〜王女様とお菓子と黒幕〜

「うっうっう」
「………」
「うううう」
「………」
「うわぁぁぁぁんん!!」
「うるさいわね虫歯くらいで!!!」
 叫びだした王女―藺志にハリセンを叩きつける王子―藺宇。
「いってぇなぁ!! 何すんだよ!」
「うるさい!!! わよあんた! 虫歯になって甘いものが食べられないくらいで!!」
「死活問題だぞ!!」
「死ね!!!」
「死ぬーーー!!? 死ねるぞ!! 俺なんて菓子を半日断てば死ねるんだぞ!!!」
「じゃぁ死んでないとおかしいわよね」
 と、藺宇がハリセンを握り直して取りだしたのは、きらりと光るナイフ。
「さ、死んで」
「うわあーーーん!!!」


「すごい叫び声が聞こえますね」
「止めに入ってきていいぞ」
「隊長!? それは俺に遠まわしに退職届けを出せと言っているんですか!!?」
「なんの話だ? ぁあ、そう言えばどこかの兵士がせっせと王女様の部屋に菓子を運んでいた姿が目撃されていたが」
「俺のせい!? それ俺のせいっすか!!? 菓子持ってこいと言った最高権力者に文句を言いましょうよ!!?」


「死ぬーーー!?」
「……あ、そう言えば棚にお菓子があったのよね」
「いじめだろうそれは!!!」
「食べる?」
 と、なぜか藺宇が開いた棚から出てきたのはホールケーキ二段。上がチョコレート、下はショートケーキ。苺たっぷり、チョコの中には生クリーム。ショートケーキの中にはチョコクリーム。中の果物は洋ナシ、苺。周りにはスライスアーモンド。チョコシロップ、苺。
「お前甘いもの嫌いだろう?」
「ぇえ、どうして?」
 にこやかにほほ笑む藺宇。
「この女!!! 最低だぜ!!」
 びしっと、指を突きつける藺志。
「ん〜おいしいわ」
「お前ーーー!!」
「食べたらいいじゃない」
「歯痛い……」


「さぁ王女様!!! 今日こそ歯医者様を呼びま……した。あら王子様。王女様は?」
 茉衣莉が、部屋に飛び込んできて首を傾げている。
「さぁ? ケーキでつっても出てこないみたいだな」
 でかいケーキの反対側には、フォークが突き刺さっている。しかしそれは茉衣莉側からは見えない。
「王子様。隠してませんか?」
「隠す?」
 さぁ王子様。楽しそうに笑います。
「突き出したほうが面白そうだな」
「そうですよね。そう思いますよね王子様! じゃぁ探してきます!!」
「ああ」
 荒々しく閉じられた扉。
「逃げ足は速いのよね……」
 風に揺れるカーテンの先。二段のケーキ。
「こんなにいらない」


「……あの王子」
「なんだ」
「このケーキはいったい……?」
「食べていいぞ」
 ちなみに特注品。
「なぜフォークが突き刺してあるんですか」
 一本だけ突き刺さっていたフォークを引きぬく弦剛。
「でかいネズミが出た」
「王女様は歯が痛いのでは」
 っち、突っ込まれた。


「はーっはっはっは! 逃走経路は藺宇に叩き込まれたから覚えているんだからな!! 誰もげんこつとぐりぐり攻撃が怖くて死ぬ気で覚えた訳じゃないんだからな!!!」
「見つけましたわよーーーー!!」
「ぎゃーーーーーーなんで茉衣莉ーーー!!!」
 藺宇の裏切者ーーー!!


