第二十世  誰かが誰かを殺してる

 皆、死体に釘付けだった。―――――それはそうか。選ばれた十人が殺されることなど、あっていいはずがないのだから。―――“十音”のときはうまくいった。あとは、……………十音、君が悪いんだ。せっかく、僕が殺してあげたのに、なんで、帰ってきてしまうんだい?

「――――“十音”」
「? ―――――きゃぁ!!」
「「!!!」」
「………ぁ……ぐ……は……」
 呼ばれる声にいぶかしむと、突然後ろから首を絞められた。自分より背の高い男に首を絞(し)められて、そのまま足が地から離れていく。つま先がかろうじて付くか付かないか。――――苦しい。
 三臥に閉められた時と比べても、こちらの方が深刻だ。
「八蛇!!!」
 四利が叫んで走り出したが、
「このまま首の骨を折ってもいいね?」
「な!!?」
 少し力を抜いて、息が出来るように足を付かせた。―――もちろん、捕まったままだけど。
「ゲホッ!………」
 息をするにも苦しくて、何度も何度もむせ返り、今にも膝が崩れそうなのに。――――相変わらず腕が首にかかっていて、立たされたままだ。
「いったい何を!?」
 四利は苛々と怒鳴りつつ問いかけた。

「――――――ねぇ、十音」
 無視して、八蛇は腕の中の十音に話しかける。
「?」
 苦しすぎるので、視線を上げるのも面倒だ。
「なんで、帰ってきてしまったんだい?」
「………」
 ―――どういう意味?
「だけど、どうあっても、君は僕の物にならないから。殺して………」
 ごぷっ……吐き出したのは、言葉ではない。

 どしゃぁっ―――――

 最後の言葉は、途中で途切られた。

「ぇ?」
 背中にかかった生暖かい何か、急に開放された腕、ゆっくりと、目の前で腕が落ちていった。
「………」
 振るえが、止まらない。でも………整ってきた息、まだ、立っていられる。ゆっくりと、振り返った。
「――――っ! ―――――キャァァァァーーーー!!!!」
 仰向けに倒れている身体。散らばった髪。右肩から背中を斜めに通って、腰に届く切り裂かれた後。ただ切り裂いたのではない。後ろから切りつけた跡が、前にも浮かび上がっている。
「あ………ぁあ………」

 ―――――死んでる―――――

「うそ……」
「一瀬!!」
 何が起きたのか理解した四利は、八蛇に攻撃した一瀬に怒鳴った。
「………」
 十音は、それが一瀬だと理解する時間が必要だった。目を向ければ、王の座る椅子の前から、十音の目の前まで、床の絨毯が切り裂かれ、床に深い爪あとが残っている。一瀬は剣をしまって、何事もなかったかのように席に着いた。―――――あのゆうに20mは離れている場所から、この八蛇に攻撃したのは、衝撃波の類(たぐい)だろう。
 何故だか冷静に、そんな事を十音は考えていた。

「殺されるわけにはいかないしな」
「だからって殺してしまっていいのか!!?」
「殺されるほうが間抜けなのだろう―――――その子供も。」
「!!!」
「な!」
「――――王」
 声をあげた四利を越えたところで、三臥が振り返る。―――――途端。
 ふっと笑った一瀬は剣を抜き、姿が消えたと思うと、三臥の目の前に現れ切りかかった。
「!!!―――――………」
 三臥は驚いたがどうすることもできず、一瀬の攻撃を食らった。
ばしゃぁっ――――
 頭から切りつけられた傷は深い。一番衝撃の強かった胸は、貫通して穴が開いた。―――――それでも、いったい自分に何が起きたのか理解しようとしながら、血まみれの手を見て、震えるままに倒れた三臥。

「?」
 すぐ近くでする振動に、ぼんやりと、頭を抱いたまま五依が振り返った。
「…………さん…が……?」
 もの言わぬ夫に、五依の顔がどんどん青ざめる。
ゴトッゴトト!!
 抱いていた首を取り落として、三臥に――――
ドスッ!
「………ぁ………」
 ごぷり
 背後から剣で心臓を一突きされた五依。口から血を吐いて、崩れ落ちた。
ドサァ――――

 仰向けに倒れた三臥に折り重なるように五依の身体が崩れている。周りには、二つの首。並べてみれば、その首の顔は綺麗で、どこか、倒れる二人の面影を感じる。倒れた二人の血が混ざり、床を染める。首に近づく。―――――まるで、首が二人の血を吸うようだ。

「ひっ!!」
 増えていく死体の中、十音はもう叫ぶことすら出来ない。
「な…………」
 四利は何もできない。ただただ呆然としてしまうだけだった。――――何時の間に、あの場所からここに現れたというのだ………
「…………」
 興味を失って席に戻る一瀬。四利は、もう一度回りを見渡して、そして剣を引き抜いた。

「一瀬ぇ!!!」
 ―――なんで、殺した!!!

「王!!!!!」
 走りながら剣を一瀬に向ける四利。そんな中、扉が開き第三者共が入ってくる。
「こ、これは…………?」
 兵士と大臣共が見たのは死体。そして、王に剣を向ける四利。
ガキィーーン!!
「四利殿! いくらあなたと言えど、王に反逆するものは許しませんぞ!」
 四利の剣を受け止めて、抑えた。
「王………これはいったい……?」
「ああ」
 座ろうとした椅子から立ち上がって、一瀬は剣を抜いた。
「――――まだ、いたのか」
「?」
 一振り剣をなぎ払えば、一瀬と四利の間にいた者達は皆倒れた。身体のどこかで、切り離されて。
「――――っ!」
 目の前で繰り広げられた剣技に、四利は動けなくなってしまった。
「く、ははは……………」
「――――お前は……お前は!! この世界を壊す気か!!!?」
 かろうじて出せた声は、流される。

「―――――」
 立つ一瀬が笑っていると、大地が揺れた。
「………」
 何……?
 いつの間にか血まみれの床。笑う王。立ち尽くす四利と。無力な人たち。十音は、恐怖と不安でいっぱいだ。それに―――――何か、来る。

「来たか」
 ようやく、といった感じで、一瀬は呟く。
「まさか――――」
 “何”が来るのかわかった四利が焦る。

「―――――」
 声がする。

「―――――」
 近づいている。

 …………「元」が来る。




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