〜二人喧嘩 藺宇Win〜



 夜もふけて。

 健康な人々ならば、もう寝る時間である。長く忙しくなんだかよくわからない一日を過ごして。さぁ、穏やかな夜に包まれて、眠りの世界に羽ばたこう。


 ……………な〜〜んて、行くはずもないこの場所「憂麗国」。

 もっとも、城の奥深くにある、たった一つの部屋のみが。


 閉じられたカーテンは光を送らない。窓の中は昼間のように明るく。外は、星一つなかった。――――なんとも、不吉な雲に覆われる。



 すでにソファに座って、紅茶を飲む人物と、部屋に入ってきた瞬間にマントを投げ捨てた人物。

 二人がゆっくりとあわせた視線は、動かない。

 “今日”は終わった。元に戻ろう。



「誰が「女らしくなってよかった。」ですってぇーーー!!!」

 あわてた静止の声も虚しく、派手な音を立てて何かかが投げ飛ばされる音がした。

「死ぬわーーー!!」






「…………王女様は、またご乱心か……」
「ちがいますわ、王子様が王女様で遊ばれたのですわ。」
「………」
 ―――何か、逆襲か?

 たまに起こる兄妹喧嘩。弦鋼は、掃除が大変だと頭を抱えた。





「いや!! まて藺宇! あれはだな!!」
「何?」
 サイドテーブルを持ち上げたまま、にっこりと藺宇は言った。――――違う、顔は笑っていない。

 なんだろう、いい笑顔? きっとこの笑顔で大臣を黙らすのか。
 創貴という男は、女王が立つほうが面白そうだと言って帰った。その事にほっとしたのもつかの間。部屋に帰って待っていて、元に戻ればしっかりと藺宇は覚えていた。俺の言葉を。そういえば、そんなこと言ったなぁ。

「――――てか、お前、今更何気にしてんだ?」
 はたと思い立って、言ってみた。………だってそうだろ? 優秀な王子藺志と呼ばれるようになったのは、一重に藺宇が王子に成ってからだ。


「……………」

ガジャーーーン!!

 無言で、テーブルは投げつけるしナイフは飛んでくるし。―――ちょっと待て、その本棚をどうする気だ!!!?


「ふふふ〜〜ふふふ♪」
 とても楽しそうな歌声と共に、どうやら時間は経つようで。


 大丈夫か、俺の明日。




 ――――まぁ、黙るよね。そうだよね。反論する暇もない。………それより命が危ないし。


 部屋の中の轟音(ごうおん)が落ち着くまでは、まだ長い。――――ある意味夜より長いかも。





 まあもちろん。日が昇る前までにはね、“音”は収まりましたけど。



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