第九世  私じゃない

「まぁまあ!! どうしました!? その目の下のくまは!!」
――――寝れなかったの!!
 朝一番に入ってきたメイド達は、なんだかよくわからな い間に私の着る服を決め付けている。
 ―――――しかも、

「だから、放してよ!!」
 着替えさせている。
「何を言われますか。この服が一人で着られるはずもない でしょう」
 だったらもっと着やすい服をもって来い!!
「でも、本当に良かったですわ十音様が帰ってきて」
「そうですよね〜〜」
「何のこと?」
「あ!! っと………」
 メイドは気まずそうに口を閉ざした。
「おしえて」
「なんでもありませんから。」
「話せ!!!」
「それは………」
「ちょっと!! どうするの!」
「だって四利様の言いつけよ………」
「でも十音様なのよ!!」
「王様に告げ口でもされたらどうするの!!」
「私たち殺されるの!?」

 突然メイド達が集まって密談しだしたので、十音は一瞬 逃走しようと考えたが、四利と、王という言葉に、ふと足 を止めた。

(何なの………?)

「わかりました、十音様。どうか四利様には内密に」
「もちろんでしょ」
 言う必要があると思えない。
「実は、その………」
「はっきりして!!」
「はい!! あの、三ヶ月前の事なんですが――――」

「突然、王が結婚するらしいという噂が流れまして、相手 が十音様だって……」
「は?」
 ちょっと待て、三ヶ月前なら、私は、ここにいないはず。 ってことは私じゃない。―――じゃぁ誰?
「もちろん、十音様なら問題はないって話していた矢先―――十音様城を出て実家に帰ったって話になって。」
「「元」に選ばれた方々が城を出て故郷に帰ることなんて、 初めてだったんじゃないでしょうか?」

 「元」に選ばれた? ものは言い様ね。“餌”として記憶 をなくしていることは、………しらない?

「十音様なら相応しいって言っていたのに、十音様いなく なってしまうし」
「皆様なんだか落ち着かない様子ですし」
「ここ最近はなんだか不安な日々でしたわ」
「「「「でも!!!」」」」
「十音様がお帰りになった今なら現実に!!」
 目が輝いている。
「ドレスは何色で?」
「白でしょう」
「青もいいんじゃない」
「それは十音様のイメージじゃないわ!!」
「緑?」
「十音様緑がお好きでしたわ〜〜」

――――緑は、好きじゃない。…………私じゃない。話の 当人は。誰? ――――――誰の話をしているの―――――?


※  ※  ※


「は…………はぁ………は………」
 ゆっくりと、息を落ち着かせる。頃合(ころあい)を見計 らって抜け出した衣装部屋。なんともひらひらとしたス カートを自分で踏みつけそうで恐ろしい。
「はぁ…………」
 ずずずっと、壁につけた背を足が砕けるままに任せよう と――――

「十音」
「!!!」
 ここに着てから、心臓にいいことなど何一つない。

「―――――?」
 始めて見る顔だった。なにか、どこか、なんかこう………典型的な理系人? ――――考えて、そんな人の基準がはっきりとあるわけで もないと思い直した。四利とも王とも三臥とも違う雰囲気の男は、でも、はっ きり言って今までで一番印象が薄い。

「―――――元気そうだね」

「それは―――――」
「参ったな。」
「?」

「十音!!!」
 いい加減で怒ったらしい四利の叫び声がする。
――――そういえば、五依が(もう呼び捨て)三臥の腕ひ ねりとどっちがいいか比べたくらいだ、想像したくないが、 説教は並々ならなそうだ。
「さいなら!!」
 長いスカートの、足に引っかかりそうな部分だけたくし 上げて、十音が走り出しことは―――――なかった。

「放してもらえません?」
「それは、無理だろうねぇ」
「………」
 そんな人事口調なら話してよ………

「八蛇(やつた)。ありがとう」
 息を切らした四利がものすごい感謝を示す。
「がんばれるな」
「……………」
 やはり、どこか人事な男はそのまま行ってしまった。

「君は、走るのが好きなのか?」
「昔より遅くなったわ」
 運動不足―――――
 四利は、がっくりと肩を落とした。



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