〜彼女と彼らの冬事情〜

「さみぃ」
「ちょっと藺志! さっきから寒い寒いうるさいわよ! だらし無いわね!!」
「さみいもんはさみいんだよ!!」
「うっさい! あそこら辺見習って もっと鍛えろ!!」
「俺を珍獣行列に加えるなぁ!!」
「誰が珍獣ですって? ぇえ!?」

「たいちょーまたですか?」
「ああ」
「まったく、暑ければ暑いで大騒ぎ、寒けりゃ寒いと大騒ぎ。あんまり変わりませんね」
「そうだな」
「で、隊長」
「なんだ」
「前々から思っていたんですけど、冬服、支給されましたよね? 夏と生地変わってないような……」
「これは通年素材だ」
「………」

「ぎゃーーー!? 珍獣に食われるぅーー!?」
「なんですって!? ぇえ!? 氷のはった池にほうり込むわよ!」
「まぁまぁ女王様」
「何よ燕雅」
「隊長が珍獣扱いされるたびに女王様が藺志様に切れるのはいいんですが」
「いいんじゃない」
「まぁ止めません」
「で?」
「まだ氷ははってないですよ?」
 それはそれは楽しそうに、誰かを凍りつかせるかのように藺宇が笑った。
 燕雅と藺志が凍りついた。弦鉱がため息をついた。
「運んでくればいいじゃない」
「女王」
「なに?」
「付き合わされる兵士が可哀相なのでやめてください」
「えー」



「ねーえ藺宇」
「却下」
「なぁっぁあにぃいいぉう!!? まだなんもいってねーだろ!!」
「却下(二回目)」
「丁寧にどーも。じゃねぇ!」
「何よ」
「思い付いたんだが」
「却下」
「………」
「わかった。わかったわようっとうしいわね。床で爪を磨ぐなんて器用よね。ったく邪魔になるから追い出してもいいんだけど面倒だから聞いてあげようじゃないいったいなんだってのよ。ちなみに、どうでもいい事だったらぶっ飛ばすわよ」
「俺は目覚めたぁ!! ………なんでぐーで殴るんだ?」
「足のがよかった?」
「どっちも嫌だ」
「で? 何に目覚めたって?」
「それよりも、なんで雪が降らないと思う?」
「どっちが大事なのかわからないけど。知らん」
「俺の華麗な雪だるま計画が!!」
「熱苦しいから雪雲が逃げたんじゃない?」
「情熱が!!」
「だから熱苦しい。近づくな」
「藺宇は視線で大臣を灰にするんだよな」
「そんな特技はないわよ。よくて白髪が増えるくらいじゃない?」
「毛根から引っこ抜くのか!!?」
「どこでどう解釈したらそうなるのよ」
「そうかー大臣は悪夢をよく見るんだなぁ」
「癒し枕でもあげたら喜ぶんじゃない?」
「帽子の準備はあるぞ!!」
「時々楽しいほど残酷よね」
「俺は癒し系だ!!」
「邪魔」
「……」
「そんな捨てられた犬のような目をしても知らないから」
「俺は癒し系ー」
「お笑い係の間違いでしょう」
「笑い担当!! よし! 間違いなくツッコミ係だ!!」
「刺し殺す」
「それは突っ込みすぎだろう……?」
「そういうレベルの問題ですまされるほうがありえないけど」
「っはっはっは! 何を言う〜」
「今なんかいらついた」
「どこにそんな要素が!?」



「寒い寒い寒い寒いさむいーーー!!」
「うるさい!」
「いってぇーなぁ! 何すんだよ!」
「うるさい。黙れ、存在が邪魔」
「藺宇、お前も寒いと毒舌に磨きがかかるな。寒いの嫌いだろう」
「でてけ!!」
「まぁ女王様、寒いと凍死する藺志様の相手は大変ですね」
「……末衣莉も冷たい……」
「だって寒いんですもの」
「そんな理由……」
「気にするな藺宇!! お前はそれでなくても冷たいぞ!!」
 風を切って飛来したペンが藺志のおでこに直撃した。

「あんまりだと思わないか!!」
「どこに同情してほしいのですか」
「全部!」
「とりあえず、反省から始めてください」
「なんだよ! 弦鋼まで藺宇の味方なのか!!」
「床にのの字を書いて座り込まないで下さい。通行の邪魔になります」
「だって寒いんだぞ!」
「冬ですから」

