〜初交換 すべてが始まる〜


「やーだぁこんな服」
「王女様……」
「もーーっと壮大なのがいい」
「……」
「だいたい、あんたの選んでくる服はいや」
「そんな王女様」
「いっつもいや」
「………」
「何この色」
「え? ですが」
「わたし、こんなに薄い色は嫌いーー」
「……」
「それに、これは前に着たからもうあきたしー」
 下着姿のままで、王女―藺宇(いう)が言う。風邪でもひかれたら困る。侍女は大慌てである。
「そんな王女様。でしたら、新しい服をお持ちいたしますから」
「壮大なのって言ったでしょ? 聞いてなかったの?」




「あれ、藺宇はまだ着替え?」
「はい……」
「で、俺の出番?」
「お願いいたします」
 とっくの昔に着替えを終えた王子―藺志(いし)は、のんびりと食堂の席を立った。



 さて、もう藺宇いるの部屋は目の前。


バァンッ!!
「……っ!」
 侍女の一人が泣き出しながら走り去った。

「………またですか……?」
「みたいだね!」
 この国の王女は、気まぐれが好きだった。―――そう、いつも着替えに時間がかかるのも、侍女を追い出したのも、いつもの事。気まぐれ―――だと思った城の人々。

 ノックもなく部屋に入っていった藺志の次に弦鋼(げんこう)が入ろうとすると、花瓶が飛んできた。



「遅い!」
「しょうがないだろ? いつもと変わらない日々を送るんだから」
「でも遅い!」
「……でっ! 悪かったって」
 ぼすどすと、手元にあるものすべてを投げつけたいらしい藺宇。素直にあやまった藺志。

「とにかく、だ」
「ね!!」
 そうして言うと、笑顔で同意してくる。

「王女様はひらひらのドレスに」
「王子様は王様となって」

「「そんな御伽噺(おとぎばなし)はつまらない!!」」







「どうかしまして? 弦鋼様」
「侍女長様」
「聞きましたわ。王女様の服を王子様がお選びになっているとか」
「そうだったのですか」
「……知らなかったのですか?」
「そうです……そちらは?」
「こちらは私の孫娘、茉衣莉(まいり)。ご挨拶を」
「はじめまして弦鋼様。茉衣莉と申します」
「ああ」
「ゆくゆくは御二方の侍女にと、考えております」
「今から、お育てに?」
「もちろん。何かと、ご迷惑をおかけする事になるでしょうが!」
「おばあ様! そんなこと仰らないで!!」
「まぁ、茉衣莉。あなた……」
「〜〜〜」
 真っ赤になっている娘を見て、かわいいものだと思う。






「ふんふ〜〜ん! ねぇ! 似合う?」
「……似合ってるにあってる」
「何!! そのやる気のなさ!!!」
「それよりも俺のほうが似合うだろ?」
「…………」

 黒の軍服の王女と、薄いピンクでひらひらドレスの王子。

「一度着てみたかったの〜〜」
「さすが俺、何を着ても似合う」

 でかい鏡があって、よかったね。

「さて」
「ね」


 二人は、向かい合って。顔を見合わせた。
 ―――右手を肩に左手を前に―――

『―――』
 耳に聞こえる母の声。覚えている、覚えている。忘れない。

 昔の、昔々のおまじない。はじまりと、おわりの合図。


 さぁ、今がはじまり歌いだし。双子の王女と王子様。今日もどこかで語られる? 二人が楽しい物語。―――物語が始まる。






ばん!!!

「あれぇ〜〜絵瑠華(えるか)婆だ!!」
「本当!」
「王子様王女様、お着替えはおすみで?」
「「うん!」」
「御急ぎ下さい。料理がお待ちですよ」
「あなた、誰?」
「……」
 弦鋼が先を促すも、小さな王女の関心は朝食に移らない。じっと見られているのに、茉衣莉は何も言えなくなっていた。
「まぁ、茉衣莉。王女様申し訳ありません。あとで、ゆっくり紹介いたします。ですが、今はご朝食に」
「いやぁ」
「行こう藺宇。料理長が首をつってしまう前に」
「えーー」
「今日はコーンのスープだったよ」
「行くわよ藺志! 早くして!!!」
「そうだね」
「「「………」」」

