第六世  来る

 挨拶をして私たちを迎え入れる警護兵。入った部屋は、 天井がとても高く、半ドーム状だった。でも、本当にドーム状なのは、目の前のガラスを越えた 向こうの部屋だった。正面が一面ガラスなので、向こう側が良く見える。分厚 いガラスが、その向こう、眼下の異様な光景を、余計はっ きり映していた。はるか、下。ちょうど四階の窓から、下を見下ろしてい るような感じだ。
 目を隠し、口元まで覆うマスクをして、頭からつま先ま で白一色の服に身を包んだ人間。中央には、ふかい、深い、 ふかい穴。異様なまでに照らされた空間の中で、そこだけ 暗黒のようだった。

 先も何もない。落ちたら―――――考えて、寒気がした。 おびただしい数のコードが、周りの床を多い尽くす。足の 踏み場もない。穴のそこに向かって、落ちていっている。先は、周りを囲む鉄の塊につながっている。絡まるコードに引っかかることなく動いていた白い人間 が、一列に唯一の入り口に並んだ。ここの真下が、入り口 だ。

ごぅうぅーーん
 硬く閉じられていた扉が、重い音ともに開かれた。入ってきたのは七羽という女性。反対に、これまで部屋 にいた人間はすべて七羽に一礼して部屋を出た。

ごぉおーーーん
 扉が閉じると、部屋の中には七羽一人だった。


 高い位置から見下ろしているが、ゆっくりと深い穴に向 かっているのがわかる。

(………いや………)
 どうしても、それ以上近づいてほしくなかった。

 何か、絶対にいてはいない所に、私はいるのではないか。絶対に、見てはならないものを、見ることになるのでは ないか。もう、帰ることができなくなるのではないか。

 関わってはいけない。

――――本能がそう言っている。警報が鳴っている。

……………動けない。

 あまりの警報と恐ろしさで、動けない、目が放せない。


 見てはいけない!!!!


―――――もう、遅い





 七羽が、穴の淵にたどり着いた。――――つま先が、 穴の中に出ている。下から空気が流れているらしい。髪が、浮かぶ。

 見下ろす、“中”を。穴の行き着く先を―――――

―――――!!!!

「来る」
 空気が震えて、七羽はつぶやいた。



ドン!!!
 異常なほど厚みのあるガラスが、突然震えた。
「っ!!!」
 ガラスに手をついていた十音は弾かれた。しびれた腕 と手が、弾き飛ばされた自分の位置が、どれほどの力か を物語る。
「っーーー!!……」
 肩を抱いて震わせても、意味がない。
 ひょい!
「きゃぁ!!」
 抱えあげられて、振り返ると、いつ来たのか三臥と呼 ばれた男が自分を窓につれてった。
「―――いっ……いや!!」
 抵抗するがまるでかなわない。
すとん
 立っていることができなくて、窓辺に座り込んで、ま た、ガラスの向こうを見た。
――――見たくないのに、目の前にガラスがあると覗き 込まずにはいられない。
 何かに強制されているように、十音はガラスを、空気 を震わせている穴を見た。



「――――――」
 また、呼んでいる。声がする。…………
「―――――」
 突風とともに、さらにミシミシと音を立てるガラス。

 “何か”が、穴から這い上がってくるような感覚。

どくん、どくん、
 こんな時にでも、心音は自分の生を伝える。


「来た」

「―――――!!!」

「っきゃぁぁぁぁああーーー!!」


 “それ”を見た、十音は叫んだ。



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