〜贈り物は二人に贈る〜

 年に一度、子ども達に贈り物が届けられる日がある。それは、優麗(ゆうれい)国の習わしのひとつ。
 ここでも、もちろん、例外はない。

 誰も彼もが寝静まったと思うほどの夜更け。大きな扉の部屋の前には、兵士達と侍女達が詰め掛けている。
 理由は、簡単。
 二人の侍女が、こっそり、こっそり部屋の中に入っていく。その手には、リボンのついた箱が抱えられている。
 さて部屋の奥。そこに眠るのは――緑色の髪、同じ顔。寄り添い合って眠る双子の姿。優麗国王子―藺志(いし)、王女―藺宇(いう)。
 手をつないで、顔を寄せ合って眠る姿は、微笑ましくて、可愛すぎて、しばし、侍女は時間を忘れて見入った。
 でも目的はそこじゃない。名残惜しさを感じながら、そっと歩み寄る。いつも、左側に眠る王子様の枕元まで、右側に眠る王女様の枕元まで。
 そうして、抱き抱えていた包みを二人の枕元に置く。

 喜んでいただけますように。おやすみなさい、いい夢を。
 来年も祝福が、ありますように。

 侍女達は、入ってきた時と同じように、そうっと部屋を出て行った。
 部屋の外で待っていた兵士達と、侍女達にほほ笑む。今日と言う日を待ちわびていた城の住人の完成は喉の奥に飲み込まれて、皆去っていく。
 さぁ、また明日。
 足音も遠ざかり、もう、誰も戻ってこない。

 ――次の瞬間。

ガバァ!
 かっと目を目を見開いて、起き上がる二つの影。自分の枕元にある包みには目もくれずに、反対側の包みに飛び掛る。
「きゃーー! 歴代大臣暗殺目録〜」
「おーー! お風呂セット〜」
「「………」」
 互いに叫んで、贈り物に擦り寄って、相手の言葉を聞いて考え込んだ。
「なに、そのファンシーなの」
「お前こそ、なんだその物騒なのは」
「これもう絶版で禁書なのよ! 手に入らないんだから!!」
「これは香りの申し子イディラの作品だぞ! 彼は二つと同じ物を作らないんだぞ!!」
 しばらく、にらみ合う。そして逸らす。
「やった〜! これで将来大臣達を……」
 ふふふ〜と、笑顔。
「よぉ〜し! 明日の夜早速出番だぞ〜」
 お風呂タイムが楽しみだ〜と、笑顔。

 笑顔の質が違う。

 さて、皆様にはお分かりでしょう。
 王子がお風呂セットで、王女が殺人目録なんて、普通言ってもくれませんものね。
 まぁ、言った所でもらえることもおかしいけどね!!!

「ちゃーんと、見越しとくんだから〜」
「なっかなかきまんねぇのな〜待ちくたびれたぜ」
「い・い・の!」
 王子様は、なかなか、お決まりになりません。偵察に来た侍女が嘆(なげ)いた。
「だって〜“暗殺目録”と“夜に紛れで闇討ち作戦(実践編)”とどっちがいいか悩んでたのよ〜」
「いや、同じじゃん」
「違うから」
 なんてこと言うのよ! 冒涜よ!! と藺宇。いや一緒じゃんと藺志。

 そんな事が続いた。数年。まだ双子は、贈り物は空から降ってくると思っている子どもと、同い年。
 それから、数年。そろそろ、普通の子ども達が贈り物を贈ってくる相手が誰だかわかる頃。

「王子様、何かほしいものはありますか?」
 来た。と、王子―藺宇は思った。今なら、何を言ってももらえる。とも。
「王女様、この前ほしいと言われていたのは……」
 今年は何にするかなぁ〜と王女―藺志。



 それから、数年以上。
「王女様? 王子様?」
 少しだけ急ぎ足で、侍女が廊下を進んでいた。
「いったいどっちを呼んでいるんじゃ茉衣莉(まいり)」
 角を曲がって現れたのは、言葉にがっくりと脱力した西大臣。
「ぇえ、まぁいちおう。混乱しないようにですわ」
 にっこりと笑顔の侍女。
「……余計訳が分からんじゃろう」
「あら西大臣。水色のドレスの藺志様を王子様と呼ぶほうがおかしいと気がつきませんの?」
 ぁあ、乾物には耳がないのかしら? と、呟いた。


