第四世  あきらめない

 泣いて泣いて泣いていた。私と双子の女の子で。会いたくて、帰りたかった――――

「二乃(にの)! 二架(にか)!」
 突然の声に驚いて、ふっと顔を上げた。
「「七羽(なのは)ねぇ!」」
――――さっきまで泣いてなかった? パッと笑顔に変わった 二人は現れた女性に抱きついた。
「どうしてここに? 四利に言われなかったの?」
「「四利兄知らない〜〜〜」」

「十音!!」
 大きな声で名を呼んで、走ってきたらしい四利は息を切ら しながら近づいてくる。もちろん走って逃げてもよかったんだけど―――私は泣き 顔を床に向けてうつむいた。

「十音。」
 私の前にやってきた、四利が安堵して名を呼ぶ。
「……………」
 それでも、下を向いて何も言わない私。四利がため息をつ いた。
「十音。なぜ逃げるんだい?」
「私は帰りたいの!!」
 なぜ? とかそんな事どうでもいい。とにかく帰りたい。
――――不安で、不安でどうにかなりそうだった。
「だから――」
 なだめるような四利の声がする。さっき聞いたこと、どう でもいい事をくり返す。

――――うるさい

「十お………」
「四利」
 どこか子供に言い聞かせるようではなく、落ち着いた声が する。
「そうではないでしょう?」
 聞こえた声に、四利は振り返った。スカートのすそを二乃 がつかんで、右腕を二架につかまれた女性が言う。双子の二人をその場にとどめ、私に近づいてくる。
「歩けるわね」
 腕をつかんで立ち上がらせて、私の手を握って歩き出した。


「これで冷やすといいわ」
 冷たい水で絞ったタオルをまぶたに乗せられる。
「あのっっ!!」
「今はいいの。ゆっくりお休み」
 そう言われて、起き上がった体をベッドに沈めてくれる。
「眠りたいだけ、眠りなさい」
「…………」
 そう言われて、泣きはらして重いまぶたが、走って疲れた 体が眠りを求める。

 正直、ベッドの中の暖かさと心地よさに誘われて、すぐに 眠りに落ちてった。


「彼女が、なのね。」
「ええ」
「…………よかったのかしら―――」
「そうも言っていられないでしょう」
「それはそうだけど、彼女にも、日常はあったはずだから」



※  ※  ※



 影が見える。ベッドの脇に。ともすれば、何かと見間違え るかもしれない。それぐらい、ぼんやりと、はっきりと、黒 い、黒い影――――手が、伸ばされた、


―――――いとしい、愛しい“十音”

なぜ、帰ってきたんだい?

君は、僕が―――――



「? ん〜〜?」
 なにか、気配を感じて、目が覚めた、部屋には、一人。どれくらい寝てたのか――――ゆっくり伸びをして、あふ。あくびをする口に手をあてる。部屋は薄暗い。もう夜なんだろう。窓にはカーテンがかけ られ、小さなランプが、足元を中心に部屋の中を照らしてい る。
「…………っ!!」
 首を回して部屋の中をもう一度見渡す。少し離れた棚の上 に置かれた物――――自分の服を見つけて、ベッドからパッ と降りて走りよった。
「帰りたい。」
 誰が持ってきてくれたのだろうか?丁寧にたたまれた服を大切に腕の中にしまう。浮かぶ涙は、 振り払った。


きいぃいぃぃ
 寝室を出て、四利とお茶を飲んだ部屋へとやってくる。――――誰もいない。ただ、窓のカーテンは開けられて、細 い三日月が輝いているのが見える。
「…………」
 一つ深呼吸して、廊下へと続く扉の鍵を回した。



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