「………」
「ミルファネーゼ様」
「ぅわ! はい!!」
 声に驚いたのと慌てたのとが混じって、振り返ってさらに固まった。
(だからなんなのーー!!)
 人が多いしなんか見てるし!
「部屋は、こちらです」
 淡々と言う男の後について、甲板から中に入った。なぜだか私を避けて行く兵士とか。ふと見ると、どうやら侍女であろう女性とか。船とはまた違う人のあり方に、慣れないとしか言うしかなかった。


「荷物は中に」
 そう言って先を歩くシギ・ファン。大きな軍艦は安定していて、揺れはほとんどなかった。
「はぁ……」
 呆然と言うしかないし、ついていくしかない。ここは私の家じゃない。周りにいるのは、誰?
ガチャ!
 開かれた扉をくぐってみると、一言。
「ここはドコだ?」
「貴女の船ですよミルファネーゼ様。貴女を探すために陛下がお造りになり、貴女の物である船ですから。名は、名づける方がいらっしゃらないので、とりあえず、」
「あ!! いいですいいですその話は!」
 きっと、そのまま名前をつけたんでしょう?
「中の物は好きなようにお使い下さい」
 笑いたくなるほど馬鹿丁寧に頭を下げた男は、さっさと部屋を後にした。


「は?」
 バタンと閉じた扉。振り返って、振り向いた。ゴシゴシと目をこすって(痛くなった)もう一度部屋の中を見た。
 とりあえず、ここはドコだと突っ込みたい(2回目)。
 外装に似合わないほど、豪華な部屋。まぁ、目の前にソファあるよね。でかいよね。窓も大きめに作ってあるよね。
 隣に続く扉を開ければ、左右にドレスが下がっていた。端から数えて、100? 下には、ドレスの数と同じだけの靴と、帽子。ショールにバック。
 反対にあった部屋の扉を開ければ、ガラスの中にジュエリーがディスプレイしてあった。うわ〜〜これ真珠? それから、それから。
 なんだか豪華な部屋にはビビッていたのに、宝石には飛びついた女………

「ふんふ〜〜ん」
 意気揚々と、次の部屋に向かった。ベッドと私が部屋から持ち込んだ荷物が置いてあった。それから、サイドテーブルに乗っているベル。
「?」
 金のベルを手にとって、揺らして見た。
リリーーン――
 高い音が響くと同時に、
「お呼びですか?」
「ぎゃぁ!!」
 人が部屋の中に現れた。
「な、な、何よあんたたち!」
「………は?」
「そのベルは一種の呼び鈴です」
 ぐるりと振り返って、最後の声を追った。
「貴女の身の回りを世話する者達です。その鈴の音は、彼女たちを呼ぶ合図です」
 なぜかいるシギの声に、聞き返した。
「身の回り? 何それ?」
「必要なときに、お呼び出し下さい」
 そう言って挨拶をしたのは、若い女性だった。――――そうね、アロマと同じくらい。
 名を、シェシジェと、言った。


「…………暇」
 とりあえずみんな部屋から追い出して、ベッドに寝転んだ。ハンモックとは違う安定感に戸惑った。
「御爺様」
 ドコに行くんだろう?誰に会うんだろう。―――――怖いよ。
 初めて、お爺様にもらった日記を書かなかった。

『ミネファ』
『なぁに御爺様?』
『これをお前に』
『紙?』
 見るからに、御爺様はずっこけた。
『………そりゃぁね、紙には違いないがね』
『?』
『書くんだよ』
『何を?』
『なんでもいいんだ。たとえ、一行でも一頁でも。思ったことを考えたことを。何でもいい、何でも。何か書くんだよ。口に出せない思いを。その日の事を』

「……御爺様ぁ」
 一人は、怖いよ。



「大丈夫でしょうか?」
「何がだ」
「御一人ですわ」
「? そう望まれたのだろう」
「そうですけど、やっぱり、驚いていますし、怖がっていますわ」
「あのまま部屋に居座れと?」
「そうではありませんが、ただ……」
「ただ?」
「どんなに心細いでしょうか」
「この船は安全だ」
「………」
 この“思い”の違いは、伝わらないのだろうか。



「ミルファネーゼ様。ミルファネーゼ様!」
コンコン! コンコン!!
 何度も名を呼び、扉を叩いた。夕食は、どうするのか伺(うかが)わなければならない。
「…………」
 ゆっくりとため息をついて、部屋の鍵を取り出した。
しーーん
 部屋は暗く、静かだった。開かれた扉が、この船の主がどこにいるのかを伝える。
コツ……
 足音を響かせてしまって、あわてた。
しーーん
 安堵して、向かった先。寝室であることはわかっていた。

「おじぃ………さま……」
「?」
 これは、寝言か。
 部屋の主はベッドの中で眠っていた。心地よい眠りとは言えなかったかもしれない。
「ミネファは、……いらな……ぃ………の?」
「―――」

『どんなに心細いでしょうか』

 シェシジェの言葉が、何度も何度も反芻(はんすう)していた。


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