「よいしょっと」
 その頃、噂の王女(藺志)はなぜか、塀を乗り越えていた。
「おおおおおうじょ……王子様!?」
 兵士は、そうだ、いくらドレスを着ていてもこの国の王子様であればそれは不思議なことではない。それに、本当に王女様ならこんな格好ではなくて男装で城門を堂々とこじ開けると思い直した。こんなコソ泥みたいに逃げ回ると言えば、考えられる人は一人だけ。つまり、これは王子様。
「ん〜?」
 声を聞いて、首を傾げた藺志の体が傾いた。
「ギャーー!?」
 兵士の泣き叫ぶ声が必死だ。
「うるせぇなぁ。なんだよ?」
「ななななあっ。ぜーはーぜーはー……なにをしていらっしゃるので?」
 あまりに平然とついでに迷惑そうにかけられた言葉に兵士が卒倒しかかる。それでも息をついて気を取り直した。
「脱走」
 そんな、語尾に星でも着くような口調はやめてほしい。
「じゃーなー夕飯までには変えるわ」
「そそそそんなぁ……」
 兵士が嘆く暇もなく、藺志は塀を乗り越えた。がっくりとひざをついてうなだれる兵士。――いやまて、待てよ! まだ誰も、自分以外は誰も王子がここを乗り越えていったことはしらっ
「あら、一歩おそすぎたかしら」
「!!?」
「しかたないわね。王子様も――ねぇ?」
「ははぃっ!?」
 意外な侍女が目の前にいるので、兵士は固まった。なんと言っても、いまや侍女頭。どんなものを捨てて積み上げてきたのか……
「なぁに? 何かついていまして?」
 笑顔、なのに怖い。だからこそ怖い。
「はっ!? いえ何も」



「女王」
「……」
「女王?」
「何?」
 今はとても機嫌が悪い。それもそのはずだった。今度は北大臣の目がもーろくしていたせいで、かなりの被害が……いや、それはいい。よくないのだがいい。そんなことより、今伝えておかないと次の機会はない気がする。
 だって、なんたって、執務室でそのまま寝てしまうのだから。
「そういえば、思い出したことがあります」
「……なに」
 珍しいわね、この忙しいのが見て取れる時に話しかけてくるなんて。
「昔、王女様に送った物が王子様の部屋にあったり、王女様が出てきた部屋の中に王子様に送った物があったり、しましたが」
「でしょうねぇ」
「まったく、気にも留めませんでしたが」
「この城の中で誰もね」
「あれは前兆だったのですね」
「むしろ逆よ」
 なれてきたからこそ、ゆるくなっていた。
「それで、何かほしいものはありませんか?」
「もういいでしょ〜この歳で?」
 もう大人でもないが、子どもでもない。
「城のみなの楽しみ、ですよ。そのための予算も取ってあるのですから」
「……ちょっと、呼びつけなさい」
 予算案を出した大臣を。
「大臣方の楽しみを奪ってはいけませんよ。女王」
「えーー」
「今茉衣莉も王子のほしいものを聞き出しに向かっているはずです」
「察しなさいよ」
「無理です」
 返事は早かった。
「……聞き出しなさいよ」
「あなたから? ――無理です」
「どういうことよ、それ」
「は?」



「王子様逃げられましたわ」
「藺宇が不機嫌に……」
 居合わせた人々は、はぁっと可憐にため息をつく侍女と本当に頭を抱えて深いため息をつく護衛の様子を見て固まった。
「もう弦綱(げんこう)様、愛をささやくなら二人っきりの時にお願いいたしますわ」
「どういう意味だどういう」
 珍しく慌てふためくその姿。からかいのネタはひとつしかないがいい反応が帰ってくる。茉衣莉はほくそ笑んだ。
「そんなお名前を呼び合う仲でいるのは寝室でやれと申し上げたのですが?」
「なななぃなにを言う!?」
「いつでも、どこでも、お二人で愛をささやいて名前でも呼び合っていればいいのですわ」
「そんなことできるか! だいたい、執務室で名前を呼ぶことはない」
 それか、不機嫌な理由は。その場に居合わせたあげく動くことのできない面々は頭を抱えたくなった。
「結局収穫がないのでしょう?」
「同じことだろう!?」
「いいえ〜」
 それはそれは楽しそうに、茉衣莉は笑った。
「私は聞くことができなかっただけ、弦綱様は聞いても答えを運べなかったのですわ」




「ふんふ〜んふふ〜ん」
 城下の町を、お気に入りのひとつである水色の服を着てあるく女の子の影。
 片手にはパン。片手には果物ジュース。標準仕様だ。
「! あれ?」
 突然、口にパンを加えたまま立ち止まっている。
 しばらくそのまま、どうやら何かを考えているようだ。それはなぜか、さて少し視点を変えて彼女(かれ)の視線の先を見てみよう。
「お待たせいたしました!」
「……」
 カフェのテラスに座って、特盛りのサンドウィッチを平らげる影。
 そう、まずサンドウィッチが特盛りであることすらおかしいが、彼(かのじょ)のテーブルの上はさらに料理で埋まっている。それを、いったいどこに入るのかと問いかけたくなるほど食べている。
「ぃよーっ宇維(うい)。何してんの?」
 前半と後半、口調が別物だ。
「ぁあ、志維(しい)。お前こそ――食べるか?」
「私フルーツサンドがいいわ」
「あまったるぅ……」
 うきうきと注文する彼女、それを思い描いてうめく彼。
 こんな二人が、町に溶け込んでいる?



