「おおお王女様―――!!!?」
 血相を変えて大臣が、王女のいる部屋に入ってくる。

 服を着替えて髪を梳かしてもらっている王女は、顔色一つ変えずに窓の外を眺めている。そう、まるで大臣などいないかのごとく。―――見た目は。

 ………今日はどうやってばっくれるか。
 王女に扮した王子藺志(いし)。今日も逃走考え中。

 それもそのはず、求婚に来た国内の貴族達が、それも大臣に負けないくらい血相変えて逃げ出したすぐあと。



〜アホな大臣イジメぬけ!〜



「――――まぁ、どうかなさいましたの?」
 かわいく、ほほえんでみる。ここら辺努力の賜物だ。―――が、それを藺宇(いう)に言ってはおしまいである。
『―――同じ顔で笑わないでよ気持ち悪い』
「…………」
 思い出してへこむ藺志。
「どうかではありません!」
「なぜ彼らは帰って」
「帰りたくなったのでしょう?」
 ――――帰らせたんだろう?
「私としてはもう少し国内の現状が聞ければ藺志の役に立てましたものを………」
「それは恐ろし…」
 ――――ぴし。むかつくぞおい。何が恐ろしいだ。俺なんて藺宇に比べりゃ数倍はましだぞ。まし。
「と、とにかく王女様――」
「確か、あの金の髪の方は貴方の推薦でしたわね」
 ひくっと、大臣の一人が固まる。
「国外の国の王子がいいけれど、こうなったら国の中からでも! ですの?」
「いえ、実は他国の王子より国内有力貴族のほうがお好みかと……」
(好みの問題じゃねーーだろ)
 本人の問題である。本人の。
「王女様!!」
「「今度こそ」」
(―――あ?)
 大臣達が合図すると、部屋にテーブルが運ばれてくる。――――手紙の山。
「「「読んでいただきます!」」」
(ぜってえ、嫌だね)


「これは、一度この国にきてもなお! 王女様にと……」
(どこのどいつだそんな奇数な人間。ちっ今度からもっと徹底的に潰すか)
 間違いなく、藺宇は大賛成だ。むしろ嬉々としてはでに………大丈夫だろうか?
 藺宇の餌食になる男の心配をしだしたのは――――最近か。さすがに窓から包丁が落ちてきたときは内心で焦ったぞ。

 …………。ま、いいか。死ななければ。


「ふ〜〜ん」
 手紙を見比べては、投げ捨てる。大臣達は、はらはらいらいらと見ている。
「王女様!!」
「なによ?」
「なぜお開きにならないのですか!!」
「(読みたくないから)―――だって、筆跡が気に入らない」
「「「………」」」
 ぱたりと、一人は頭を抱えたまま倒れた。
「これは、インクの色が気に入らない」
 ――全部黒だ! 黒!!
「気に入らないの!」
「で、でしたらこの青インクなど……」
 掘り起こした大臣。―――なんだってそんなのがあるわけだ?
「青? 緑がいい」
「―――ありました!!」
(………何で!!?)
 机の上を引っ掻き回した大臣が得意げに一通の手紙をかざす。―――大臣達はほっと一息&さっき倒れた大臣復活!

「「「どうぞ! 王女様!!!」」」
「…………あ、風が……」
 わざとらしすぎないように手紙から手を放す。するとひらひらと手紙は落ちる。だがしかし、なぜだか部屋を通り過ぎた突風にごぉ!! っと連れて行かれた。
「………よく飛んでいくわ〜〜」
 満面の笑みで王女。
 大臣呆然。

「いい天気ね〜〜そう思わなくて?」
「そ、そうですね」
 まだショックから立ち直れない大臣。返事返すだけでいっぱいいっぱい。
「こんな日は……」
「こ、こんな日は?」
 にっこりと、王女は微笑んだ。
「城下を歩いてみたいわぁ」
 そういって王女は、机の上にあった手紙を派手に払って部屋をあとにした。
「あ、片しといて」


「「…………」」
 もくもくと、大臣が手紙を拾っている。――――部屋の端で掃除にきた侍女が笑いをこらえていた。
「………は!?」
 青いインクの手紙を拾った大臣が、われに返った。
「なんで私がこんな事を!!? ………王女様? 王女様ぁ!!?」

