第十九世  もう、会えない

「二乃! 二架!」
「っ!」
 ――――私は、五依に簡単に押しのけられた身体を、自由に動かすことができない。かろうじて立ち上がってみたものの、すぐにも崩れそうだった。
 ――――だから、言ったのに? 何かあってからじゃ、遅いと思うから。
 ただただ呆然と、虚ろな目に何も映さない二乃と二架から、目が放せない。

 会議は、めちゃめちゃだった。――――ように見える。

「な、何が―――」
 起こったんだ?
 ガダッと立ち上がったまま、立ち尽くす四利。
ガダン!!!
「「!!!」」
 何かが倒れる音、見れば、死体に気を失った九姫が倒れ、七羽がなんとか抱きとめていたところだった。
「九姫!!!」
 六羅があわてて近づいて、そんなに身体の大きさの変わらない九姫をおこして、下敷きになりかかった七羽を助けた。
 そんな光景にほっとして視線を向けた先―――――………一瀬は、何事にも動じなく、むしろ、今にも笑い出しそうだった。
「…………一瀬?」
 寒気を感じる一瀬に、注意が行っていたので、四利は気づかない。九姫を介抱する二人も、娘を二人失った親たちはもちろん。

 呆然と立ち尽くす十音に近づく八蛇には。

「――――二架!! 二乃!」
 必死で二人を下ろそうとする五依。――――手も届かない。三臥が剣で太い釘を引き抜いくと、
ゴトッ
「――――!!!?」
 足が落ちた。
「な………」
 切断された手足を下ろしても、胴体を下ろしても。
プツッ
「?」
 その衝撃に、首と頭をご丁寧にもつないでいた糸が切れた。
ガンッ!! ゴンッッ!
 つながっていた糸が、切れて、支えていた頭を落とした。―――――五依の前に。
「ぁ………」
「!!?」
 三臥が止める暇もなく、二つの首を手にとって、抱く五依。
「………ぁ………はは…あ…はははは……ぁああああーーーーー!!!!!」
 首を二つ抱いて絶叫する五依。まともな思考ですらもうないだろう五依の前で、ふと、三臥は十音の言葉を思い出した。

『なんで、何で二乃ちゃんと二架ちゃんのそばにいないんですか!!!!』

「これが、――――結果、か―――?」
 五依の心は、もう戻ってこない。
 ぶつぶつと言葉にならない呪いの言葉、自身を呪う呟き、二乃と二架と名を呼ぶ。世界を怨み母を怨み運命を怨んで。ただただ物言わぬ、身体から離れた首を抱く。



「ウソ………」
 待ってこれは、夢?でしょう?私はまだ、眠っている……起きれば、二人は隣で寝ているでしょう?

『………ぁ………はは…あ…はははは……ぁああああーーーーー!!!!!」

「!!?」
 ――――怖い。
 絶叫する五依の声に、十音はがたがたと震えている。その痛々しくも暗い響きが。恨みと憎しみがまともにぶつかる。悲しみと苦しみと、何より後悔が残る。―――――その声に。
「どう……して……?」
 なんで? 二人が? ただ世界の中でその理に逆らうことなく苦しみを背負った親子。どちらも、ただ、大切にしたかった。悲しんでほしくなかった。すれ違って、もう戻らない。
 ―――ただ、ただこの世界での幸せを求めただけ………何が最善で、何が最良なんて、その時だって、今ですらわからない。時が経てば移りゆく、脆(もろ)くも存在する人の心。

『『どうしたら、よかったの――――?』』

 ――――そんなこと、わかんないよ………どうすればいいなんて……結局私は………ただ、かき回しただけ? 邪魔をしてしまったの?
 でも、………死んでしまったら、もう、会えない。



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