「あれ? 燕雅(えんが)副隊長仕事ですか? 珍しい」
「そりゃどーいう意味だよ」
「言葉の通りかと」
「心外だ」
「心にもないことほざかないでくださっいてっいててっ」
 燕雅が燕雅なら部下も部下だった。
「痛いですって、つま先踏まないで下さい。――今からこちらに向かうと言うことは、女王陛下の護衛ですね」
「そーだな」
「弦綱様と仲がよくてよいことですよね」
「そうか? 本気でそう思うか?」
「“副隊長”が」
「……行くぞ」
 耳を引っ張って引きずる。
「え!? 私休憩ですよ!」
「恐れ多くも女王陛下の護衛ができるんだ、返上しろ」
「やめて下さい! 横暴でっ」
 横暴です! うるせぇ! と、子供の喧嘩のようなやり取りが続く。そんなこんなで、女王の執務室の前。
「着いちゃった……」
「女王陛下?」
 コンコンと、扉をノック。しーん。
「……?」
「変ですね?」
「女王様?」
 コンコンコン! しーんと効果音。
コンコンコンコンコンコンコンコンコン
「しつこいですよ副隊長!! 嫌われますよ!」
「うるせぇよ! 女王陛下? 入りますよ」
バン!!(仮にも女王陛下の執務室。しかし勢いよく開いた)がらーん。
「「………」」
 心地よい風が入ってくる。開きっぱなしの無尽の部屋の中から。
「……」
「……頑張って下さい。副隊長」
がっしっ
「お前もこい」
「でぇえ!? 私休憩中!」
「いいから全員連れてこい!!」



「ん〜おいし」
「うわぁ〜あまったる」
 カフェのオープンテラスで、かなり目を引く男女、が、運ばれてきたサンドウィッチに手をつけ始めていた。
「なぁんですって! おいしいのよこの生クリームいちごサンドいちごジャムぞえ!!」
「何がメイン?」
「食パン!!」
「好きにするといいじゃないか見えないところで」
「なんでよ! おいしいのよ!!」
「甘い!」
「なによぉ〜じゃぁこれならど〜お」
 と言って彼の目の前に彼女はメニューを突きつけた。
「ミックスフルーツサンドカスタードクリームアンド生クリームプラスアイスクリームカラメルソース掛け!」
 一気に言い切った。こんなに長いのを、藺志が。だが、それは問題ではない。
「冗談じゃないわよ!!」
 バンと、テーブルを叩く。
「ぁあいたいたお二人さん。目立つから探しやすくていいよ」
「あ、おじさんだ」
「ホントだ。嫁ぎ送れちゃった従兄のおじさんだ」
 回りに、聞こえるくらい響く声だ。自分を指差すまではないものの、まぁあんなにかっこいい人なのに女性運はないのねと、ひそひそ話が聞こえる。
「………」
 所詮子供の言うこと。しかし、燕雅は黙っていなかった。笑顔で。
「お兄さんだろう?」
「おじさんだよ「ね〜」」
 はぁ〜と、長いため息をついた燕雅。その顔を上げてにやりと笑う。それを見た双子は首を傾げた。
「なら、普段隊長のことはなんと呼んでいるのですか?」
 傍目に視てもわかるくらい、女王の顔が引きつった。しかし、どうやら片割れはそれに気がつかなかったようだ。
「おじいちゃっでぇ!?」
 テーブルの下、藺志の足が思いっきり踏まれている。
「おじいちゃ……」
 その様子を想像した燕雅は、身体を折って耐えていた。こみ上げてくる笑いを抑えるのに必死だ。
「おじいちゃん……」
 笑いたい。笑い転げたい。シンプルに腹を抱えて笑い転げたい。
「……」
 その様子を、冷めきった目で冷ややかに見つめる藺宇と、
「?」
 なんか楽しそうだなぁ。混ぜてほしいなぁと考える藺志。
 ひとしきり腹を押さえて身体を曲げていた男は、しばらくしてからまるで今まであったことは嘘であったかのように平然と口を開いた。ずいぶんと抑えた声で、一言。
「女王陛下、隊長と喧嘩しましたね」
 ふいっと、藺宇は目を逸らした。藺志はあくびしている。まぁ確かに、いつものことではある。
「仲直りしてくださいね」
「つーん」
 今度は、丁寧に効果音が入った。それに対して、燕雅の反応は薄かった。
「別に構いませんけど、困るのは御自分でしょう?」
「………」
 カチンと来たらしく、藺宇が燕雅を振り返った。
「どういう意味かしら?」
「さぁ?」



「まぁ女王様、王子様おかえりなさい」
「「ただいまー」」
「おやつにしますから手を洗ってきてくださいね」
「「はーい!」」
 あれ? さっき食べたばっかりでは……?
「「いっただっきまーす!」」
「はいどうぞ」



「ただいま」
「おかえりなさい」
 ………。
「怒らないの」
「怒ってほしいのですか?」
「……そうじゃないけど」
「心配しました」
「ごめんなさい」
「いえ、こちらこそ。大変失礼いたしました、女王」
「……」
「……藺宇」
「なぁに」
「楽しみですね」


 今年の贈り物は初心に返ったのか、王子に未解決事件簿、王女に石鹸セットが贈られたとか。


「好きにするといいじゃないか見えないところで」
というセリフがお気に入り。
2013.03.11
目次