第二三世  そして世界が映ろうか

 よく見える、下の惨状。
 人々は、逃げ惑っていた。
 今や、安心な場所などないというに。
 大地は、火で燃える。
 水が、溢れる。
 幾人もの叫び声、助けを求める声。――――そして、消えていく。
 いくら目を閉じ耳を塞いでも、十音の頭に入り込む。人々が、死んでいく光景。
 人の波の中、襲う竜巻、火、水。人々は、あっちへ、こっちへ。どこに逃げればいいのかすらわからない。

 ―――とある、家族が見える―――
 母親が、逃げるときに重荷となる子供の、手を放した。言葉を伝える。
「ここに、いてね―――――」
 つれて逃げていたら、自分が逃げ遅れる。比較的人も少なく、火が襲ってはいない。子供を置いて、母親は走った。―――次の瞬間。
 落ちてきた瓦礫の下敷きとなった。

 残された子供も、やがて、地面の亀裂へと消えた―――――

 恐怖に掻き立てられた別の母親が、自分の息子の首を絞める――――そのまま、水の流れに飲み込まれる。
 棒を拾い、目の前の男を殴りつける男。
 自身の首を掻き毟(むし)る女。
 飛んできた岩に潰される者。地面の亀裂に吸い込まれるもの。水に捕らわれる者。火を運ぶ者。
 行き場を失った老人が、亀裂に入った。

 ―――全てが、目まぐるしく十音に伝わる―――
 一つ一つが見える、流れる。崩れて、崩壊していく世界。塵が空へと舞い上がり、地面に亀裂が入っていく。
 何かに守られるように、十音が傷つくことはない。――――今も、宙に浮くように下の光景が頭に映る。
 人々が、ゴミのように死んでいくさまの、全てが。

「いや………いや…………」


 やがて大地はその姿を消し、人々もいなくなる。全てありとあらゆるものが崩壊し、塵となって消える―――――

 白くなって暗くなって行く世界が消えた時…………十音は、やって来た時空の渦に飲み込まれた。




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