「暇」
「そうですか」
「……」
 相変わらず、なぜか隣にはシギが。あれから二日。とりあえず食事は国王様と一緒に食べるのが日課?
「ねぇ」
「何か?」
「他にすることないの?」
「どなたが?」
「あんた」
「あなたがおとなしくしてくださればすることは少ないですが?」
「………」
 嫌味? 嫌み? ってかあてつけ? ねぇ、ここ私の部屋だったよね?
「何かなさりたい事を、してくださればいいんですが」
「……あのねぇ」
「娯楽でも音楽でも勉学でも語学でも、なんでも」
「……」
「忘れておりました」
「は?」
 嫌な予感。
「明日から礼儀作法の先生が来られます」
「何のために」
「さっせませんか?」
「鬼」
「……そうですか?」
「シギのばか」
「は?」
「ばかばかばかばか」
「なんですか?」
「もう寝る」
「だから、なんなのですか?」
「帰って」
 ばんっ! っと、部屋の外に追い出した。

 ――忘れてはいない。ここで、私が眠る事はできないって。


「なんなんだ、だから」
 追い出された部屋の外で呆然としていた。相変わらずわけがわからない。しかたないので、そのまま部屋の外に立っていた。
 昼間から、本当に寝る気なのか?




「ミネファはどうした?」
「部屋から出てこられないので……」
「何をしたんだ」
「俺のせいですか?」
「違うのか?」
「このおや……父上」
 少し声に怒気が加わった。
「ファン軍師と呼びなさい」
「軍師」
「で、何か言ったのか?」
「ですから」

 男が三人集まったところで、結論は出ない。




「眠れない」
 のは、昼間寝たからではない。昼間も寝られなかった。
 静かな部屋。静かで静かで、まるで海に飲み込まれてしまったよう。息苦しい。
「眠れない」
 もう一度つぶやいて、部屋を出る。


「どっちだったっけ?」
 ちなみに、よく迷う。それでも帰ってくることができるのは、いつもいるあの男の――
「出かけるのはかまいませんが、冷えますので上着を着てください」
「……休暇とかないの?」
「ありますが。私に不満があるなら陛下におっしゃってください。すぐに、新しい護衛がつきますから」
「ふうん」
「どちらへ? こんなに遅くに」
「眠れないから」
「昼間寝られたのでしょう?」
「……無理」
「と、言いますと」
「――っ!」
 ぼそっと、本音が出た。そして、さらにつっこまれる。
「何か不都合でも? ベッドを新調させましょうか? それとも、窓を変えますか?」
「そうじゃないけど」
「でしたら、なぜ?」
「………」
 きちんと説明しないと、誤解されたままなのかな?

「……ゆれないから」

「はぁ?」
 至極当然と言う顔をされる。
「ゆれないんだもん。船と違って、海と違って」
「当たり前でしょう?」
「……そうなん、だろうけど……」
 だけど……
 船の上で育ったミルファネーゼには、陸地は落ち着かない。
 大地は、そこにありつづける。
「眠れないんだもん……」
「………」
 沈黙してしまって、二人は黙り込んだ。

『御一人ですわ。――どんなに心細いでしょうか』

「歩きますか?」
「……!」
 少しだけ嬉しそうに、笑顔が見れた。



「ねぇ! あれは何?」
「あれは、第四の塔です」
「よん……」
「今はもうないですが、かつてこの城の四方にはあの塔と同じ高さの塔が四つあったそうです」
「あ、っそ」
「歴史の先生も、お呼びする事にします」
「えーー」
 不満そうな声は、無視した。


「はぁ……ふ……」
 いい加減で日が昇りそうなほど、夜の城内を歩き回ったのだ。いい加減で眠くもなるだろう。
「寝ますか?」
「そうね、今なら寝れそう……」
 歩きながら眠り込んでしまわれる前に、部屋に送り届けた。




「ミネファはどうした?」
「まだ、おきられないそうで」
「………」
「陛下、歴史の先生をお呼びしていただきたいのですが」
「なぜだ、お前が適任だろう?」
「………私ではない方がよろしいかと」
「嫌われたのかお前」
 言葉を失った隣で、父親に突っ込まれる。
「そうかもしれませんね」
 自嘲気味に、シギは笑った。





「んん〜〜……ん?」
 カーテンからもれる光――の量、が多い。薄緑のカーテンは、光が透けて通るほど薄くもなく、切れ目から一筋光がもれるだけ。私が立っても上に手が届かないほど大きな窓。透き通ったガラス。衝撃に耐えられるように小さく厚く作られた船とは正反対。だけど、窓は窓。外の景色を、写り行く季節を、波の流れを教えてくれる窓。今は、
シャァ――
「……」
 だけど、その景色もまたすばらしい。一望できる城下町。広い、白い。人々が動いているのが見える。生きている。
「………昼間?」
 だ、よねぇ。
こんこんこん!
「はぃ?」
「お目覚めになりましたか? ミルファネーゼ様」
「……おきたけど」
 なんで?
 がちゃりと、扉を開いて侍女が数人入ってくる。
「お食事の用意をいたしますので、その間こちらにお召替えを」
「これ?」
「はい」
 今日は、茶色のワンピースだった。ゴテゴテしいドレスでも着せられるのかと思っていたが、見当違いだ。……少し、その事に期待してなかったと言えば嘘だ。そりゃぁ、私だって、物語のお姫様に憧れなかった訳じゃない。辛く苦しい船の生活から抜け出して、本当の親のもとでぬくぬくと暮らしたいと思ったことがないわけじゃない。だけど、
「ミルファネーゼ様!!?」
 受け取った服に、ぱたぱたと雫が落ちる。震える手がつかむものを求めさ迷ってドレスを握り締める。
 だけど、だけど。あの船の中で、受け取った思いに、優しさに、暖かさを知った時から、もう憧れは憧れに終わったのに。どうして、どうして?

「どうしてなのよぉ!!?」

 あとはもう泣き叫ぶだけ。だんだんとこの生活に順応していく自分が、一番嫌いだった。


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