第八世  それが事実と、恐ろしさ

「いやぁぁぁぁぁ!!!」
 夢に見る、光景。飛び起きる理由には十分だ。いや、有り余る。

「あれがこの世界そのもの「元」」
 声に叫びを飲み込むと、四利がテラスに立っている。

「俺たちは、「元」の“餌(え)”だ――――」

 もとに戻ったと思った世界は、もう、二度と戻らなかっ た。何かが、ずれている世界。気づいたときには、修復は 間に合わない。―――――これ以上、壊れないようにする ので精一杯。「元」となった男は、その“核”の持つ力を制御しきれ ない。エネルギーが足りない。

――――不足分は、世界の人々が用意するしかなかった。

それは――――


「聞きたくない」
 十音ははっきりと四利に言った。
「帰して」
「それは困るから、ここにいてもらう」
「どうして!」

「記憶喪失」

「は?」
「何の事だかわかるか」
「…………バカにしてんの?」
 面白そうに四利は笑った。
「俺たちは、皆そうだ」
「何の話?」
「「元」の餌は“記憶”さ。この世界で生きてきたすべて の」
「………」
「だが、気まぐれな「元」は選んだ内誰を求めるかわから ない。いつの記憶を餌にするのかわからない」
 テラスから、部屋の中に四利は入った。
「昨日の記憶かもしれない。何年も前の自身ですら忘れた 記憶かもしれない」
 グラスに水を注ぐと、一方を渡してくれた。 ―――――正直、喉が渇いていたので飲み干した。

「俺たちは“過去”の話をしない。―――必要とあれば別 だが、普段はほとんどない。…………信じられないか?な ぜだかわかるか。―――――たとえ、自分の中で覚えてい たとしても、相手の記憶の中にその話は存在しないかも知 れないから」

「………」
 それは、ある意味で何の話などできないのでは?誰かと 言葉を交わせないとでも?
「「元」の“餌”となりうる者は、名に数字が入る。一瀬、 二乃・二架、三臥、四利、五依、………なぜだかわかるか?」
――――また、四利は問いかけた。
「「元」が、数字で区別するためさ。一から十までの数字 の中。十人が「元」の“餌”として王都に、ここに集めら れる。―――今は、十一人だがな」
 四利も、水を飲み干した。
「「元」の“餌”は、次の“餌”となる者を指名して、死 ぬ。ただ、十人の中で最も意思の強い者。今なら一瀬だが、 「元」と渡りあえる者が王となる。――――だいたい、一 の名を持つ者に受け継がれる特権だ。」
 これは余談か。

「おやすみ。良い夢を」
 そう言って、四利は部屋を出て行った。


「………………」
 逃げたいけど、恐ろしさに震えた体が動かない。地に、 足をつくのが怖い。――――何より、また、現れそうな、 呼び込みそうな、暗闇が、怖い―――――



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