「本当ですか!」
「まあな」
「ネファ〜〜信じちゃダメだよこんな事」
「おい! こんな事とはなんだ! こんな事とは!」
「な〜〜んだぁ」
「ぅおい!」
「ほらほらネファ! もっと飲んで!」
「いっただっきまーーす!」
「酒樽持ってこーーい!」
「船長、出費ですよ」
「問題ないわぁ!」
「はーい! さ、運んじゃって!」
 船長の気が変わらないうちに。
 船の甲板では、さっきから宴会が始まっている。しかし長い。

 反対側の船。対照的に、静かで、暗かった。
「………」
 シギが睨んでいる。楽しそうに笑うネファを。
「……七杯目」
「は? 何でありますか?」
 いきなり言葉を言い出したので驚いた隣の兵士が聞き返す。
「七杯だ」
「………?」
 ネファが飲んでいく杯。
「………」
 さて、どうするか――


わいわいがやがや
 あちらこちらで杯を酌み交わす海賊。高まる笑い声。沸き立つ瞬間――
 楽しい――

 さて、そろそろ、皆出来上がってきていた。

「ねぇ、船長?」
 かわいく、ネファは本題を切り出した。
「二割じゃ、だめ?」
 しかも、直球。
「だめだ」
「けち」
「二割」
「六だ」
「二」
「六だ」
「……二と一の半分」
「六だ」
「このどけちジジイ」
「なぁ!!?」
 リングル船長に、45のダメージ。
「ぅはははは……」
 話を聞いていたバンズが面白そうに笑う。
「いいじゃありませんか船長、まけてあげても」
「ありがとうレイズ〜〜」
 ネファは名を呼んだ女性に抱きついた。
「………」
 リングル船長は黙った。レイズは腕の中でネファを抱いていて微笑ましいが、ネファには見えないその顔が、冷ややかに船長―リングルを睨んでいる。普段なら屈する事はほとんどない。だって、船長だし。だが、
「……」
 こういう時には弱い。いや―――
「四割だ」
「本当!!?」
 嬉しそうに顔を上げたネファが笑う。――自分の娘より小さい、友が愛娘として愛する少女に、同じように愛情を持ちながら、それとは気がつかれないように髪をぐしゃぐしゃとかき回す。
「な、何!!?」
「………」
 不思議そうに見上げるネファから手を放すと、少女は言った。
「言ってくる!」
 ――行ってくる?
 背を向けて海を越えようと走り出した少女を見送って、船員に合図を送った。


「………」
 嫌な予感がする。こちらに向かって走ってくる少女。そう、たぶん。
「せ、ぇーーの!!」
 右足で踏み切って、“また”海を越えて、甲板から甲板へと跳んだネファ。
 ――!!?
 バイアジュ国の船の甲板にいた頭を抱えているシギを除く全員が驚愕に顔を強張らせる中、
ガッ!!
「とっ?」
ガクっ!
 手すりに着地した片足が、ずれた。
「……?」
 身体が後ろに向かって海に落ちていく。――なんて事にならずにすんだのは、反射神経よろしく手すりをつかむつもりだったネファのおかげでもない。いち早くネファの無謀(むぼう)さを察していた護衛だった。
ぐっ!
すたん!
 引っ張られて甲板に足をついた。
「ありがとう、ございます」
 睨み付ける視線が怒鳴り声になりそうなので、いち早くお礼を言った。
「………」
 言いたいことは多いが、それよりも目の前にいた船に視線が行った。
「?」
 ネファが振り返ると、船はまた歌いだした。


〜俺たちゃ海賊キリングル〜
〜狙った獲物は逃がさない〜

〜今日も獲物を見つけたが〜
〜今日は特別例外さ〜
〜俺らを見くびってんじゃねぇぞ〜
〜友から取るほど落ちぶれちゃねぇ〜
〜騒いで飲めれば満足さ〜

〜ただし、ただでは帰らない〜


「はぁ?」
 歌の矛盾と、去り行く船を見つめて、ネファは言った。
「ちょ! ちょっとリングル船長!!?」
 積荷の話は?
 大声でネファが、船の先端に立つ男に声をかけると、仁王立ちしていた男は振り返った。
「ぁあーー!!」
 してやったりと、にやりと笑う男の手の中には、ネファに与えられた部屋の中で、一番豪華なネックレスがあった。さっき、部屋の中でとりあえず売り払えそうなものだけは確保しておいたのだ。
「ちょっと! なんてことしてくれるの!!?」
 手すりを乗り越えそうな勢いで、乗船から乗り出すネファ。すでに、船と船との距離は遠い。声ですら、届くであろうか?
 にかりといい笑顔で笑った海賊キリングルは、そのまま去っていった。歌いながら。


〜俺たちゃ海賊キリングル〜
〜狙った獲物は逃がさない〜

〜俺たちゃ海賊キリングル〜

どん! どん! どん!! どんどんどどん♪
太鼓の音が聞こえなくなってしまうまで。

「って、ちょっと待てーーー!!」
 一瞬呆然としたうちに船は消えていく。はっとして叫んでも意味がない。
「返せ!!! 私のネックレスーー!!」
 主張激しいな。そして、落ちるなよ。海に。
 なぜ、首から下げていた物がなくなったのに気がつかなかったのか? 思って首元から下がっていたものを胸元から引き出すと、そこには別の物がかかっていた。そう、いつもリングル船長がかけていた……お守り?
「…………」
 これって……


〜俺たちゃ海賊キリングル〜

「……ってだから待てつってんだろーーがぁ!!」
 そしてすでに船は見えない。あきらめて振り返って、それが問題だと思う。
 まずい?
 またも注目をあびているらしい自分。やばい、まずった?
「………」
「…………」
 目の前の男の沈黙が痛い。帰りたい。どうしよう。
「ご、ごめんなさい」
 だんだんと声が小さくなって行く……ってか、何でこんなに人がいるの!!!
「何を、謝っておいでですか?」
 あんた! ドコとっても攻めているようにしか見えないから!
「だって……あれ……」
「……? あの部屋の物はすべて貴女様のものですから、どうなさろうとかまいませんが」
「……」
 そういう問題?
 海の端が白く明るくなってきていて、どうやら、なんだかんだで一晩が過ぎている。
「シギ様!」
 暗闇の中はぐれた船と合流して、穏やかにゆれる波をゆらした。進む船。

「お休みになりますか?」
「………」
 安堵したのは本人ではなくて、一晩はらはらさせられた船の船員や兵士や侍女達だろう。
 どっちかって言うと、今度こそこの船でおとなしくしてろって事?
 眠いから寝たけど、寝ずにすごす事になってしまった人がいることは、どうしょうもなかった。
 ――あの男が筆頭だけど。


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