「王!」
「陛下!!」
 叫ぶように声が聞こえた。松明の灯りも。
「ユーズ! こっちだ!」
「――ちっ」
 生き残った男のうち、一人が舌打ちをする。
「撤退(てったい)だ!」
 転がった死体三つを抱えて消え去る男達。
「逃がすな!!」
「まて、ユーズ! 深追いはするな!」
「しかし陛下!」

 そうこうする間に、黒い影は闇にとけて、消えた……

「………びっくりした……」
 イリースは地に座り込んだ。

 あれだけの魔法を驚いたまま使い切ったのだ、その実力は本物だろう。フィリレークはすぐさまイリースに駆け寄った。
「――大丈夫か?」
「ええ、まぁ……」
「イリース!!」
「ぎゃぁ!」
 手を伸ばしてきた王を押し切って、ローツェが突進してきた。
「大丈夫怪我してない!!?」
「え? 怪我? ぁあ、ここだけ」
 ざっくりと、切れた左腕。
 ひーーと、ローツェは青ざめた。そのうしろで父親も青ざめていた。
「早く! 医師を!!」
「え? ちょっと、これぐらいは大丈夫ですから!」
「そういう問題じゃない!」
 声を張り上げたフィリレークと、あわてるローツェ。ようやくやって来たディルでさえ、同じように医師を急いで呼びつけた。

 いや、別にこれぐらい平気だけど……


 それよりも、頭から血ー流してるフィリレーク王は平気なのか?






「オリアの魔法使いイリース・エリアよ、礼を言う」
「ありがとうございます」
 あれから二日、すぐに城の警護は強化された。そして、ローツェを守った私は、王から直々に礼を受けると共に謝礼を受け取った。
 って、今更よねぇ?

 ローツェとフィリレーク王の証言で、敵に魔法使いがいたと人々は知った。そのために魔法使いをオリアから呼びつけたのかと、城中の人々は納得だ。なんだか知らないけど、私を拝むのは止めてくれない? ただの偶然だから!!

 ますますフィリレーク王と会うことは叶わなくなった。だって、昼間は人々に囲まれるんだから!!

「はじめましてイリース様。私は……」
「はじめまして」
 愛想笑いも固まってきた。なんでも、私みたいな魔法使いを自分の手中に収めようとする輩(やから)が多いみたいね。迷惑な!


「つかれた……」
 昼間の人付き合いに疲れて部屋に帰るとすぐに眠ってしまう。そんな日々が長く続いた。






「――今日も、いないか……」
 陽が沈みきった夜。人々は眠りについてもういない。そんな時間。フィリレークはまた、あの庭の長椅子の所にやって来ていた。

「イリース」






「…………ん?」
 ふっと、目が覚めた。窓のカーテンがはためいている。
「そっか、開けっ放し……」
 寝台から滑り降りて、窓を閉める。
「………」
 たったそれだけの作業に、目がさえてしまった。
「ん〜〜」
 少し伸びる。今閉じた窓の外から伸びてきた光に目を向ける。



 あの日と同じくらい輝いた三日月。それは、二人を引き合わせる月のいたずら。








「フィリレーク王?」
「フィリレークだ、イリース」

 長椅子の前で、再び、二人。



「―――座らないか?」
「あっとーー」
「もう、何もしない」
 かっと、顔が赤くなるのがわかる。いくら忙しかったとは言え、広いようで狭い王城だ。あえて王を避けていたのも、ばれているのかもしれない。
「失礼、します」
 ゆっくりと腰掛けた王の隣に、また座る。今度は二人の位置は逆だ。

「「………」」

「あの、お、?」
「フィリレーク」
 イリースの唇に人差し指を当てて、口をふさぐ。そして小さくつぶやく。
「フィリレーク、王?」
「………」
 また、睨まれている――だからなんで!!
「名でいいと言っている」
 だーかーらーー!!
「私が王を名のみでお呼びできるわけないでしょう!」
「俺が許す」
「はぁーー!!!?」
「そう、叫ぶな」
 無理!!

「………そんなに、嫌か?」

 少し、しゅんとしたようにフィリレークが言った。
 そりゃぁもう! と言うようにうなずくと、がっくりと沈んだ。
「―――イリース、俺は……」
「はい?」
 不思議そうに首をかしげ、フィリレークの顔を覗き込むと慌てふためいた。
「いやっだから!」
「ですから?」
 なんなの?
 覗き込んだ目が合うとふっとフィリレークが笑う。その、表情――
「つっ!」
 一瞬であの日の夜を思い出したのか、イリースが立ち上がりこの場を去ろうとする。
「イリース」
「はっなして」
 焦って腕をつかむフィリレーク。正面を見ることもできずにうつむくイリース。
「な、にもしないってさっき……」
「逃がすとは言っていない」
「それってさーー」
 詐欺?
「……イリース」
「なんで……」
 ふと、イリースは言葉を切った。力強い大きな手が、私の腕をつかむ手が、震えていた。
「? フィリレー」
 不思議に思って、顔を上げてみた。王の名を呼ぶ途中、抱きしめられた。

「――――俺と、結婚してほしい」

 月明かり照らす夜。月の光に引き合わされた二つの影は再び、月のいたずらに一つに合わさった。



* End *


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