20*騎士団長の心情*


 太王太后様の命を懸けるという言葉を軽く無視して、魔女は日記をめくり始めた。こちらの言葉が届いていないのは明白で。しかし気分を害した様子もなく、太王太后様は新しいお茶の手配だけして部屋の中の人払いを済まされた。――廊下に出たところで床に座り込んでしまったので、椅子を用意させる。いや、それより、
「お休みになったほうがよろしいのでは?」
「何を寝ぼけたことを」
「何も侍女のまねごとをされなくて、いだっ!?」
「お前達は!! ――っ」
 声を荒げた太王太后様がせき込む。慌て医者を呼ぶ。――やはり急に動いたせいか、あまりよろしくないらしい。部屋で休むように厳重注意を受けた太王太后様付きの侍女に耳打ちをする。目を離すなと。――自殺でもされては困る。巫女の言うことならまだあの魔女は聞くのだ。交渉役を失うのは惜しい。

 ――しばらくして、日記を抱いた魔女が部屋を出てきた。――目が赤い。目が合って逸らされた。
「アンナリーナは?」
「太王太后様は、お体が芳しくなく」
「ああ、……そうね」
 魔女はどこか、遠く、呟いた。
「なら、いいわ」
 迷いのない足取りで、魔女が歩き始める。
「どちらへ?」
「神殿よ」
「勝手に動かれては困ります」
「浄化してほしいと言ったのはアンナリーナよ」
「代わりに太王太后様の命を要求する気ですか?」
「ああ、そうね。先にアンナリーナの部屋に案内して」
 剣を抜いて魔女の顔に突き立てた。
「――何?」
「太王太后様を殺す気か!?」
 魔女は大げさにため息をついた。
 彼女が死んでも、世界は変わらない。それと、私を牢にぶち込んだ怨みは、忘れてないわ。と。

2017.05.14

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