で、結局。

「……いただきます」

 あのあとすぐに、やって来た王弟。また「何か魔法を見せろ」とか言ってきたけど、無視。呆れたような視線送る王。軽蔑するような視線を送った私。そうだ、コイツはディルと言う、と王は思い出したように言った。でそのまま、やって来た大臣達に王は連れられて、王弟――ディル様? は、教育係に連れさらわれて、私は客室に。ぼんやりしていると女性がやって来て、食事だって。

「………」
 無言で食べ始めている王様、王弟、王子。それを見送ってから食事の挨拶をした。
「……。おいしー」
 ちらりと、王の視線が動く。……なんか、また睨まれてない?
「どこがだよ」
「……ディル」
「だってよーこんなの一つ作るために命かけるんだぜぇーー信じらんねぇー。俺はこれが嫌いだって何度言えばわかるんだよ!!」
ガシャーン!
 派手に料理の皿を叩きつける。
「………」
 はぁっと、王はため息をついた。
「ディル、農作物を作る民がいてからこそ、私達は食べていける」
「そんなの、農民に生まれれば当然だろー」
 この国では、生まれ持った地位を越えて生きることは許されない。
「こんなもののために一生終えるなんて、俺には信じられねぇー」
 ふとこの前、王である自分に謁見を求めてきた老人を思い出す。彼は必死だった、生きるために。確かに身なりはよくはなく、薄汚れていた。生まれながら光しかあびていないディルの目には、彼は乞食と同じくらい醜悪(しゅうあく)なものに見えたのだろうか。あのごつごつとした手も、大地を見極める目も。
 ばたばたと給仕たちが床を掃除する。食べる気も失せたようにフォークで料理を遊ばせるディル。

「なぁ魔法で農業をしてくれよ。そうすれば醜い農民達を一掃できるだろ?」

 ぴしっと、切れた。

「ふざけ事を言ってるんじゃないわよこの馬鹿王子。頭悪いんじゃない?」
「なっ……」
「………」
 はらはらと、まわりがあわてる。
「一国の王子様は、ずいぶんと口だけなのね」
「なんだと!!!」
「………ここにあるものは、とてもいいものだわ」
 そう言って、目の前の果実を一つとる。
「今年は天候が安定しなくて、野菜も果物もあまりできがよくないのに。ここにあるものは形もいいし、味だって悪くない」
「はっそんなもの当たり前だろ、ここは王城だ」
「………そのあんたの、王城にいるんだからいい物があって当然だって態度」
 ぎろりと、睨みつけた。

「気に入らない」

「お前に気に入ってもらう理由がないね」

 ぶちっと、切れた。ここにくる途中でであった農民達はこの不作の中、王のためにと頑張っていた。私達の生活をよりよくするために頑張ってくださる王のために、精一杯の努力を、と。なのに、

「なのにその王城にいるのがこんなのなわけ……?」

 オリアは、自給自足が基本である。魔法使いは、そう簡単に馴れ合ったりしない。例えこの世に残ったのが自分一人でも、生きていけるように。イリースも畑を家に持っている。小さいが、一人で食べていくには十分だ。だからこそ思う、大地と付き合っていくのはとても大変である、と。

 実はここに来て道に迷った私をこころよく迎え、面倒を見てくれた家族。これから王都に向かうからと送ってくれたおじさん。選りすぐりのいいものを、大事に大事に傷つかないようにつつまれた野菜、果実。一つ、くれた。