「ひどすぎるだろう!!」
「はぁ。それで王子。俺にどうしろと?」
「わからん!」
「踏ん反り返って言うことですか?」
 燕雅は慣れたもので、淡々とあしらった。
「だいたい、制服が通年素材でできている隊長にすがっても意味ないと思いますが」

「かるーっくあしらわれた!!」
「よかったわね。頭も存在も軽いことが証明されたわね」
「よくねぇ!!」
「もううるさいわね。いい加減邪魔よ?」
 氷のはった池に放り込むわよ……?
「ひーーー!!」

「いいいいい妹に殺される!?」
「いっぺん死んでみるのもよいのでは? きっと人生観が変わりますわ。ほら、一辺死んで出直してこいと言いますし」
「言ったか?」
「言いますわ」
「なんのために?」
「んーあら、そもそも存在価値低いですわね」
「泣いてやるぞぉーーーー!!!」

「ぅわああああぁああん」
「うわぁびっくりした! 王子、どこぞの迷子の女の子みたいに泣かないでくださいよ」
「お前! 弦鋼を飛ばしたな!! 次は弦鋼の登場シーンなんだぞ!!!」
「……ああ。わかりました帰ります」
「置いていくなぁ〜」
「なんで足に縋り付くんですか、暑苦しい!」
「寒いじゃんかぁーー!」
「男とくっついても……」
「ぅわぁぁぁああん!」
「あんまりうるさいと女王様に刺されます……よ」
 どすっと、なにか鈍い音が聞こえた。光に反射して降る……凶器。
「俺はなんも悪くねぇっすよねぇーーー!」
「うわぁあん!」
「いつまで泣いてんすか王子!!」
「うるせぇぇぇえーー!!!」
「騒がしいわよ外野!!!」
「女王様。北の国から氷の発注はすみましたわ」
「意外に鬼よね」
「まぁ女王様。女王様には負けますわ」
「愛はどこに行ったのよ」
「ちょっと……実家に」
「なるほど」
「納得しないで下さい女王様!!」
「燕雅、日頃の行いがものを言うのよ」
「俺貢献してますよね!?」
「どこに?」
「真顔で聞かないで下さい……」
「凹まなくてもいいじゃない」
「あなたのさじ加減一つで首が飛ぶんですけど」
「飛ばすならもちろん。連帯責任よね」
「誰のっすか」
「藺志の」
「俺は関係ないーーー!?」
「あら藺志。無事だったのね」
「お前!! 頼むから氷のかけらを窓から投げるなよ!!」
 しかも切り口がえらい鋭いんだけど!!
「水まき……?」
「疑問!!?」
「触ってるもの冷たいのよね」
「そもそも触るなよ!」
「だって、騒がしくて……いらつく」
「女王様。庭師がおどろくので凶器を降らすのは来客中だけにして頂きた……どうされました?」
「ぅわぁあぁあん! 藺宇がいじめるのぉ〜!」
「王子、あなたですか。先程からずっと騒いでいるのは」
 ベリッと体当たりして引っ付いた藺志を引きはがしながら、弦鋼は冷静だ。
「ちょっと水まきの手伝いよ」
「間に合ってます」
「なんですって? ぇえ?」
「藺宇がキレてる」
「あなたのせいですわ。藺志様」
「末衣莉。いいこと言う」
「とにかく、寒くても、氷を降らすのはやめてください。王子と燕雅はよくても庭師が仕事の途中です」
「ごめんなさい」
「いえ」
「藺宇が謝った! 明日は嵐だ! カミナリだ!!」
「一辺死んで来い」
「俺に復活の呪文は効かないんだぞぅ藺宇じゃないんだからなぁぁぁぁああーーー!!?」
「……走り去りながら言い残すことかしら?」
「まぁまぁ女王様。世の中平和でいいですねぇ」
「あんたが代わりでもいいんだけど」
「ぁああ大変だ!! 俺には確か城の城壁を守るという使命が!!」
「それ以前に違う仕事を頼んでいたはずだが」
「!! ………」
「何汗だらだら流してんの? 暑いの?」
「心が折れそうです」
「手伝おうか?」
「トドメ!!?」
「氷柱のように屋根から叩き落としてあげる」
「では女王様。わたくしは仕事が……」
「ぁあそうだな、山積みだな」
「ぎゃーーー!!!」
 弦鋼が燕雅の後ろ襟を引っつかみ、引きずって行く。
 広い執務室、消え行く断末魔を無視すれば残されたのは静寂。
「ようやく静かになったわね」
「どうぞ女王様。暖かい紅茶ですわ」
「ありがとう」

あとがき
ただの「冬コント」

2011.05.06
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