第三世  信じられない

 ――――――部屋の中は静かだった。四利の言葉が終わると、 どちらも何も言わなかった。うつむいて、何も言わない十音を、 四利が覗き込もうとした時………

「……なんでよ……なんで帰れないのよ!! 帰してよ!」
 十音は四利に向かって叫んだ。

「ごめん」
「ごめんじゃないわよ!!!」
「ごめん」
「ふざけないでよ!!」
「俺には、君を帰すことはできないんだ」
「だったら誰か連れて来い!!!」
「…………魔術師は、死んだといったろう」
「私はここにいるのよ!」
「だから、君をこの世界に送り込んで、自分は時空の渦に飲み 込まれた。運がよければ別の世界に行き着いているかもしれない」
「はぁ?」
「時空の渦に飛び交う情報と、不規則に流れる時間。道は一つ ではなく、流れも変わり分かれ増え消えぶつかる」
「なによいったいあんたの方が詳しいんじゃない」
「と、魔術師は言ったが、彼は君を連れて来た」

 そして、帰ってきたのは君一人。

「………なによ……それ……それじゃぁ、まるで―――」

 私が来たために人が一人死んでいる――――?

 十音は恐ろしさに身を震わせた。
「っこ! こんなとこ用はない!!! 帰して!!!」
 叫びは震えてかすれてる。入ったメイドが驚いて、ナイフが 落ちてガシャンといった。

「君は帰れない」

 同じ言葉を繰り返される。――――なぜ? ―――――なんで?!!

「なんで!!!」
「君に、頼みがあって。」
「聞きたくないっっ!!!」
「十音」
「聞きたくない聞きたくない聞きたくない!!!」
 同じ言葉を繰り返し、自分に向かって叫ぶ十音。四利は 言いにくそうに言いずらそうに、それでも言葉をはっしなければ。
「十……」
「もういや!!!」
 突然の事だった。席を立った十音は、扉の外へと走り去った。

ガダーン!!
 遅れたように倒れた椅子音。開け放たれた扉から、聞こえる ―――離れる足音。

「…………」
 あわてるメイドを落ち着かせ、四利ため息を飲み込んだ。


  ※  ※  ※


(なんでなんでなんでぇ!!!)
 広い廊下は直線で、十音が走るのに最適だった。床に響く足音が、 いつしか三つになってても、十音はまったく気づかない。
(……なんで……今日なの―――?)
 目に浮かぶ涙が流れ出す。にじむ視界がもどかしい。
(なんで――――?)

 起きたら、誰もいなかった。昨日喧嘩した妹と、からかって 遊んだ弟も。父は当然のごとく仕事で、母もパートに行っていた。 ―――――学校は、遅刻だった。テーブルに残された茶碗と、冷えたおかず。鍋に入った ままの味噌汁。どれも、自分の分。鍋を火にかけお茶を飲む。

――――静かだった。

 おはようとか、いただきますとか、いってらっしゃいも、 言ってない。別に言わない日もあった。けど、

ガシャン!!!
 飾られた家族写真が棚から落ちて、幾千もの破片が散った。

「…………っ!!!!???」

―――――いやな、予感がした―――

 早く、会いたかった。家族に――――


………なのに……なぜ?



「う……ふ……」
 口元に当てた手から漏れる声。袖口はもう、流れる涙を 拭くのに役立たない。
 いつの間にか止まりそうな歩みで、十音は廊下を曲がった。


「「十音おねいちゃ―――ん!!」」
「!!!?」

どしゃぁ!!

 いきなり振ってきた二つの小さな影に、十音は後ろに しりもちをついた。

「うわ!!! たっっ!!」
「「おねいちゃん大丈夫?」」
 見上げると、自分のひざの上に女に子が二人乗っている。 高い位置で結ばれた髪がはねながらゆれている。同じ顔、 同じ声で二人は同じ方向にに首をかしげて聞いてくる。
―――――重いってゆうかいきなりなんなの!!!!??
 不機嫌なのが伝わったんだろう、二人の顔から笑顔が消えた。
「おねいちゃん……?」
「あのね……」
「もういい!! なにも聞きたくないっ!!!」
 ビクッっと二人は体をゆらした。
――――しまった!!
 そう思ってももう遅い。泣き出さないか、恐る恐る二人を見る。でも、帰ってきた言葉は以外だった。

「おねいちゃん……」

「「何がかなしいの―――?」」

 今度は、十音がびっくりする番だった。

「な!! な……なによ………」
 ……こんな小さな子に―――心の内を読まれたようで、声を 失った。その代わり、悲しみがこみ上げる。
「なによ…………」
 あふれる涙が止まらなくて、声を出さないように必死で、 床を見つめようにもうまくいかなくて……

「「ぅあ〜〜ん!!!」」

 びくぅぅぅっつ!

「え?」
 純粋に驚いて見上げると、はたから見ても双子の女の子が 顔をくしゃくしゃにして泣いている。大声で泣いている。
「ぁぁあ〜〜〜ん!!」」
「な!! な! ななな………なんな……の……」
――――泣きたいのはこっちよ……――――

 そう思ったら、驚きに引っ込んだ涙がまたやってくる。

「泣きたいのはこっちよ―――」

 それからは、何もいえなかった。おお泣きする二人を 抱き寄せて、負けないくらい大きな声を上げて泣いた。


―――――大泣きしたのなんて、いつ以来――――?



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