 どれもこれも、いつもの事だった。誰よりも先を走っている王女と、あとを追う王子の表情が、にやりと笑っていた事を除けば。



「スープスープ!」
「俺の分まで食うな!!」
「まだありますから王女様」
「だって藺志」
「………」

 そんな感じで、遅い朝食は終わる。




「おはようございますメイア先生」
 裁縫の先生にご挨拶。昨日の刺繍(宿題)は終わっている。

「王女様! ようやくやる気が!!」


「おはようございますエジェバン先生」
 歴史の教育係にご挨拶。ノートはすべて埋まっている。

「さすが王子様! 私は信じておりました!!」


 普通、疑えよ。






 午後となって、王女は絃を弾いていた。

ぽろんぽろん!

「すばらしいですわ王女様! 今日が初めてだとは思えませんわ!」
 笛の時のぐずり具合が嘘のよう。とほめたたえるも、いやこれだけ習えば弾けるようになるだろうと藺志は思う。
「先生。わたし、才能あるの?」
「ありますわ王女様!!」
 笑顔が作りきれずぎこちなく微笑む。それが、謙遜するように微笑む少女に見えて、いっそう楽器の先生は喜んだ。

「ついに、ついに目覚められたのですね!!!」

 ―――何に?

「さあ王女様、休憩にいたしましょう」
「もし、よろしければ先生もご一緒いたしませんか? もっと、楽器の話などお聞きしたいですし」
「王女様……」
 エルミーナ(音楽の先生)は感激して声を失っていた。
「……ぁ! でも先生忙しいかしら……」
「大丈夫です王女様! ご一緒いたします!!」

(―――ちょろいな)
 楽器を弾きたいと思っている藺志には、エルミーナを味方につける事が最優先事項だった。



「あーーねーむいー」
「王子様」
「昼ごはんのあとだから、眠い」
「今日も、お話の途中で居眠りなどなさいませんよう」
「……」
 偉大なる創設者についての話を聞いていると、確実に王子は途中で眠る。一心不乱にあることないこと話を盛り上げる学者は、気がつかない。

(歴史はおもしろかったなーー)
 藺宇はこの学者の話がつまらなければ、いつも(侍女)のように追い出すつもりだった。

「大丈夫だ、聞いているから」
「寝ながらですか?」
「まぁな」
「そういうのは言い訳にはなりません」





「ふ〜〜んお茶ね」
「お気に召しませんか?」
「べっつにー」
 青空の下。満天の太陽。なんで、澄み切っているのだろうか……


「あれはもう呼ばなくていい」
「王子様……」
 王子の勉強部屋。身体に似合わず大きな机。白が、基調な部屋なんですか……



 そうして、二人。二人してこれからが過ごしやすいように変えていく。





「あーー面白かった!」
「少し声を抑えておけよ」
「わかってるわよ!」

 夕日も沈んで、真っ暗闇。同じくらい黒い二人組み?
 ワイシャツ一枚で藺宇はベッドに寝そべっている。うつ伏せでひじを立てて、足をばたつかせる。髪に止めてあったピンとひらひらな服を脱いで着替えた藺志が同じベッドに座る。

「ねねね! あの学者追い出していい!?」
「眠くなるしなーー」
「本当! つまんないし」
「エルミーナ先生は駄目だからな」
「気に入ったの〜〜?」
「俺は弦を弾きたいと言ったよ」
「……そうね。まぁそっちは任せる」
「そういえば、いいな」
「何が?」
「お茶」
「はぃ?」
「黙っていても菓子が出てくるのはいい」
 おいしさに言葉を失って黙々と食べていたら、次々と新しい物がやって来た。
「……何も言わないと、気に入らないと勘違いしてほかの持ってくるわよ」
「そうなのか!?」
「そうなった」
「………」
 少し、同情した。
「私のほうもいいわぁ〜〜ふふふ、隠された歴史! 隠蔽(いんぺい)工作!! そしてはじまる帝王学……」
 うっとりとほほを染める少女―――らしからぬ藺宇。
「勝手にやってくれ」



 二人はそのまま話し続けた。これからと明日を。


 そして、数年。


 国の柱の王子様。
 結婚しない王女様。

 小さな小国大きな噂。


 物好きたちが、やってくる。



ようやく書けたってか書いた。
いやぁ、うまいつっこみ☆(自分で言ってるよ…)
例の夜の次の日ですな

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