第五世  見つかる

(…………迷った。)
 当然である、知らない場所なのだから。
(変だな? ずっと右角を曲がってきたはずなのに――――?)
 帰りは、左に曲がり続ければOK!! って事で。
「あれ〜〜〜?」

 はじめのうちこそ、すれ違う軍服に身を包んだ男共は、 十音の存在に気づくたびに頭を下げていった。部屋へ連れ 戻されるかと心配した十音は面食らっていたものだが、ど うどうとしていたほうがよさそうだと悟った。

 だが、今は一人も見ることはない。

「ちっ!! やくたたず!」
 なんとも理不尽なことを言いながら、さらに歩き出す。戻る気はないようだ。どうせ迷っているのだから――――――進めるだけ進む気だ。


「役立たずなんて、ひどい言いようね」
「うわぁ!!」
 突然の声に振り返ると、五依と呼ばれた女性が立って いる。
「出口はあっちよ」
 くすくすと、面白そうに笑いながら言う。
「でも、出られるはずもないけど」
 あっさりと言う。
「どうする? おとなしく部屋に戻ってなかったことにし てもらうか、四利のお説教をくらうか。それとも三臥に ひねられるか?」
 少し前にきしみながら立った音を、痛みを思い出して、 その腕をさすりながら、十音は五依に近づいた。

「まったく、逃げるならもっとうまくやってみることね。」
 どうせ、逃げたところで逃げられるはずもない。ここは、 彼女のいた世界と次元が違う。
「……………」
「だんまり? かまわないけど。」

(―――――?)
 逃げられなかったことによる苛立ちはあったが、目の前 のことに意識がいっていた。
(――――あれ?)
 もう一度、角を曲がった瞬間。五依というらしい女性の 顔を見る。
(どこかで――――?)
 はじめて会ったときとはまた違う。不思議な気がする。
(誰かに似ている――――?)
 誰だか、わからない。


 あそこよ。と、とある扉を指されながら言われれば、確 かに、出てきた扉と似てなくもないような気がしてくる。 はっきり言って区別がつかない。
(ここって、何階だっけ?)
 今度は、窓からの逃走を計るらしい。

バン!!!
 これから入る予定の扉が中から開いた。―――――あわ ただしく。

「注意力散漫」
 五依が容赦なく言い放つ。
「助かったよ」
 声に驚いて、そしてほっとした様子で、四利が近づいて きた。


※  ※  ※


「まったく。首に縄をつけといても足りないかもしれない わね」
 朝になるまで、十音が逃げないように部屋に集まりだし た人々。夜五依に見つかってから、ずっとこうだ。
「どういう意味?」
「そのままでしょう。次はどうするの? 窓から?」
「………っ」
 十音は黙った。
「…………部屋を変えるべきね」
「まぁまぁ、五依。彼女だって混乱しているんだし」
「七羽姉様は甘いんです」
「あなただって、ほかの次元に飛ばされたくはないでしょ う」
「……………」
「それで、四利。いったいどこまで話を?」
「この世界が「元」で、“帰れない”と」
「…………それだけ?」
「だから、その途中で逃げたんです」
「…………」
 頭を抱えて、七羽は十音を見た。
ふい
 音がしてもおかしくないくらい、十音は顔をそむけた。
「………それなら―――」

コンコン

「――――はい。」
「七羽様。「元」がお呼びです」
 入ってきたメイドが言う。
「――――そう。いらっしゃい十音。あなたが、ここに呼 ばれた理由がわかるわ」
「七羽」
 四利が首を振る。
「いずれ、すぐに知らなければならないこと。それが現実」
「…………」
 四利は十音の腕をつかんだ。



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