〜求婚者を追い払え!〜



「さぁ! 王女様!!! 今日こそはこの手紙に目を通していただきます。」
 ドーーンと、テーブルの上には紙が乗っていた。

「紙? ああ、燃えるゴミね。」

 やってきた王女の実も蓋もない言い方に、大臣の一人は卒倒した。

「なななな……なんて事言い出すんですか! こ・れ・は!! この国と交流を持とうと送られてきた縁談話ですぞぉ!!」
 別の大臣が慌てふためいた。ちなみに、卒倒した奴はそのままなのがそれらしい。

 どうやら他国では、密かにこの国を狙っているらしい。中立を保つ国は、ほとんどない上に、この国は小さい。

「とにかく、王女様。この国のためにですぞ!」

(この国のためにねぇ〜〜)

 実際に、王女藺宇(いう)本人が他国に嫁いでみたら、―――――この国は、滅亡する。と、わかっていないらしい。まぁ、知ることは許さないが。

(俺政治とかするきね〜し〜〜)
 この国の王子はこんな感じだ。だが、目の前の大臣はうるさい。

(今日はどうばっくれるか。)
 いい加減、ネタがつきそうなものであるが、そこは頭を働かせ。

「……………ぅ……」

「「!!!!!」」

 大臣は、うつむいたままの王女の声を聞いてぎょっとした。

「…………ひどいわ皆して、………」
 上げた顔の目に涙を浮かべれば、大臣どもは焦ったように誰か止めろと言い出した。

「そんなに私を追い出したいのねーーー!!!」
 両手で顔を覆って、テーブルの上に手紙と肖像画の山が出来ている部屋から走り去った。


「……………!!」

 一匹は呆然と、またさらに一匹がおろおろとする中。三人のうち残された大臣、最初に卒倒したものが目を覚ました。


「はぁ!! 王女様!!? ――――また逃げられたーーー!!!!」


 外にいた兵士も通りすがりの侍女も、誰一人として同情する者はいなかった。


 だって、いつもの事だから。









「――――なんだ、」

 所変わって、ここは王子の執務室。

「いえ、それが、」
「だからどうしたと言っている。」
「例のごとく王女様がまた城出だそうで。」
「それで、」
「大臣様方がつれて来いと仰せです。」
「ほおっておけ。」
「――――よいので?」
「捕まえられるのか?」
 城の兵士(お前たち)に。
「……………」
「逃げるときにかかる被害のほうが深刻だ。お前たちはいざという時に役に立ってもらうのだから、日常茶飯事に振り回されてどうする。」
「……。」
 王女が大臣から逃げることが?

「他に何かあったか。」
「いえ、特には…………」


「王子ーーー大変ですぞ!!!」
 ドガァン!!! と、大臣の一人が扉を開け放った。

「どうした。」
 書き込んでいるペンの手を止めることなく、王子は問いかけた。

「ぎ、ぎ、ぎ、儀慧(ぎえ)国の第二王子が王女様に会わせろと!!!!」

 ――――嬉しそうに言ってんじゃないわよ!!!

 持っていたペンを折らなかっただけ、大臣に向かって投げつけて気絶させなかっただけ、ましだと思え。


(ああ、面倒。)
 何にってもちろん。やってきた王女の求婚者。を、迎えないといけない。客間に向かうのは、謁見の間に呼ぶ気がないからだ。一応、まだ国王じゃないし。玉座に座ってるわけじゃないし。
 と、いうか、あっちのほうが大国なんで。―――――建前?


 扉を開けるのは、近くにいた兵士だったが。




「――――ようこそ、わが国憂麗(ゆうれい)国へ。しかし、突然のお越しとはまた。先だって一報ありさえば、こちらとてもう少し歓迎いたしましたが。」

「それは、歓迎の言葉として受け取っておこう。」
 あっさりと取って返したこの王子。儀慧(ぎえ)国の第二王子新流(しんる)。

 儀慧(ぎえ)国は、近くにある(と、言っても海を越える。)一番でかい大陸をまとめる国である。強い軍事国家であり、いわゆる大国と言うやつである。知る人ぞ知る大陸、この憂麗国の歴史にだって、一応出てくる(教える)ぐらいのものである。

 が、いきなり現れるなど、迷惑極まりない。この時間が執務に当てられないとなると、今日は徹夜かと思いつつ。

「――――何か、御用でも。このような小国に突然のお越しとはまた、自国にすら歓迎されない行動では。」

 並ぶ大臣がはらはらと、焦って慌てふためくのよくわかる。―――目線が止めろと言っている。無視だ。

「ふーーー」
 やれやれと、王子新流が手を上げた。

「ずいぶんと歓迎されていないね僕は。」
「…………」
 即答で帰れというところを、飲み込んでみた。沈黙だ沈黙。こんな奴と話をする声が無駄だ。――――大体、なんだこいつのこの口調。初めから見下している。

「まぁ、お前に用事があるわけではないんだが。それが、父上が王女をご所望でね。」
「………」
 何処の国にも屈しない国、他国の注目と興味の対象だ。

「で、僕が来たってわけ。」
「………」

「手紙を送ってあったはずだけど、」
 ああ、燃やしてたな〜〜よく燃えてたみたい今日はいい天気だし。

「どこにいるのかなその王女様は?」
「お会いするおつもりで?」
「なんだい? 嫉妬かい王子様。」
「呼んで来ます。」

 そう言って、客室を後にした。



「…………………」

ドゴン!!!!

