第十七世  それが何時ともわからない

コツ、コツ、コツ、カツッ

コツ……コツコツコツカツカツカツ………

カンカンカン……

「はぁ、はぁ、…………」
 部屋から出た足は、いつの間にか走ることとなっていた。
「…………………」
 いろいろと、いろいろと。走っても走っても、振り切ることはない。それは、問題は自分の中だから。

 ――――何処から、逃げろと?


 外の庭。壁に面した所を城の外壁に面して走る。風を切るなんていえるように、身体が動かないことにイライラした。
 ここに来てあまり動いていなかったから。息がすぐに上がってきた。


「………………!」
 見つけた―――!!!!
 探していた。わけでもないが。いや、探していた人物。――――そう、三臥を見つけてふらつく足を走らせた。


「なんで、何で二乃ちゃんと二架ちゃんのそばにいないんですか!!!!」
「―――――!!!??」
 振り返った三臥の表情は、
「っっっ!」
 十音を凍らすには十分だった。
「……………ぁ……」
「――――誰に聞いたか知らないが、二度というな。」
ダァン!!!
「かはっっ!!」
 叫ぶように言った言葉に、首をつかまれた。そのまま壁に押し付けられて、意識を失わなかったのが不思議で、失ったほうがよかったのかもしれなかった。
「……………」
 ぎりぎりと首にかかる力が恐ろしい。何より、まるで相手にすらしていない視線が怖い。
「ぁ…………」
「っ!!」
ドザァ!!
 はっとしたように急に手を放されて、足の力が抜けた。がくがくと震えていて、立ち上がれない。

「――――――お前に、何がわかる。」
 低い声は恐ろしかったが、まるで止まることを忘れたように十音は喚(わめ)き立てた。
「私が、何もわかるはずないでしょ!!! わかりたいとも思わない! 大体私はあんたじゃないんだから!! 知らないし!! 知りたくないし! 私だったら……」

「三臥………に十音? ――――どうかしたわけ?」
 大きな声を聴き咎(とが)め、窓から五依が下りてきた。不思議な組み合わせにいぶかしんで―――そして、何か不穏な空気を読み取って。

 ―――そう、そういえば、変。だって、兵士も侍女もいっぱいいるのに。この国の人々はまるであの十人を避けているよう。必要のない会話を聞いたことがない。そりゃ、兵士同士とか侍女同士とかはあるけど。今だって、私たち三人の事をまるで遠くを見るように眺めている人々は多かった。だけど、ここまで近くまでやって来たのは五依だけだから。

「――――何をしているの。」
 その声、口調はとても優しくない。
「なんでもない五依。帰ろう。」
「何!!!? 私ムシーーー!!!?」
 当然のように五依の肩に手をまわして、五依の身体の向きを変えながら三臥は言った。
 が、面白くないらしく大声を上げて十音は怒った。

「なん、の話を?」
 それでも、五依は気になったらしい。ゆっくりと三臥を見上げた。
「〜〜〜〜〜…………関係ない。」
「………」
 その突き放すような言い方が、とても気になるのだとわかっていないらしい。
「だから、」
「二乃と二架です。」
 はっきりとした言葉が、空へ届かず五依の耳に。
「――――どういう事。」
「五依」
「黙って!」
「あの子達と……」

ガッッ!!

「イタ!!」
 言いたかったことは、痛みによって遮(さえぎ)られた。
「………い……ったい……何なの貴女。」
 微かに震えながらも、五依は十音に向かってきつい声で言った。握り締められた腕が痛い。引っ張りあげられるように、立たされた。 睨んでくる二人の視線はとても冷たい。――――どうして、私はここにいるんだろう? ふと、思った。…………逃げ出したい。――――逃げ出したい?

 違う、でしょ。この世界が、ふざけていると思うから。

「――――どうして、二乃ちゃんと二架ちゃんの傍にいないんですか―――?」

 ゆっくりと罅(ひび)の入った五依の顔。――――むしろそれは、亀裂(きれつ)に等しかった。
「――――貴女に、何か指図されるような覚えはないわ!」
「だって!!!」

    「「だから!! 忘れてあげることにしたの!!!」」

    「十音お姉ちゃん!」
    「絶対誰にも」
    「「ないしょだよ!!」」

「―――――っ!」
 ――――どうして、なのかな。二人が言っている“十音”は私じゃないんだろうから。

    「「生まれなければよかったの?」」

 ――――そうじゃないけど、でも。
 私(十音)に、何ができるというの? どうしろというの?ここで、二人の真意を話してしまえばいいの? 私が、出来る事って、――――――何もない?

「黙ってないで何か言いなさい!!」
「!!!」
 怒鳴り声に本気で怯えた。――――怖い。

 この、保たれている均衡を壊すのが怖い。

 もし、二人(三臥と五依)が、二人(二乃と二架)の事を知ったら、知ってしまったら、どうなるんだろう? 二人(二乃と二架)は、“また”生まれてこなければよかったと言うのだろうか?

 でも、だけど、だけど!!!

「どうして! 二乃ちゃんと二架ちゃんに会わないんですか! 避けるんですか! 逃げるんですか!!」

「……………」
 突然前を向いて言葉をつむいだ十音に、五依は黙った。

「何で恐れるんですか! “それ”が何時ともわからないのに!!」




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