「あ、アリスちゃん〜ママ、再婚することになるみたい」
 父の一周忌のその日、喪服を着たまま母は私に爆弾発言をした。
「……は?」
 客人も皆帰って、家に二人きり。今日はいろんな人に会って、疲れた。お風呂入って寝たい。
「娘か……本当に似ていないな」
「そうかしら? ねぇ?」
「どちらさま!?」
 家の中にいつの間にか、美形の青年がいた。金髪に青い目ってなに!? どこの王子様属性!?
 しかもその人は土足で、私はセーラー服のまま。いやそこは関係ないか。
「とにかく時間がない。きてもらうぞ」
 そう言って金髪の王子様が腕をふると、目の前が真っ白になるかと思うほど眩い光が溢れた。


「……?」
 とっさに目を守ったのか、顔の前に腕を掲げていた。一瞬の浮遊感のようなものを感じ取ったのち、足が地についた感触。目を開いた。
「なに!?」
 目の間には、城があった。それこそ某テーマパークのモデルかと言いたげな青い屋根のお城だった。
「あら。本当に青くしたの?」
「お前が言ったんだぞ」
「そうだったわねぇ」
「ママ!? なんなの!? どういうこと」
「やはり娘を連れてきたのは……」
「ええ? 私の娘がかわいくないとでも?」
「そうじゃないが……」
「アリスちゃんはまだ未成年で。保護者の許可がいるのよ?」
「そうか……すまない」
 口で謝りつつママの腰を抱いて引き寄せる金髪。
「聞いてないわね」
 されるがままのママもあきれ顔だった。
「いいから! 説明して!?」
 べりっと金髪を引きはがしてママに詰め寄る。さっきから金髪のママを見る視線が甘すぎる。なんなの!?
「もうアリスちゃん〜アリスちゃんも知っているでしょう?」
「だから何が!!!」
「ここはワンダーランド。お話したでしょう? ママ異世界に行ってきたのよって」
「信じられるかぁぁぁぁあああーーーーー!!!!!」



「説明してよ!!!」
「ワカナ。共に生きてくれるか」
「邪魔をするなぁぁぁぁあああーーーー!!」
 おそらく求婚していたのだろう。ママの前に跪いていた金髪を押しのけてママに詰め寄る。
「オーディ。話はあとで聞くわ。もうアリスちゃん。ここは異世界なのよ」
「その説明はなんだぁぁぁーーー!!?」
「ほら。ママ異世界に行ってきたのよって話はしたじゃない」
「あれはママが自作した童話だと思うことにしてたの」
「まぁまぁ。それでね。ママはパパを選んで元の世界に帰ることにしたんだけど」
「けど」
「彼があきらめきれなかったみたいなの」
「で?」
「今にいたると」
「断ってよ!!」
「誰が断らせるか!」
「うるさいこの粘着質!!」
「粘着……?」
「向こうの世界で「しつこい男」って意味合いかしら」
「……」
「オーディ。アリスちゃん切ったらだめよ」
「なんで剣!? どうして!?」
「まぁおちついてアリスちゃん。ところでそろそろお茶の時間なんだけど、準備はあるのかしら」
 ママはどこまでもマイペースだった。


 信じられないことに、あの金髪は王様だった。
「どういうことよママ!!!」
 っていうかこの部屋超豪華なんだけど!? さっきメイドさん出てきたんだけど!? どういうこと!? は、っていうかこのクッキーおいしすぎんだけど。
「ママ、再婚しようかなぁって」
「あの金髪と!?」
 吹いたわ!?
「確かに金髪だけど、名前もあるわよ。ぇえと、オーディ・えええエヴァ……」
「オーディルド・エルヴァン・シュベル・ディエンドだ!!」
 聞き捨てならなかったのか金髪が部屋に入ってきた。
「盗聴してんじゃないわよストーカー!!!」
「すとー……?」
「んーと「特定の人をしつこく追いかける人」のことかしら?」
「否定できないでしょう!!」
 そこだけえっへんと誇らしげな私。
「……」
「相変わらず長くて、オーディでいいでしょ?」
「ほら」
 ママがばっさり言う。がっくりと金髪は肩を落とした。
「まぁいい」
「でねアリスちゃん。彼がパパになるのってどう思う?」
「ママが決めることでしょ」
「でもアリスちゃん未成年だから。この世界で暮らすことになるわよ?」
「帰れるの!?」
「うんだから。お試し期間ね?」
「なんの……」
「アリスちゃんが、この世界で生きるか。帰るか。大丈夫、帰る時に時間の指定はできるから」
「ご都合主義か……」
「ワカナ、俺の意見は……」
「だって、それはお断りしたでしょう?」
 金髪が本気で凹んでいたちょっと同情。
「ちょっと待ってよ。別にママだけここで暮らせばそれでいいじゃない」
「アリスちゃん置いてなんてできないわぁ。まぁアリスちゃんが結婚するなら考えるけど」
「……ママ」


