13.過去の真実 


「どういう事なの! この寒さ!」
 またか、と、侍女はため息を飲み込んだ。城中の薪をかき集めて部屋を暖めていると言うのに、この言葉。
「蓮花様。しかし」
「もっと薪を足せないの!?」
「――はい」
 “この妃”は“前妃”と違う。同じ顔で、全く違う事を言う。いいや、前の妃は何も言う事はなかった。何も。
 この妃に逆らえば平気で陛下に進言されて、暇を出される。
 どっちがよかったかなんて、今ではもう意味はない。


「陛下」
「なんだ、氷河」
「……頭が痛そうだな」
「……」
 国王は手を振って、側近を残して皆を下がらせた。二人きりになった所で、氷河が口を開いた。
「間違ったんじゃないか、雪崩」
「なんの話だ」
「あの姫は口うるさすぎるし、雪国には合わないだろう」
「だから、どうした」
「……そんなに、春の国の姫が嫌いなのか」
「どういう意味だ」
「もしこれが風花だったら、対応は違ったのだろうなと思うだけだ」
「なんの話だ? 氷河」
「お前は、妙だと思わなかったのか」
「何がいいたい」
「なぜ姫が、窓から落ちたと思う?」
「は?」
 かくりと、雪崩が持っていたペンを取り落した。
「何を言いだす」
「あの時姫は、水を飲んでいたと言ったな」
「……落ちた姫の横に割れたコップがあったからな」
「中身も入っていたのだろう」
「コップの周りの雪だけ、先に溶けていたからな」
 次に口を開いた幼馴染の声は、王に接する、それだった。
「姫が飲んだ水差しを下げる侍女とすれ違いました。その侍女は姫の部屋から出てきたにもかかわらず、水差しの中身は満杯でした」
 水差しに入れる水の量は一定――
「……それが?」
「なら姫は、いったい、何を口にしたのでしょうね」
「………」
「答えは、この侍女が知っていました」
 部屋の扉が、静かに開いた、兵士二人に挟まれるように部屋に入って来た侍女は唇をかみしめていた。
「そうでしょう」
 氷河の声が低い。
「………」
「黙っていても、いずれ陛下に伝えますよ。さぁ答えなさい。あの姫の部屋に置いた水差しの中身に」
「……度数の一番強いお酒を出しましたが。あれなら香りもほとんどないし、間違えると思って」
 唇をかみしめて、悔しそうにうつむいていた侍女は、口の端を上げて、楽しそうに言う。――ゾッとした。
「部屋の窓の鍵も壊したのか」
「それは、別の侍女です。私ではありません」
「………」
「それに壊したのではありません。ひとつだけしか開かないようにしていました。そこが、腐った手すりの真ん前だったのでしょう?」
「……。ずいぶんだな。で、なぜそんな事をした」
「春の姫なんて、なぜ呼ばれたのですか陛下」
「は?」
「陛下も嫌っていらしたじゃないですか」
「……」
「だから外をあんな薄着で歩かせたのでしょう? こことは違う暖かな気候から来た女性を」
「やめろ!」
 思い出したくないと、雪崩が声を上げた。
「……でも今は、あの方がいなくなって困っています」
「は?」
「だって、あの新しいお妃様。わがままなんですもの」
 お前が言うなと、呟いた。



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