「っていうかここにきて英語以外の言語を必死に修得……」
「姫様。そこのつづりは誤りです」
「すいません」
 この、この異文化め。
 と、部屋の中にアーベルが入ってきた。
「ん?」
「グリゴード様。いかがされましたか?」
 先生も不思議そうだ。
「……姫様。陛下に何か言いましたか?」
「いろいろ言ったわ、どれ? 撤回しないから。まだ足りないし」
「………」
 先生も沈黙した。
 アーベルはため息をついた。
「ワカナ様も笑うだけですし」
「ママがどうしたの?」
「いえ。失礼します」
「へ?」
 そう言ってアーベルは去った。
「なんだったんだと思う?」
「こちらも何がなんだか、……姫様。そちらもつづりが違います」
 ――っち。



「あ〜疲れた〜」
 ぐったりとでかいソファに倒れこむ。メイドさんがいい顔しないけど、無視無視! てきぱきと働くメイドさんがおやつのお茶とお菓子を準備してくれる。これ、けっこうすごいことよね。
 ……じゃなくて。


「外行きたい!!!」
「まぁ三日でお城のお姫様生活にあきるなんて、ママの子ね〜」
「嫌なことを思い出させるな……」
 金髪が本当にがっくりと肩を落としている。超見慣れた光景過ぎてなんの感想もない。
「町! 外! ファンタジーね!!」
「ママも行こうかしら。うーんでもー」
「どうしたのよママ」
「あ、アーベル丁度良かった。アリスちゃん。ママちょっと用事があるの。だからアーベルが案内してくれるわ」
「まじでー」
 ちらりとママの好みのタイプ=パパ似の男の顔をうかがう。こっちは無表情だった。




「すごいすごい!!」
 途中まで馬車。っていうか城は山の上だし。そこから歩いて町に向かう。まるで写真で見るようなヨーロッパ並みの光景が広がっていて、テンションが上がる。
 入り口の警備員はアーベルの顔パスで、町の中はファンタジーで!!
「アーリ様」
 走り出したくなる気持ちを見透かすようにアーベルが声をかけてきた。
「あれ!? あれなに!?」
「時計塔です。中は博物館になっています」
「違うわよ! あの屋台で売ってる揚げ物よ!!!」


「おいしー」
 塩味がきいたワンタンを揚げたような食べ物がおいしい。お城の料理はほっっっんっとにおいしいんだけど。こんなジャンキーなものも食べたくなるわよねぇ。ポテチとか原価の超安い棒ファーストフードのフライドポテトとか。カップラーメンに大量にすりおろしニンニクとラー油を投入したやつとか。ホットケーキに大量のバターと海かと見まがうほどのメープルシロップとか。大事大事〜
「あ、食べる?」
「仕事中です」
「うん。半分食べてくれたら違うのが食べられるから助かるんだけど」
「……無理に全部食べなくてもよろしいと思いますが」
「残したらもったいないじゃん!!」
「別の護衛にあげましょう」
「食べ残し押し付けたらかわいそうじゃん」
「私はいいんですか」
「だって隣にいるから? あ、あそこで果物搾ってる!! のど乾いた!」
「……買ってきます……」


 ということで半分食い倒れながら町を歩く。袋を傾けると黙ってアーベルが食べてくれるから存分に違うものを買う。
 あとママにお土産は何がいいだろう?
「うーん」
「悩むなら二種類でも三種類でも買って構いませんが」
「違うわよ! 確かに迷ったら両方! が鉄板だけどそれはそれとして、今ママのお土産考えてるんだから!」
 さっきパン屋でおばちゃんがこっちが一番人気で、こっちは本日のおすすめだよと言われて迷わず両方買ったことを根に持ってんのかこいつ。
「セレイシュ様ですか」
「誰それ」
「ワカナ様の別名です。お忍びで使うようにと陛下が命名されました」
「うわーあの病的ストーカー」
「アーリ様」
「と、カタカナ禁止禁止」
 お城では言いたい放題だけど。ふとふり返る。青い屋根のお城が見える。
「ほんっと、ファ……幻想世界ね」
 写真撮って写メ送りたいけど圏外……電気ないし。トイレもなぁ……でもお風呂とかかなり豪華だけどどうしてんのか? あの噴水も。
 まぁまぁそんなことは置いといて。
「ねぇあれなに?」
「あれは砂糖菓子で」
「あのさ。それも気になったけどあのオレンジの建物は? ……なんで衝撃受けてるのよ」
「食べ物以外にも興味を持つと思わなかったので」
「おなかいっぱいだから……なんて絶望的に頭に手を置いてるのよ」
「いえ。夕食は必要ありませんね」
「食べるから」
「………」
「夕飯どこに連れてってくれるの?」
「……」
「なんで黙ってるの」
「いえ。セレイシュ様が人に押し付けた理由がいったいなんなのか考えているところです」
「あんまり深い意味はないと思うけど。だってママだし」


「……ワカナ」
「アリスちゃんがいないからって、いつもより激しくない?」
「自分で追い出したんじゃないか……?」
「追い出してないわぁ。私だって遊びたいけど、でも外に出たら他の人が迷惑するでしょう?」
「俺の心配はしないのか……」
「……? 何かあったかしら?」
「……はぁ」


「んー……」
「さっきの店に戻りますか? ……なにをおどろいているんですか」
「びっくりした」
「わかりやすい顔をしてますよ」
「なんだろう。むかついた」
「日が暮れると徐々に店も閉まりますので、早めに終えたほうがいいと思います」
「え? ……あ、そうか。そうだよね」
 そんな日が暮れて夜まで見せ開けないよね電気もないのに。こういう時不便だなぁ。
「ん? 夕飯は?」
「食事のできる店は開いています」
「へぇ」
 よし。やっぱこれ買う。
「こちらですね」
「うん。それ、別々に包んでもらって」
「二つにするんですか」
「うん。私の分」
 また呆れられた。べー



 日が暮れかかって、街並みが赤く染まって行く。夕陽の色は同じで、安心する。これで太陽が二つとか月が二つとかじゃないし。
「あそこ楽しそう!!」
 暗闇の迫る街の様子は変化する。
「あれは酒場です」
「未成年〜でも夕飯〜」
「こちらでは十六からお酒が飲めます」
「……今新しいこと聞いた」


「アリスちゃん嫌いなの?」
「嫌いと言うか……」
「嫌われてる自覚はあるのね」
「……あの娘。似ていると思ったが似ていないな」
「智さんに似てるわぁ」
「他の男の話はするな」
「あら、そーぉ?」


2014.09.11
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