 まだも何か言い募る金髪はとりあえず別の人に仕事だと言われて部屋を出て行った。
「ワカナ様」
「あらアーベル。相変わらずいい男ね〜」
「それは陛下に言って下さい」
 また増えた……今度は黒い服を着こなした騎士風の人だった。っていうか、あの金髪より安心感が違う。
「あ、そうだアーベル。アリスちゃん案内してくれない?」
「は?」
「だってアリスちゃん。迷子になっちゃうわよ」
「――やめてその異世界イベントデフォルトーーー!!?」


 アーベルと言う男を紹介されて、迷子にならない程度に道を覚えてらっしゃいと放り出された。
「………」
 で、廊下が長すぎる。きょろきょろとあたりを見渡す。壊したらどうなるのかわからない高そうな花瓶とか絵とか飾ってある。
「……こちらは陛下がワカナ様のために用意した後宮なのですが」
「ちょっと待って」
 なんだ今の第一声。
「は? いえ何か?」
「用意したってなに?」
「新しく建てましたが」
「だってママいなかったじゃん」
「陛下は諦めてなったようです」
「で、今に至るのか……」
 っていうか広すぎる……

「ママ、思ったんだけど」
 とりあえず食堂と自分の部屋とお風呂の場所だけなんとなく覚えた。しかし、言いたい。
「電気はないわよ」
「……あえて言わなかったことをずばりと……」
「文明とは程遠いわね〜でも楽しみもあるわよ。刺繍とか」
 そう言って現地の本を読む母は、本当に異世界体験者なのだと納得した。
「あ、アリスちゃんのお部屋もあるんですって。オーディ用意してなかったのよ。ひどいわよね〜」
 そう言って豪華な部屋でくつろいだ母の部屋から離れたところに私の部屋があった。


「……」
 部屋の中に部屋がある。っていうかこの扉の数はいったい……ベッドでか。この空のクローゼットは何? あとこの本棚。本とか読めないのに、嫌味?


 ママと一緒にフルコースの夕食を終えて(金髪はいなかった)ので静かだった。っていうかおいしい。
「おいしい」
「食事は一級品ね〜」
 メイドさんに案内されてお風呂。でかい。っていうかこの大量の花びらはいったい……
 あえて思っていたけど、ドライヤーはないのよね……

 群がるメイドをとりあえずどうにかどうにか出てってもらって。念入りに髪を拭いた。さて、戻るか。


「ん……」
(ぎゃぁぁぁぁあああああ)
 部屋に帰るために唯一覚えた道を通って進んでいたら、進む先の窓枠に人影。この一角は王族用らしく、護衛も最小限らしい。ので……
「……ワカナ。本当に帰るのか」
(ああああぁぁぁぁぁ)
 往来でママに言い寄らないでほしい。いや他に誰もいないからいいのか? いいのか?
「んーそうねぇ……」
「本当に、ままならない女だ」
 もとより重なり合うほど近い二つの影が、引き寄せられるかのように合わさって行った。


「あーー……」
 あの金髪。絶対確信犯だ。こっち見て笑いやがった!!!
 むかついたので来た道を引き返す。のだが……
「っていうか夜なんすけど……おお」
 お城らしく中庭っぽいところに出た。ママの話だと今は春に似たスープリという時期らしい。外にいても温かい。眠い。
 噴水の前にあるベンチに腰かけて、ぼけっと水の流れを見つめる。
「……ん?」
 電気はないのに、どうやって水を流してんだ?
「ま、いいか」
 行儀は悪いが、知るか。靴をぬいでベンチの上に座り込む。流れる水の音に、さわさわと風の音が混じる。眠い。三人は腰かけられるベンチに横になって足を折りたたむ。ベンチは木でできているためちょっと硬いが、贅沢は言わない。
「……」
 最初は噴水を見ていた。見ていたのだ。そのまま寝たけど。


2014.09.07
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