第七世  「元」

 飛びあがって来たのは、――――人間?

 中央に年齢が三十台くらいの男性。に、見える頭。体は、 膨らんだゾンビのようで、肋骨が右に浮かび上がっている。背骨の位置が右寄りに曲がっている。左側には、朽ちた 肉片が、爛(ただ)れた皮膚が浮かんでいる。手が六本、体 のあちらこちらから生えている。黒と、赤の羽が交互に、 八枚―――八翼。羽の形は、まるで違う。右に見える羽は 一番上が一番大きく、左側は二番目が。下半身には、よく 肉のついた足に、人間の顔がついている。目を見開いた女 性の顔。狂ったように笑う老婆、自分を蔑む(さげすむ)少 年。太った男性。男性の、神経質そうにゆがんだ顔。

「元」
 嬉しそうに息を吐く、「元」に、七羽は話しかけた。


 穴から出てきた物体。しゅーしゅーと、くるし紛れの息 遣いが聞こえる。八翼と、膨れた体、頭と、足にある顔。 六本の腕。
「…………あ……ぁ」
 突然現れた異様な物体に、十音はかろうじて後ずさりは じめた。
ドン!!
「――――ひ!!」
 体が何かぶつかった途端、また叫び声をあげた。
「十音」
 それは、四利だった。落ち着いた様子で、十音に話しか けた。

「あれが、「元」だ」

「…………な、なん…の……はな………」
 声が出たのは奇跡と言ってもいい。

「彼が、この世界そのものだ。」

――――――あれが!!!!?

「もともとは普通の人間だ。だが、ある日、この世の中心 で、「元」を成す“核”を体に取り込んでしまった。仲間 を、巻き添えにして。」
 足に浮かび上がっている“顔”がそう。

「この世の中心なんか目指すから――――」
 五依が苦々しく言った。――――十音には聞こえない。 目の前で、四利の言葉を理解する事しか、頭が働いてくれ ない。

「彼が、世界の中心となって、何一つ、これまでと変わる ことはないように思えた。何の支障も無いと。――――でも、ひとつだけ、たった一つだけ必要とするこ とがあった。」
 四利は、もう一度、十音を窓辺につれてきた。
「いや!!! いやぁ!!!」
「見ろ」
「!!!!」
 これまでに無い強い口調と、そして――――



「元」
 二回話しかけて、七羽は、手を伸ばした。
「―――――」
 呼ばれた「元」が手を伸ばす。伸びる手。一本の手が、 七羽の頭の中に入った。
「ぅ………く………」
 その、いつまでもなれない感覚に、七羽それでも、押し 殺した声を上げただけだ。自分の頭に進入する指――――かき回される頭。……………記憶。

ず……
 音と共に放れた腕。満足したのか、「元」はまた、空気 を震わせて飛び上がった。

――――――十音と、目をあわせて、穴に帰った。

「っっっっ!!」
 血が冷え切った十音は、そのまま倒れた。



目次