〜平和を求めて三千里〜 前編

「そんな無礼があってたまるものですか!」
「やはり、そう思うか?」
「そうですロール王子!!」
「はーーはっははh! この恨みはらさずにはおくべきかぁ!」



 今日も今日とて平和な優麗国。城内。いつものように王子様が執務室で書類にサインをしていると――
「大変ですぞーー! 王子〜〜!!?」
「なんだ、駄目大臣」
 あ、これごろよくない? よくない?
「ななんとー!?」
「駄目大臣ですとぉー!?」
「響きがいいじゃない」
「確かによい響き……ではありません!」
 ――ちっ
「大変なのですぞ!?」
「なんだ、また藺宇が脱走したのか?」
「それは日常の出来事ですぞ王子様」
「まったくもって大変なことに分類されません」
「あの王女も、まったく、小さいころから変わりなくお転婆で」
「学習能力の低いものですなぁーー」
「「「「小さいころから」」」」
「お前達、減給」
「ななんですとぉー!?」
「なんですとぉー!?」
「んですとぉー!?」
「ですとぉー!?」
 わぁ、きれいなハーモニー?
「でどうした。また税金をひったくったのか?」
「ひひひひったくるなど!?」
「懐に入れるなど!?」
「ちょっと私用に使うなど!?」
「してるのか」
 減給ね。本当に。本気で。覚悟しなさい。
「くだらん。さっさと帰れ」
「そうではありません王子!」
「大変なのです!?」
「だから、なんだ」
「クリーム国が攻めてきました!」
「――弱そうな国だな」


「王女の横暴を許すなーー!」
「ぉおー!」
「わが国の王子を侮辱した罪は重いー!」
「ぉおおーー!」


「……なんだ、あれは?」
 望遠鏡から目を離して、藺志王子は言った。望遠鏡で覗いた先には、海。その先に軍艦がいた。
「ですから、クリーム国王子、ロール・スフレ・クリームを侮辱したと怒っているのです」
 うんうんと大臣共が頷いた。
「誰のことだ?」
「先日、この城内を焼き菓子臭くした張本人です」
 弦鋼がわかりやすく説明した。
「ぁあ、あの迷惑な――なるほど、騒がしいわけだ」
「そうなります」
「で、人数は?」
「海軍が来てます。軍艦が20隻。兵の数は……」
「二十? 暇なのか?」
 そんなに動かすなんて〜こんな小国に。
「それは、そうなのでしょうが」
「それとも、俺がそれくらいで倒れると思っているのか?」
 私が。
「――おそらく」
 はぁと、弦鋼はため息をつきたい気分だった。この王子を相手にするには軍艦が二十隻でも少なく感じるのはなぜだろうか。
「弦鋼」
「はっ」
「お前には別仕事をしてもらう」
 もちろん、降ってくる火の粉は払われるものよ。



「まぁ、あの時の王子様ですの?」
 きょとんと、王女は首を傾げた。彼女が彼を思い出すまで、多少時間がかかったのは、たぶん、もう彼の頭に彼のことはすっぱりと消えていたからだろう。
「ああ」
「あの、馬鹿みたいに自分から大量にお菓子を持ってきてくださった?」
「そうなるな」
「困りましたわ」
「そうだ――まったく、余計なことをねぇ!」
 それまで穏便に話をしていた王子は、王女に掴みかかった。
「ちょっと待て!? 俺のせいか!? あれは自滅だろう!?」
 寝台の上に座って必死に刺繍をしていた王女はあわてた。
「自滅は自滅でもあとからやってくるなんて、しつこい男は嫌いなのよね。潰したくなるわ」
 低い、白いマントを羽織ったままの王子の声が低い。
「……準備してるんだろう?」
 にやりと、王女は笑った。
「もちろん」
 にやっと、王子も笑った。
「ただ時間がかかるから」
「……から?」
「あんた、足止めしてて」
「えーーあの馬鹿をかー」
「文句あるの?」
「ないです」



「お久しぶりですわぁ王子様。いかがいたしましたの? こんなにたくさんの兵隊さんと一緒に」
「ぁあ王女藺宇。相変わらずお美しい。ですが、申し訳ありません。いくらアナタのお願いとはいえ、これ以上はもう聞き入れることはできません」
「なぜ、ですの? 私がお嫌いに?」
 ひどいわぁ。私が何をしたとおっしゃいますの。と、王女は涙を流した。
「そっそんなことはありません! ありませんが――」
「でしたら、どうしてですの?」
「いいえ、これはアナタには話せません。ですがわかってください。これはアナタのためでもあるのです」
「私――王子様と藺志が争うなんて信じられませんわ。どちらを応援したらいいのかしら?」
「……王女?」
 あれ? そんな明るい話だっけ?
「でも、勝敗はどうやってお決めになりますの?」
 さっきまで泣いていたはずの王女はけろりと聞いてくる。変だなーーさっきのは幻覚?
「それは、アナタの目に見える形で決着がつくことでしょう」
 まぁ、いい。決着がつけばいいだけの話だ。
「そうですわね!」
 なんだろう、疲れる。この王女は本当に現状を理解しているのか……? と、ロール王子が疑問に思ったその時背後から声がした。
「あの、王子……この女性はいったいどなたですかな?」
「ガナッシュ大臣……」
「ガナッシュ!?」
 おいしそうだな。チョコレートケーキ食べたくなるなぁ〜作ってもらおう〜
「ああ、紹介します王女藺宇。わが国の大臣、ガナッシュです」
「はじめまして」
「大臣、こちらは優麗国王女――」
「ひどいわ!!!」
「……はい?」
 突然叫びだした王女に、ロール王子は首を傾げた。王女藺宇はテーブルにバンと両手をつけたままふるふると震えている。
「あの? 王女?」
「どうしてっどうしてなの!?」
「あの、何がでしょう?」
「なんでガナッシュなんておいしそうな名前なのに二頭身のおじさんなのよぉーーー!!!」
 王女は、走り去った。
「ぇ、と?」
 王子は、王女の相手はだいぶなれてきたつもりだったが、それはつもりにしか過ぎなかった。
「なんとあの娘!! なんと無礼な!!」



「だから、どうして足止めしに行って逆に怒らせてくるのかしらねぇ?」
 藺宇の額に、青筋が浮かんでいる。
「まぁ待て藺宇! 落ち着け!?」
「落ち着いていられるかぁ!!」
「だってガナシュだぞ!? そんなおいしそうな名前の人物が二頭身でちょび髭生やした白髪のおじさんだぞ!? ありえないだろう!!?」
「現状を読めーー!」
「死ぬーー!?」



「王女の侮辱を許すなーー!!」
「ぉおおー!」
「わがクリーム国カマンベール・ウェル・チ・クリーム国王陛下の名においてー!」
「おー!」
「大臣、気合が入っておりますね。噂によると、優麗国の王女様はとても正直だとか」
「笑い事ではない!!」
「失礼。いやぁ、いいツッコミだと私は思いますが」
「将軍!? 笑い事ではないのですぞ!?」
「――会戦は明日の日の出と共に、でしたな」
「はっはっは! こんな小国つぶしてくれるわぁ!!」
「よほど、おじさんと言われたのが気に喰わないらしい」
「将軍、何か言われましたかな?」
「いやいや、何も」



目次 後編に続くのです