〜 一日王さま!!? 〜


「弦鋼(げんこう)様!!」
「……? どうしました、南大臣?」
 護衛と大臣というと考えれば、大臣のほうが地位は高い。しかし、女王の夫と大臣ならば、どうなる?

「それが!! 女王様の機嫌が著しく悪いのです!! 何かありましたかぁ!?」
「藺宇(いう)の……いえ、女王のですか?」
 今は仕事中。しかし、反射的に名前を呼び、口に手を当てた弦鋼を呆れたように眺めた大臣。ぁあ、若いっていいねーー(棒読み)。
「ええ、そりゃぁもう最悪に」
「……何かあったと言えば……なくはないと言いますか」
 確かに今朝、一悶着(ひともんちゃく)あったと言える。しかし、
「“あれ”くらいで機嫌が悪く……?」
 だとすると、これからどうしたらいいのか……

「とにかく! どうにかして下さい!!」

 そう言って、大臣に女王の執務室まで連れてこられた。扉の前では他の大臣達が、おろろろと大慌て。

「まずい、こんどこそ首が……?」
「いったい、どれがばれたのだ……?」
「いや、気がつかれないように彼らに賄賂(わいろ)を手渡したではないか!」

「………」
 そんなことをしているから機嫌が悪くなるんだろう。

コンコン
「女王、入りますよ?」

しーん

「……」
がちゃっ
 返事がないのも久しぶりだった。それでも入った。

「――女王?」
 部屋の一番奥の机に座っていると思われる藺宇に声をかける。

 机の上は紙で埋まり、藺宇の頭の上と緑の髪しか見えない。――そりゃ誰だって、目の前に積みあがるほど紙をつまれれば、怒るのではないだろうか? まして藺宇。
 機嫌が悪い理由なんて、見ればわかる。まったく、大臣達はずぼらすぎる。
 書類の処理の早さもいつもの十分の一だ……。乱雑に処理済書類を重ねている。
 ぁあ、見えない紙の向こうで怒り狂っているか……

「女王?」
 かけた声には答えない。
「………」
 答えが返ってこないのは、大臣は関係ないだろう。いくら忙しくとも、答えは返ってくるものだ。つまり、何か機嫌を損ねたのか……
「じょう……ぉう」
 一歩進んで、声が小さくなる。二度と、答えが返ってこないならば――

「――藺宇!!」
 絶えかねて声を荒げる。走るように机のうしろに回り込む。

「騒がしいわね」
「藺宇?」
 ぎろりと睨みつける視線。
「い、う………――――!」
 確かに、藺宇だ。しかし、だがしかし。まさか、まさか―――

「王子様ぁーー!!!??」

 扉の向こうで聞き耳を立てていた大臣達がその声に驚きなだれ込んできた。

「ぃよ! よくわかったな。これでわからなかったらお前藺宇に殺されてたぞ?」
 シャレにもならないことを言わないでほしい……
 不吉な事を言い切って。“王子”の格好をした、王子藺志(いし)がそこにいた。

「なななな……なぜ、王子様がここに?」
 うろたえすぎだ、大臣。
「ん? な〜んか藺宇が用事があるとかで、一日変われって」
「し、しかしですね」
 政務は……?
 そう言って積み上げられた書類を見て絶句した。
「「「「「!!!!?」」」」」
「ぁあ、なんかてきとーに読んで、気に入ったら丸つけろってさ。でも読むのがめんどうだから、文字数が千〜二千までのものだけ丸つけたぜ!」
 なんだって、見ただけでそれがその文字数だとわかるんだよ! 特技か!!? しかも! なんだおえかきって!! ぱらぱら漫画作るな!!

「いやぁ〜な〜〜んか楽しいねぇ〜〜」

 大臣達は泡を吹いた。―――まだ気絶しない。


「次は会議か!?」
「そ、そうですが……」
 藺宇が言うには、会議なんかとりあえず話を聞くふりだけして、大臣達が言い出したものはとにかく却下しとけってさ!
 おいおいおい……
「よしはじめるぜ!!」
 マジですか……?

 移動移動、会議室。

「え〜まずは」
「却下」
「えーーー!!?」
 それ、開始の合図。
「この領土は、」
「じゃ、採用」
「あの、」
「却下」
「いえあの」
「却下」
「王子様!」
「うるせぇなぁ」
 全部却下にすれば、早く終わるだろう?

 そして、会議は滞りなく進んだ。(後日の藺志談。)


 今日の午後の謁見は見送った。というか、見送りにする。まさかこの状態で人々に会わせるほど、大臣は落ちぶれていなかった。その頭を仕事に費やせよ。
 とにかくなにがなんでも訪問者には帰ってもらわなければならなかった。

 さぁ、どうしよう。


「おーー! 昼飯!」
 今は、まだお昼。

 一日は、残酷にも長いので、王子藺志が食事をしている時が唯一のチャンスだった。


 はじめよう。それはもう非合法に、訪問者を追い返せ。

 やってきた者達にはお茶に一服盛って。
 お茶を飲まなければ、「あぶない!」と階段から突き落として。
 来る途中のものにはかる〜く馬車を脱輪させて。
 門の前まで来たものには、実はお前は偽者だと言い張って。
 これから来る者達には手紙に一言。「王都にははやり病が!」と偽って。

 忘れてはいけない追伸もしくは付け加え。「女王が怒り狂っている」これが一番信用高い。

 燕雅(えんが)、というか弦鋼の隊大活躍。
 お前ら、そんなに実力があったのか。
 むしろ、転職は別にありそうな弦鋼の部隊だった。




「なぁ〜〜」
 暇だった。だってせっかく『藺宇流、謁見の答え方マニュアル』を読んだのに、今日の謁見見送られてしまったから。なぜか、訪問者が“誰も来ない”かまたは“急病(病、怪我を含む)”で帰ってしまったから。
「なんでしょうか王子」
 間髪いれずに西大臣が答えた。後先考えずに。
「今は俺が権力者だろ?」
「は……」
 ようやく、他の大臣達が手を振って「待て! やめるんだ!」と言っていた意味がわかった。
「例えば、お茶の時間には必ずコーンスープを出すってどうよ?」

 茉衣莉(まいり)ーーー!!!!
 固まった大臣のそばで、弦鋼は一人叫んだ。心の中で。




「あら? 今呼ばれた……?」
 ふと、振り返った茉衣莉。
「真面目に仕事しないからしっぺ返しがくるんでしょうね」
 誰に向けた言葉だよ。
 さぁ、もうすぐお茶の時間だし。
 そう言って、茉衣莉はスープを取りに厨房に向かった。


 この後に及んで嫌味なのか……?





 結局、夕飯の時間になっても藺宇は帰ってこなかった。


((((女王陛下ーーー!!!!))))
 大臣達は意気投合して祈った。


「なんだこれ? じゃまくせぇなぁ」
 そう言って、重要書類を紙飛行機にして飛ばす藺志の前で。





 一日が終わるのは、もう少し先の事だった。








さて、こんばんは。
王子〜王女のコメントに藺志が一人っ子だと恐ろしい事に的なコメントをいただきまして。
そうだよな〜〜と思っていたら思いついたので書いてみました。一日王様ネタ。
もしも、あの性格のまま藺志が王様になったらきっとこんな感じ?
いろんな意味ではた迷惑極まりない。

よかったね大臣。藺宇がお嫁に行かなくて。(違う)


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