「もう聞いてよママ!」
「……ぇ?」
 最近ママは昼間でも眠そうだ。
「ママ? ちゃんと寝てる?」
「んーそうね」
「電気ないし夜更かしする理由ないじゃん……あの金髪を除いて」
「まぁアリスちゃん〜そんなこと言ったらだめよ〜じゃぁママはお昼寝」



「こんの最高権力者がぁぁぁああーーーー!」
「仕事中だ」
「うるさい! どうせ私に会うために時間割く気もな……なんでハリネズミ?」
 執務室だろう部屋の一番豪華な机の端っこに置いてあったのは、あの日選んだ木彫りの人形だった。ここ大臣とか宰相とかいるのになんでよ。
「………お前がよこしたんだろ」
「目つきそっくりだから」
「……叩きだすぞ」
「そうよ!! あんたが夜中ママを独占するから昼間ママが寝てて私のこと構ってくれないじゃない!」
「親離れしろ」
「しつこい男は嫌われるって知らないの?」
 金髪の手が腰元をさまよった。
「陛下、宝剣は現在宝物庫に収めております」
「何よ!? 私刃物嫌いなのよ!?」
「嫌いなのか」
「うん。先端とか」
 この前剣をつきつけられたことを思い出して背筋が寒くなった。ちょっとぞっとして腕をさする。
「その、この前はすまな」
「何? 聞こえないんだけど。どっち見てしゃべってんの?」
「……お前。喧嘩売ってるのか」
「どっちかって言うと吹っかけてきたのはあんたじゃないの?」
「……はぁ」
「あ、それでね」
「まだあるのか」



「はぁ」
 執務室にいた大臣があっけにとられている。嵐のように言いたいだけ言い放った娘は去った。ため息をつくと同時に、側近がお茶と軽食を目の前に置いた。
「押し切られてましたね」
「笑うな」
「いえ。申し訳ございません」
 ほほえましげに笑うな。
「あの娘と……家族になれるのだろうか」
「アリス様です」
 弱気になる自分に、側近が言う。そう言えばまともに名を呼んだこともない。謝るのも失敗した。
「本当に。ままならん」
 ふと目の前にいた大臣と目が合って、何も見ていないとそらされた。
「何か若い娘が好みそうなものを知らないか?」



「つまんない」
「姫様〜?」
「もう。お菓子おいしすぎるし。ママ昼寝中だし。言語上達しないから本読めないし」
 会話が通じるのはテンプレよね〜その勢いで文字が読めればいいのに……
「あの姫様。よろしければ」
「何?」
「いえ、その」
「は!! 別に私メイドさん困らせたい訳じゃないのよ!?」
「ええと?」
「メイドさんは正義よ! どこかの堅物と違って!!」
「私のことですか」
「またでたぁ!? 監視!? あ、はいはーい。町に遊びに行きたいでーす」
 この男。神出鬼没すぎる。せっかくのガールズトークの邪魔をしないでほしい。
「まだわがまま娘を続ける気ですか」
「嫌がらせ」
 語尾にハートマークの勢いで。
「陛下の許可がないので駄目です」
「脱走するわよ」
「鬼ごっこがしたいんですか?」
 負けそうだな……
「つまんなーい!!」



「ん〜アリスちゃん〜のほしいもの?」
「ああ」
「アリスちゃん物欲はあるけどこの国のことは知らないから下手に大量にものばっかりおくると機嫌悪くするわよ」
「どうしろと!?」
「う〜ん。そおねぇ〜」
 軽く首を傾げて、愛しい人が考える。その顔がかわいすぎる……いやまて、おちつけ。これで続けていたらまたあの娘の機嫌が……いやだからなんで俺がご機嫌をうかがわないといけない……んだろうが。
「やっぱり。外に遊びに行かせたほうがいいんじゃない?」
「外か……アーベルにも外出許可を求められたが」
「アリスちゃんもこの国に興味をもちはじめたんだと考えればいいんじゃない?」
「それは建前か」
「本音は暇なんだと思うわぁ」
「この親子は……」
「まぁまぁオーディ。アリスちゃんのこと嫌いなの?」
「邪魔だな」
「ひどいわね」
「ひどいのはお前だろう」
 また明日も、あの娘の機嫌が悪くなりそうだ。
「だけど、アリスちゃんはここには友達もいないし。さみしいのよ」



「っけ」
「姫様。陛下から外出許可がおりました」
「で、ママはひきこもりなのね」
「王妃様が外出されるとなると、陛下がご乱心でしょうね」
「……なんか大変なの?」
「そうですね。商店をすべて貸し切り、他の住民はすべて家に帰ることになるでしょうね」
「こわ!?」
 ママが外出を渋る訳だな。
「変態の相手は大変よね〜」
「誰が変態だ」
 金髪が部屋に入ってきた。メイドの背がピンと伸びたように思うが、別に敬意を払う気もない。
「変態って意味知ってるの?」
「知らないがお前の言う単語はだいたいろくな意味じゃない」
「よくわかってんじゃん」
「……お前」
「何よ」
「……お小遣いだ」
「あ、ありがと〜えっと、いちまーい。にまーい。……これいくら?」
「教えましたよね」
 アーベルがうしろで嘆いている。知らない。
「カンニングペーパー置いてきた」
「カン?」
「手帳よ手帳! 詳しく書いておいたの」
「これくらいも覚えられないのか……」
 金髪が呆れている。
「お土産買ってこないんだから」
「いらん」



「ということで、これとかいいと思わない?」
 よくわからんが筆記用具のたぐい。らしき何か。
「何がですか」
「金髪のお土産」
「買うんですか」
「嫌がらせ」
「……なぜ私に意見を求めるんですか」
「あなたが選んだって言うの」
 語尾にハートマーク、ハートマーク! 大事〜
「黙秘します」
「え〜つまり肯定ってことね」
「……」
 アーベルは何か言いかけた言葉を飲み込んだ。彼は大人だ。
「じゃ、これ。あとこれ」
「買い物好きですね」
「……別に」
「何か言いました?」
「別に買い物が好きなわけじゃないし」
「陛下への嫌がらせですか」
「そうかも」
「はぁ」
 ため息をつかれてなんかむかついた。
「こちらへどうぞ。姫様」
 と、突然恭しく手を出されてびびる。
「……? 誰あんた?」
「……いいから来い」
「……? なんで?」
「引きずるぞ」
「ええと。ごめんなさい」
 えーん怖いよーママー。


2014.09.14
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