「さわがしい」
「王子。何か仰りましたか?」
「だれが裏切り者だ」
「は?」
「いや、なんでもない」
 茉衣莉には一経路しか教えてないのにピンポイントでそこに走った藺志も藺志よね。


「まったく、いつまでも逃げ回って。子どもですか!」
「かわいいでしょう〜〜〜」
「ネズミにしてはでかいですわ」
「茉衣莉がいじめる」
 侍女に引きずられる王女様。涙目です。
「歯が痛いんでしょう。まったく、もっと早く言って下さらないと。というか、ちゃんと歯を磨いたか確認しているのにどうして」
「あったりまえ! 燕雅に、夜中こっそり大量に菓子を持ってくるように言いつけたから!! 棚の中にはお菓子がいっぱい!」
「………」
 茉衣莉が晴れやかに笑った。
「――は!」


「あれ副隊長。いきなり立ち上がってこそこそと逃亡準備……今度はどんな死亡フラグですか?」
「お前! 給料が減るのは俺なんだぞ!!」
「知りませんが」
「だいたい最高権力者が言ったんだぞ!!」
「違いますよ副隊長。最高権力者は王子様であって、王女様は二の次です」
「最悪だぞこれ!!」
「燕雅!!!」
 ずがんと、扉が叩き開きました。おしとやか侍女モードの茉衣莉にしては珍しいです。
「きたぁ!!?」
「あなたのせいで私がきっちり、しっかり、ぴっかぴかに王女様の歯を仕上げ磨きしているのに!! だいなしじゃないですか! どうりで最近歯磨き粉(りんご味)を喜ばないと思ったら!!」
「「………」」
 りんご味って……どこの子ども。それでも国家権力保持者第二位。


「ぅわーん。ぅわーん! 痛いから嫌いーーー!」
 最後まで抵抗する王女様。扉にかじりつきます。
「でかい子どもだね」
 先生が呆れている。というかここのところ何度も城にきたのに治療しなくて帰ることばっかりでそろそろ終わらせたい。
「そう思いますでしょ先生。さ、さくっとはじめちゃってください」
「茉衣莉のばかーー!」
「王女様。動くと、刺しますわよ」
 シャキーンと侍女は凶器をとりだしました。
「………」
「あ、これは王子様に借りましたわ」
 最高権力者公認で武器を支給される侍女。
 身内に裏切られた王女様。
 さくっと仕事をはじめる先生。
「痛かったら左手をあげて下さいね〜」
 そう先生が言った瞬間、しゅぴーんと藺志が腕を上げた。茉衣莉がその腕を掴んで下げた。
「……」
 藺志が茉衣莉を見た。涙目だ。茉衣莉は微笑んでいた。微笑んでいるのに藺志の腕は上がらない。茉衣莉が抑える力が強い。というか頭が動かないようにがしっと押さえつけた。
 先生は苦笑いだ。しかしさすがプロ、手つきは変わらない。
「んんーーんふふふーー!!」
「え? 何か快感?」
「んんーー!!」
「むしろ麻酔なしでいい?」
「んんんーーーー!!!」
「先生。やっちゃって下さい」
「よし」
「んんんんんんーーーー!!?」


「ううう」
「麻酔がまだ聞いているからしばらくは何も食べられないぞ」
「う……」
「確かお前昨日から何も食べてないよな。歯が痛いとかで」
「藺宇のばかやろう!! 早く言えよ!!!?」
「だから茉衣莉が麻酔なしって言っただろう。それを暴れるから。自業自得でしょ」
「棚の中の菓子も全部なくなった!!」
「あ、これおいしいわね」
「俺の前で菓子食ってるーーー!!」
 泣き出した王女様、走り去りました。途中で燕雅にぶつかって階段を転げ落ちる音が聞こえる。
「王子。新しい書類です」
 階段を上りつつ目の前で王女と燕雅が転がってきたことはスルーの弦剛さん。さくっと避けました。
「ああ」
 確認を終えた弦剛が部屋を出て行くと代わりに入ってきたのは、お茶を持ってきた機嫌のいい茉衣莉。
「で、気はすんだのか茉衣莉。そんなにお菓子嫌いだったか? 燕雅に首をくくる準備をさせるか?」
「まぁ。やばんな。王女様のおやつはわたくしが管理しているんですよ。ほかのものを勝手に食べるなんてありえませんわ」

2013.03.11
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