*永遠の先を生きる魔女 3*

*有限の身には過ぎた出来事*

 アンジェ様の捜索のため部隊を編成するも、自由に動かない体を呪った。
 監視していた男を見失ったと同時、アンジェ様も消えた。さらわれたと見て間違いない。
 力では勝てないだろうし。しかし、なぜ。不利になるようなことが起こらないように、注意していたが――隠し通すには限界があったのだろう。
 森からでなければ、しかし出なければ別の問題が発生する。
 それは魔女の望みではない、個人的な執着にすぎないのだが、諦められない。

 アンジェ様がいなくなって、一晩が経った。最初こそ心配した。彼女は永遠を生きるとは言え浄化といくつかの力、それに姿形は変わらないとは言え人のそれと同じだったから。
 しかし、とも思う。そうは言っても、彼女は魔女だった。人とは異なる理を生きる彼女は、実はもう現状を打破しているのではないか? ――であれば、もう、ここに帰ってきてはくれないかもしれない。国王陛下が嘆きそうだ。
 本気で隠れられたらおそらくは瘴気の中、会合は難しいだろう。
 今までよく茶番に――付き合ってくれたと感謝すべきなのだろう。
「エーリク様!!」
 一人が慌てたように叫ぶ。地平の先から、獣? ――いや、あれは魔物だ。が、翔けてきた。剣をすかさず握り――髪がなびく姿にはっとする。
「待て!! ――アンジェ様!!」
 獣はあっという間に距離を詰め、止まると同時に、口に加えていた何かを心底嫌そうに吐き出した。土煙の中、伸びた物体。若い男だった。
「目の付け所と能力は悪くないから、厳重な監視下のもとで瘴気の研究をさせれば役立つわ――たぶん?」
 魔物の背から下りず、判断を下す、それは。
「アンジェ様――、ゆかれるのですか?」
「……居心地がよかったから、近づきすぎたわ」

「「辛いものも食べられるし」」

 続く言葉を重ねると、嫌そうに笑われる。
 しばし、視線を交わした。言葉は、なかった。微かに頷いたのを確認して――
「アンジェ様!!」
「連れてって!!」
 孫の双子が魔物の足にしがみついた。魔物が不愉快そうに口を開けて威嚇する。止める隙もない。食い殺されては――父親も騎士達にも緊張が走る。
 魔女が小さく呟くと、魔物は不愉快そうなまま動きを止めた。
「連れってアンジェ様!! 辛い料理なら……クルトが作るから!!」
「俺かよ!?」
 訴えながらも、アンリは泣きそうだった。クルトと二人して、魔物の足にしがみついた腕を放さなかった。
「――しつこさも遺伝なの?」
 どこか、諦めたような声に。不謹慎ながら笑ってしまった。
「はい」
 魔女は天を仰いだようだ。――続けた言葉は聞き取れなかったが、地平から足音が二つ聞こえてきた。最初の魔物より小柄な魔物が二匹。騎士達もおどろいている。
 三匹に増えたうち、新しい二匹が横に並ぶ。
「乗りなさい」
 絶対に放さないと言うようにしがみついていた双子がはっとして慌てたように魔物の背中に張り付く。
「クルト!」
 用意しておいた一抱えはある荷物を孫に投げつけると。受け取り損なったのか魔物の背から落ちた。――情けない。地面で不思議そうに荷物を開けている。……アンジェ様の視線が冷たい。
「新しい土地では、実がなるとよいのですが」
「結局葉っぱだったわ」
「至らず、申し訳ございません」
 男の回収を指示すると、これでもかというほどぐるぐる巻にされていた。ああ。紐を結ぶのも実は苦手ですよね? 全部固結びじゃないですか。あとで切るか。
「墓石を蹴っ飛ばしてやろうと思ってたのに」
「待ってて下さるなんて意外です」
「うるさいわね」
「不出来な孫が一緒じゃ、まだまだ死ねませんね」
「そうしてちょうだい」
 いつものように、楽しそうに、企みごとをするかのように。
「予算編成を新しくするように進言しときます」
「おい。国家予算」
 最後に、どんな言葉をかけたらいいのか、考え考えて、見つけられなかった。
「いってらっしゃいませ」
 アンジェ様はまた、おどろいて、そして――
「行くよ」
「行ってきまーす! お祖父様〜」
「お前達、迷惑をかけるなよ」
「がんばります父さん……でもこき使われるのは俺だと思う」
 クルト、間違いないぞ。

 走り出した魔物はあっという間に、見えなくなった。

「二人とも送り出してよかったのか?」
 息子に問い掛けると、肩を竦めた。
「寂しくはなりますが、止められるものではありませんよ。じいさんに似たんですよ」
 ――それも、そうだな。


 国王陛下への報告と行き違うように届いた手紙。
 なんでも魔物を従えた魔女が神殿で巫女に赤辛蕪のスープを要求し、さらに畑の食べ頃の蕪をねこぞぎ強奪していったらしい。
 正確に言うと、魔女が料理を堪能している間、小さいお付きはひたすら蕪を引っこ抜いていたとのことだ。

 ――ああ確かに。

 それは魔女の仕業だった。
2017.06.11

Back  Top  Next