 なのに、

「―――あんた、ちょっと来なさい」
「は?」
 低い低い声で言う。アホみたいに問い返した王子の椅子の隣まで歩いて、腕をつかもうと伸ばすと、兵士よりもいい身なりの護衛に逆につかまれた。――痛い。
「女、席に戻れ」
「いやよ」
「お前何をする気だよーー俺に」
「放してやれ」
「?」
「ぃ! 兄貴!?」
「何をする気だ?」
「殴っていいですか?」
「―――お前を牢に入れたくはない」
「………はぁ。では、ちょっと借りていいですか?」
「好きにしろ」
「兄貴!!?」
 護衛を睨みつけて引き離し、王子を立ち上がらせた。
「行くわよ」
「どこにだよ!!」
「……あんた、なんだってそんな目立つ格好しているわけ?」
 はっきり言って質素な王と違い、服装も何もかも豪華な王子。
「はぁ? どうでもいいだろ?」
「………。まやかしの森の霧よ、目くらましの風よ。彼(か)の姿を変えよ」
「うわ!」
 一瞬、青い霧が彼を包み込み、風が吹きつけて霧を晴らすと、そこには……
「まぁ、こんなもんね」
 惜しげもなくゆれていた金の髪は茶色に染まり、顔は薄汚れている。服装も、一見すればただの村人にしか見えない青年が立っていた。
「……ちょっと古すぎたかしら?」
 そう言ってイリースは自分の髪を一つに結びなおす。服装はそのまま。
「じゃ、あんたジャックね」
「なんだよそれ!」
 ディルは私に怒鳴りつけて、周りの人々が呆然と自分を見ているのが見えて首をかしげた。
「何だよ!?」
「……ぁ……あれを……」
 かろうじて、さっきの護衛が窓を指す。
「ん? ………なっにぃーーー!!!?」
「あら、いい叫び」
 私の性格が歪んでいるといわれる所以(ゆえん)はここにあるらしい。失礼だわ。
「もとに戻せ!」
「あとでね。いいじゃない実践してあげたのよ」
 魔法を。
「ふざけんな!」
「……っとそうだ、王様これを……」
 と、一抱えもある水晶をどっからか取り出した。
「なんだ?」
「連絡兼場所特定にどうぞ」
「………?」
「行くよジャック。言っておくけれどお姉さまに逆らったら容赦しないから」
 そう言って、腕をつかんで開いていた窓の先のバルコニーに向かった。
「放せ!」
「風の息子らよ、飛ばせ我らを。あの土地の家へ」
 びゅぉっと、風が吹きつけた。

「なっ……」
 王が絶句したのも無理はない。一陣の風が止むと、二人の姿はもうその場になかった。

「どこへ!?」
「あの魔法使い! 王の御前で何を!」
「探せ! そう遠くには行っていない!」
 慌てふためく兵士達、侍女。
「王! 出動のご命令を! あの魔法使いの首を取ってまいります!」

 ―――ふざけた事を。
「大丈夫だ」
「王!」
「彼女はこれを置いていった。」
 そう言って水晶を見る。
「しかしっ」
「くどい」
 だが、どうすればいいんだ?
 今にも出陣しそうな兵士達を黙らせて、王は使い方のわからない水晶を前に途方に暮れていた。

『………さ、ま』
「ん?」
 そんな中、かすかに声が聞こえる。
『……王、さ…ま』
「なんだ?」
 周りはざわついていて、聞き取れない。
『王様! 聞こえますか?』
 いきなり、水晶が光り輝いた。
「………な、に?」
「父上ーーなんでそれ光ってるの?」
 ローツェの言った通りだ。イリースからもらった水晶が、はたでわかるくらい光り輝いた。
「………イリース?」
『あ、よかった! 聞こえますね!』
「ああ」
『じゃぁ、今度は……』
「………?」
『見えますか?』
「……ぁ、ああ……」
 水晶の中に、イリースとディルが見える。あろう事か二人は、小さな農家の家の前にいたのだ……

「何が見えるのーー!? 見えるのーー?」
 のほのほと、ローツェが近づいてきた。


「………ぐ……頭いてぇ……」
「あれぐらいで? 本当なよっちのね」
「この……? なぁぐっ!」
「ちょっと、もう夜なんだから静かにして」
 口を塞いで、黙らせた。
「ぬな!! ぬぬぬななな……」
「ふふ、私の偉大さを思い知った?」
 にやりと笑った。その視線にピシッとディルの行動が止まった。
(なんだ、この女……)
 底知れぬ恐ろしさを感じる。――身が危険だ!!
「さぁ、いくわよジャック。あんたは私の弟、少し前まで王都に住んでいて、私達は田舎の家に帰る途中。いいわね?」
「なんだよそりゃ?」
「いい、わね?」
「……はい」
 従っていたほうがいいみたいだった。威圧感が兄貴に似ている。そう、上に立てるものの資質だ。
「あ、私はリースよ。お姉さまよ?」
 にっこりと、イリースは笑った。
「はい、――姉上」
「よろしい」



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