第二二世  残るのは?

ビシッッピシッ!!!
 「元」の力が及ばなくなって、亀裂の入りだした地面。城の外では、外の人々は、揺れだした地面に、何かが沸き立つようなゴゴゴゴゴ………という音に焦りと不安と恐怖を感じていた。
 ―――――それと、暗い雲を浮かばせている城に対しても。

ゴゴゴゴゴゴゴ――――
 何かが出てきるような音と、地面に亀裂が入る音。―――いや、亀裂は入り始めている。

「だれ……か………?」
 これは、現実なの?
 座り込んだまま揺れを感じ、色のない涙が絶えず頬を伝う十音の声は、声になってすらいなかった。

「お迎えか」
 そういった一瀬の前で、「元」と切り離すように亀裂が入った。「元」の周囲を囲むように地面が切り裂かれ、崩れる。
―――――!!!!!!!
 大地が揺るがす音と共に、「元」の身体が崩れた地と共に落ちてゆく。その穴は広く深く中は暗く。何も見えない。ただ、熱気が一瀬の身体に吹き付ける。地の底の其処にある、―――――沸き立つマグマの呼び声が。

「何故だ…………いち……せ……」
 血を吐き、流しながらも、四利が一瀬に問いかけた。その、掻き消えそうな声に、ゆっくりと一瀬は反応した。
「―――お前は、世界を………い……ったい……何のために“十音”を………?」
 死んでしまった“十音”それによってもしかしたら崩れてしまう恐れのある、この世界。――――いつ、「元」が“十音”を求めるかわからない。――――なのに、八蛇を殺し、三臥を殺し、………五依までも。そんなことをすれば、「元」の怒りを買う。………そして、やってきた「元」までも潰して、沸き立つマグマの中に向かわせた。

 これでは、この世界は破滅する。

「そうしておけば、お前たちは安心するだろう?」
「な……に?」
「“十音”が八蛇に殺されたから、十音を呼び出した。それだけだろう?」
「八蛇………が……?」
「知らなかったのか?」
「な……んで……だ……」
「くくく………奴は“十音”に引かれていたからな」
「あなたの婚約者じゃなかったの!!?」
 自身がここに呼ばれた理由。人の言う“代わり”が引っかかる。十音が震える喉を使って、かすれる声を甲高く響かせた。
「八蛇が気に入っていたようだからな、邪魔をすれば何か起こすと思ってな。」

 案の上だ。
 うれしそうに笑う。

「――――あなたは、“十音”が好きじゃなかったの?」
「どうしてだ?」
「だって、…………」
 その氷のような視線と、血を凍らす言葉に、十音はもう動けない。

「――――何故、俺がわざわざこの世界のために「元」のために生きなければならない。――――くだらない。つまらない世界だ。大臣どもはとりあえず俺を奉(たてまつ)り、人々は俺を崇め哀れみ同情する。何故自分を犠牲にしてまで見たこともない人間のために犠牲になる必要がある?」
 四利も十音も見ていない一瀬の目。

「くだらん毎日だ。第一、何故俺が統治する必要がある? 「元」などと言うふざけた物に振り回され、怯え畏怖して生きていかねばならない。何故俺が、見も知らぬ人間のために自身を犠牲にする必要がある?」
 一瀬は、四利を見て、そして、言う。

「どうでもよくなった。この世界に住む人間のことなど。ただ、「元」のために生きる自分の存在が許せなかった。何故、あんなもののために生きて行く必要がある?」

ドォーーーーン
 絶えず揺れていた地面。ついに、城の崩壊が始まった。天井が崩れ落ち、窓が割れる。
ぐらぁぁぁ――――
 部屋を支えている柱が何本か一瀬に向かう。
「こんなもので俺を殺そうとでも?」
 どこからか、最後に恨みの言葉を吐く「元」の声が聞こえてきそうだ。
 一瀬は倒れてきた柱を剣でなぎ倒した。
「――――もう、終わりだな」
 この世界は。
「いち……せ……」
 それでも、一瀬を呼ぶ声がした。それを無視して一瀬は十音に近づいた。
「くどいぞ四利。―――言っただろうそれは変わらない。………自分で壊すのは簡単だ。だからこそ、誰かで遊ばせるのが面白いだろ」
 手始めに、八蛇が求めている“十音”を奪ってみた。―――面白い事になるだろうと思って。………予想以上の働きをして、八蛇は“十音”を殺した。―――――事故に見せかけて。
「だか………ら……十音を……」
「コイツを?」
 見下したまま一瀬は十音を引っ張りあげた。
「―――――いい事を教えてやろう。「元」が求めるのは“この世界で生きた中での記憶”だ。ここに来て一週間も経たないお前の記憶など、求めるはずもない。」
「………ぇ………?」
「コイツがいたとしても、「元」に呼ばれるはずもない。―――……一人ぐらい消えたところで、問題は起こらないからな。」
 残り十人いるから。
「……な……ん……」
「何故、ここに呼ばれたか? か?」
 十音の一番の疑問に、もうすぐ答えが出そうだ。
「言っておくが、勘違いするな。“十音”と同じ声と顔で違うことを言うお前なんかを、なぜ俺が相手にしなければならない。」
 言葉が聞こえなくなるぐらい、大きな響きと共に、揺れと崩壊が本格的に始まる。「元」を失った世界が、崩れ始める。
ドシャァァ!!!
 唐突に、四利が瓦礫に潰された。

「俺がこの世界を潰して行くのに、“観客”がいないのは、つまらないと思わないか?」

 まるで、楽しんでいる子供のような声と、表情。
「「元」はお前を傷つけない。お前の記憶も求めない。この世界の住人でないお前は、この世界が消えていく様を見ることが出来る。―――――それが、どういうことか………わからないか。―――時期にわかる。」
 そう言って、十音から手を放した一瀬は、自分で自分の剣を首に当てた。
「「元」。お前に、俺は殺されない」
 そう言って、首を自分で切り落とした。

ゴトっ!
 座り込んだ十音の目の前に落ちてきた首が、十音を見て笑った。
「――――――っ!!!!」
 激しい嫌悪感に襲われると共に、崩れてきた天井が首を叩き潰した。――――肉の潰される音が、十音の耳によく響く。
「ぃ……や……」
 血で埋め尽くされた部屋は、今や瓦礫で埋まる。かすれた声は、もう、誰にも届かない。

「いやぁぁぁあああーーーーー!!!!」

 浮かび上がった十音の身体。今は城ではなくなった瓦礫を抜けて、空に向かった。




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