 私の言葉は、予想外だったのか。二人は顔を見合わせた。
「そんなの違う。」

「「どうして?」」

 二人は、かわいく首をかしげて言う。
「どう……」
「だってお母さん」
「毎晩毎晩」

「「泣いてるの」」

「いつか二乃と」
「二架を忘れたらどうしようって」

「「二人に向かって“誰”と言ったらどうしようって」」

「お母さんのお母さんも「元」の“餌”だったから」
「母親のようになったらどうしようって」

 実の母親に“誰”と呼ばれたら、それはショックでしょうね。しかも、「元」の餌だから、もしかしたら治る記憶喪失とも違う。―――――永遠に、そのまま。
 もし、五依さんがそうなったら、二乃と二架の母親としての記憶が消える。…………二人を、愛しているからこそ恐れるのかもしれない。

 それは――――確かに嫌かもしれない。だけど、だからって、―――「元」に“記憶”を奪われたようにして、忘れたようにするなんて――――

「そんなの違う」

「「…………」」
 はっきりと否定した私を、二人はきょとんと眺めていた。それから、突然泣き出しそうになって言った。
「………じゃぁ、」
「十音お姉ちゃん」

「「どうしたら、よかったの――――?」」

「え?」
「「どうしたら、お母さん泣かなくなったの?」」
「っ!」
 ―――――二人は――
「二乃と」
「二架は」

「「生まれなければよかったの?」」

「――――それ、は……」
 ぼろぼろと泣き出した二人に、もう何も言うことはできなかった。―――私も、負けないくらい涙を流していた。悲しくて悲しくて。そして、その時二人が考えた末の答えがそれだったのかという事に。私は否定してしまった。――――どんなに、辛かったのだろう?
 目の前で無邪気に笑っていた二人の少女が、明るく言ってきた少女が大泣きしている。
 三人で折り重なるように抱き合って泣いて。――――そのうち、三人とも泣きつかれて眠ってしまった。



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