 パラッと、壁に入った罅(ひび)から破片が落ちた。

「…………」
「…………まぁ。」

「ああ、なんだ。」
「嫌だわ〜〜また壁修理していただかないと。」

「―――――どうする。」
「もちろん。いつもの様に。」

「潰す。」
「あら、いいんですの?」

「問題でもあったか?」
「何言ってますの。」

「「二度とこの地は踏ませない。」」

 マントを翻(ひるがえ)した王女藺宇。
 ドレスの裾(すそ)を翻し、ヒールのある靴の踵(かかと)を鳴らした王子藺志。

 二人は誰かが見たら絶対に、見てはいけないものを見たように凍りつかせるいい笑顔で、笑いあってから部屋を出た。








「申し訳ありませんお待たせして。」
「いや、こちらも突然やって来てしまったからな。」

 やって来た王女の、一見純粋無垢な笑顔に騙(だま)されこの王子。並んで一緒に城の中、歩き出してしまったり。

 今から言っとく“御愁傷様(ごしゅうしょうさま)”。









「―――――おい。」
「は」

 執務室に必要な書類を持ってきた兵士を呼び止めた。
 部屋には、これで縁談がまとまれば! と、検討違いな喜びを現す大臣どもを追い払い、書類に手をつける前だった。
 巡らした視線で、お茶を置いた侍女は下がった。

 これは、いつも報告にやってくる者で、名は弦鋼(げんこう)。いわゆる王の護衛体長のようなものである。前王の信頼は厚く、今も王子と王女が国外に出るときなどは、必ず護衛につくものであった。

「どうかなさいましたか。」
 と、やや不安気味に聞いてくるこの男。いつもそうだが勘はいい。

「――――あれを、追い返す。」
「王子…………」
 やっぱりと、弦鋼は頭を抱えた。

「聞け」
 この短時間で練りこんだ計画を話した。


 数分後


「王子………それはまた……」
「しくじるなよ。」

 さっきと同じいい笑顔で、王子は言った。


「――――まさか、俺が半身をあんな男に渡すとでも?」


「…………」
 弦鋼は呪った。大臣を。――――誰か一人でもこの場にいれば、悟ったであろう。王女を嫁がせるためには、本人よりもこの王子。王子を説得する必要があると。


 まあつまり、どうあっても藺宇に結婚の意思はないよね。







 さてさてその後の新流王子。

 笑顔の王女に言われるままに、お城の中を案内されて。

 そうそこまではよかったが。

 なぜだか降ってくる槍だとか、前を横切る牛とか馬だとか。
 上から水は降ってくる。(水撒きらしい)
 落とし穴は掘ってある。(王女が通っても問題なかった。)
 子供がワーワーやって来て泣き出す引っ張る奪われる(マント)。それでも子供はかわいいわーーなどと笑って見ている王女。
 庭に出てみりゃ結んでる。草に足を取られてずっこける。そして、その先茂(しげ)みとか? あわてて振り返って見てみると、王女はまったくこちらを見ずに、ペットの猫とお話中。
 ――――よかったのか、猫に負けたのか。

 休憩しようと言い出して、ほっとして安心したのもつかの間で、私が入れましたーーな〜〜んておいしいシチュエーションでお茶を口にして、果てなく不味いというオチで、おかわり出てきたりなんかして。私、喉乾いていませんとか。口直し? 焼き菓子大変な味でしたよ。―――――そう、飲み物がほしくなるような。

 あげくに最後に最後だよ。王女に「私藺志が好きなのーーー」とか言われ。まったく恋愛の対象として見てもらえてないというわかりきった現実を、叩き突きつけられたりなんかすりゃ。ほんでもって、まったく突っ込めないぐらいべた惚れ? それはのろけじゃないけれど、一緒にいる間中王子の話しかしなければ、そりゃ誰でも脱力しますわな。







 そんなこんなで夜になり。“なぜだか”突然、新流王子様宛てに、手紙がやってきたりして、即刻自国に帰らんと、ならなくなってしまったり。



 お別れの、挨拶なんかに行ってみりゃ。

「本日はとても楽しかったですわ。“また”いらして下さった時にも、城の中を案内いたしますね。」

 さて、大国の王子というだけで、威張っているような第二王子が、もう一度、この王女に付き合って、お城の中を歩き回るだろうかね。






 どうやら、憂麗国の王女様、また求婚者を追い払ったということで、我もといきがる犠牲者が、増えるかどうかはわからない。




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