「また逃げられましたのね。」
 侍女の小さな一言。

「「「また逃げられたーーー!!!!」」」

 またまたまた……でしょう? ―――侍女のつっこみはきつい。
 さて、廊下にいた兵士達は走り去る大臣に道を開けた。――――むしろ逃げた。




「また、今日もいい天気だな」
「そうですね。」
「――――鍵をしめろ」
「は」
 執務室にいた王子。弦鋼(げんこう)。閉じられた扉。
「王子様!!」
 ―――そしてなぜか、壁を登ってくる大臣。
「「………」」
 明日はここをしめるか。
 明日は、ここもしめなければならないのか。

ぱしっ!
 最初に窓枠かかった手を払った。

「おーーぅーじーー……」
 一人、落ちた。……一人だけ。

「王子様! 王女様はどちらに!?」
「知らん」
「あの手紙を、どうなさるおつもりですか!!」
「………」
 生き残った二人目が鍵をあけ、やって来た台車。紙の山。さっき落ちた大臣。
「………」
 なにか? 返事でも書けと? ―――冗談。
「資源の無駄遣いだな………そうだ、当分藺宇宛ての手紙はすべて送り返せ」
 どうせ、私に来る手紙はそれだけだ。
「なななな何を!!?」
「この手紙は、……ぁあ!」
 全部求婚手紙じゃないの。読んでて笑っちゃうような文句しか書いてないし……ねぇ、新聞にして国中に配って笑い飛ばすってどうよ?

「ななんですか?」

 あ、でもそんな事言ったらどこかの誰かが迷惑(清書する)こうむるしねぇ。

「…………」
「おーうじ?」

 あ、あきた。もうめんどい。

「――――おい」
「は?」
 いきなり低くなった王子の声、大臣共はひやりと冷えた空気を感じた。
「なぜ俺がいちいち藺宇の事までやってやる必要があるんだ?」
「「「………」」」
「第一、見ろ。」
 どーーんと、書類………執務室の机の上。
「俺の時間を無駄に潰させるな――――そうだな、おい北大臣」
「はぃい!?」
「お前にはこの地区を預ける―――明日までに今年の降水量と収穫量と土地の広さからいくら税金を取るか原案をまとめろ」
「――――」
「南大臣。お前は領地内で行っている税金のへそくり分を持ってこい」
「ぉぉぉぉ王子!!?」
「東大臣。」
「はっ! はいなんで……」
「帰れ。………というか、全員出て行け!」

 部屋から大臣を追い出そうとする。が、しかし大臣も負けない。

「何をおっしゃいますか王子!! ―――だ、誰が税金をひったくってなど…」
 墓穴か?墓穴なのか?
「ひったくったのか」
「―――」
 ずごーんと、ショックを受けた大臣。
「さっさと全額持ってこい!」
「は、はい!!?」
 大臣は走り去った。………よっしゃ一人目。

「王子! 原案ならすでに提出しておりま…」
「あれか?」
 書類。―――ゴミ箱。
「なななな…」
 あわてた大臣が拾い上げると、かろうじて原型をとどめていた燃えカスは崩れ落ちた。同じように大臣も崩れ落ちた。―――はい二人目。

「なぜ帰らなければならないのですか!!?」
「――――お前は………なにか、俺の邪魔をするために来たのか!!?」
 いい加減邪魔だ!

「違います!」
 いきなり、沈み込みはじめた大臣が跳ねた。

「王女様の結婚のために」
「(―――誰がするかぁ!!!)……帰れこの干物!!」
「ひものですとぉーーー」
がん!!
 いい加減目つきがきつくなった王子の命令(何も言っていない)。しかし、目が物語る。―――黙らせろと。を聞いた弦鋼が、ようやく剣の柄で東大臣を昏倒させた。

「全部捨てて来い」
「―――道に?」
「穴に」
「掘るのですか?」
「そして埋めろ」
「………王子……」
 そうは言っても、とりあえず邪魔なことこの上ない。なので、外にいた兵士に引き渡した。

「―――まったく」
 がたんと、王子は椅子に座りなおし、書類に手をつけた。
 閉じて鍵をしめる扉。二つある鍵をしっかりと閉める窓。
「………王子」
「なんだ」
「こちらは、いかがいたしますか?」
「灰にしろ」
「………」

 よく、のろしが上がる城だった。


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