第二世  現実が襲う

「……………」
 腕を引かれながらも不機嫌な十音を見て、四利が声をかける。
「………これから会ってもらう人がいる。それが終われば、……質問に 答えるから」
「……(本当でしょうね)」
 十音はまったく信用していない。

「だから、黙ってろ」

 やっぱり信用できるかぁぁっ!!!


 二人の靴音が響く響く。大きな扉を目の前に、開かれた扉を目の前に するまで。


  ※  ※  ※


「王――――、一瀬(いちせ)」
 四利が部屋の中に声をかける。まわりは本棚で埋まり、さらに本で 埋まっている。二枚目の扉を入った先にいる人物。窓にかかるうすでの カーテンが風にゆれる。ペンを持って書類に目を向けていた男が顔を 上げた。逆光で顔が見えない。手を止めて、立ち上がった。 ――――十音が見ていたのは、そこまで。

(王様?)
 いったいどこの国だろか。王様なんぞがいるなんて。まぁ黙ってろと いうことなので、黙っておいてやろう。気になったのは、右手に積まれ たビンの山。中身は――……お酒?

「十音」
「っっっ!!」
――――いつの間に―――
 窓を背に立っていたはずなのに――――驚いて数歩後ずさり、うつ むいてしまった。

 目の前まで伸ばされた手があごを掴み、顔を上げさせる。
 こんなに近いのに………目が合わない。歳は三臥より下で、四利より上? ………悩むところだ。でも三人の 中で一番態度がでかい。立ち振る舞いがなんか偉そう。

 何かゆらいでいた目は、静かに細められた。

「話は」
「いえ」
「しておけ」

 それだけ言い捨てて、王――――男は窓辺の椅子につき、積まれた 書類に手を伸ばした。


ぐっっ
 痛みの残る腕を引かれ、扉の外へとつれて行かれる。つかまれた 瞬間痛みにゆがんだ顔は、すぐに怒りとなった。



 パタンと扉が閉じた。

「ドコ。何。誰、ってゆうか、帰る」
「…………」
 四利は疲れたように頭を抱えた。
「とりあえずどこかに座ろう」



  ※  ※  ※



 お茶を出したメイドがさがる。もといた部屋(寝ていた部屋)の 隣にやって来て、広いソファに腰掛ける。足元は緋色の絨毯に茶色の ソファ。飾られた剣や花や絵が華やかだ。
 しかし、正反対に十音は不機嫌だ。出てきたお茶を飲み干して、 出されたクッキーに手を伸ばす。そういえば、食事をしていない。 現れた食欲に四利も同じことを思ったらしく、メイドに何か言っている。

「…………」
 テーブルにひじをついて不機嫌そうに前に座る男をにらみつける。
「この世界は」
「帰る」
「…………」
 説明しろといったと思えば。
「家に帰して」
「……………十音」
「なに?」
 自分を見る目が、真剣な色を帯びたのを、十音はびびりながらも 答える。
「きみは………きみはもう帰れないんだ」
「はぁ?」
「少しだけ説明をさせてくれ。この世界は、「元(げん)」簡単に 言えば、きみのいた世界の別の姿だと思ってもらえばいい」
「パラレルワールド?」
「そうだな平行世界と。」

 つまり、自分と同じ姿の人が、住んでいる世界。

「ちょっとまって、世界にいる同じ自分に会うと死ぬとかいう じゃない!!」

 冗談じゃないわ!!

「大丈夫。きみがもう一人の自分に会うことはない」
「???」
「それが、きみをここに呼んだ理由なのだから」
「聞くきなし!」
 十音はもういいとばかりに手を振った。
「帰るんだから聞いても時間の無駄」
「きみは………きみはもう帰れないんだ」
「だからなんなのよ。帰れないわけないでしょうが! 来れたのに」
 来たかったわけではない。
「平行世界といっても別次元だから、空間のゆがみをこじ開けて、 きみを引きずり込んだ」
「……同じようにやりなさいよ」
「きみをここに連れてきた魔術師は、ゆがみに取り込まれて帰って 来なかった」
「…………」
「この世界一の魔術師は、死んだ」
「…………どういうことよ……」
 自分の声が震えているのがわかる。四利は、一拍おいてから、 ゆっくりと理解しえないことを言った。

「きみは、二度と元の世界に帰れない。」



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