「王女様、真面目におやり下さいませ。」

「王子様、これは明日までの宿題ですな。」


 同時刻、別の場所。同じような内容の違うことを言われた王子と王女は、とりあえず真面目に「はい」とだけ言って部屋を出た。



〜歴史の授業と針仕事〜




「やってらんない………」
 おそらく花となるものを刺繍(ししゅう)していたのだろう。ベッドの上で寝そべっていた少女は針と布を放り投げた。

「何考えてんだあいつら……」
 と、そこへ帰ってきた少年。

「あ゛」
 少女がそれらしくない声をあげると、針のある布が少年に向かった。

「?」
 とっさに避けた少年は、それが布だと思うと拾い上げた。

「いきなり投げつけるなよ」
「だ〜てぇ〜〜」

 渡された布を恨めしげに睨んだ藺宇(いう)は、藺志(いし)を見上げた。

「明日までなのよ〜〜………」
「俺だって、」

 だんだんと小さくなる二人の声。

「「………」」
 どうしょうもなく、どうもできない。

「また、怒られる………」
「また、説教か…………」

 そう、いつもこの二人、刺繍と歴史の宿題の出来が悪くて教育係りにいろいろとうるさく言われる。まぁもちろん、これ以外の事でもね。

「つーーまーらーなぁーいぃぃーー」
「くだらない………」


「いーーなぁあーー歴史、面白そう〜〜」
「何言い出すんだ、明日は楽器だろう?」
 民族舞踊、民族音楽。この王女は楽器の使い手と、なる“はず”だ。

 え? だって、今からそうなるように訓練と練習をさせるんだから。将来的には、憂麗国(ゆうれいこく)一の笛の使い手と!!! と、勝手に先生が考えている。――――もちろん、本人やる気ないですよ。

「いいじゃないか、笛の次はなんだ?」
「しらなーい。絃を弾くものだって〜〜歴史ーー」
「歴史? 何が面白いんだ? 今なんてこの国の創設者がいかに偉大だったか延々話しているんだぞ!」

 偉大なる創設者。時代を担う王子様には! 是非この方を見習って! という押し付け。

「馬鹿な事言わないでよーーーたかだか糸に馬鹿にされてる私に言うこと?」
 藺宇の手の中で、こんがらがった糸が無残に引きちぎられた。
「あのなぁ、座って話し聞いているだけだぞ? 笛を吹くほうが面白いだろ? それに神話については話されない。埋もれた隠したドロドロな事実だけを聞いていくんだぞ?」
「えーーー楽しそうーーー」
「お前なぁ………」

「暗殺事件とかーー反乱とかーーー裏切りとかーー」
 およそこの年頃の少女とは思えない発言だ。
「歌にあわせて伴奏を弾いたり、神話を読み漁ったり、出版を廃止された本を読んだり。」
 廃止された本から何を学ぶ気だこの少年。

「この薬は無味無臭で暗殺に使えるーーとか。他の地形とかーー」
「食べ物を作って食ったり、藁人形(わらにんぎょう)作ったり。」

「つーーまんなぃーーー」
 唐突に、藺宇は布を再び投げ出した。
「だーーーこんなんわかるかーーー!!!」
 藺志はノートを床に叩きつけた。



「「…………」」


 どちらもイライラと、時間がたった。

 ここは二人の部屋である。まだ、別々の部屋にはならない。部屋が別でも問題はないが、なんとなくである。まだまだ十歳にもならない甘えんぼ。わがままは通りやすい。


「ふーーー」
 どさっ! と藺宇と同じベッドにねっころがる藺志。
「んーーー」
ガン!!
 暇でごろごろとベッドを転がっていた藺宇は落ちた。

「…………」
 ――――俺のせいじゃない。
 例え、二人のベッドが同じだったとしても、だ。


「〜〜〜〜」
 床に突っ伏したまま、藺宇はしばらく止まっていた。起き上がることですら苛立ちを感じる。

「〜〜〜?」
 腹立ち紛れに、藺志が叩きつけたノートに手を伸ばす。


「…………」
 藺宇の八つ当たり、もとい苛立ちの原因。どうしたらこんなにもこんがらがるのか不思議なくらいこんがらがった糸の塊に、藺志は手を伸ばした。




 時間は、もう、二人には皆が「おやすみなさい」を言う時間だ。にもかかわらず、煌々(こうこう)と照らされた部屋。
 城の中は静まって、見回りの兵士が巡回し、部屋の前に立つ兵士がそろそろ疲れてくることだった。

 …………お二人さん? 明日も早いのではないか?



「「…………」」



 時間が止まったようだった。少なくても、二人には。いや、その表現はあってない。止まったのでなく、発見をした。見たいな感じ。今までの考えが180度変わる感じ。


――――ねぇ!!!
――――これだ!!

「――――王子様! 王女様! いつまで起きていらっしゃるのですか!」

 扉をノックすると同時に、弦鋼(げんこう)が部屋に入ってくる。――――どうやら、彼はずっと部屋の前で待機していたらしい。

「お二人が居眠りをしていたので早く寝かすようにと、エジェバン先生と、メイア先生から仰せつかっています。」

 ――――歴史の教育係と、裁縫の先生。

「「えぇーーー」」
 二人は、はもって講義した。

「文句を言うのは止めてください。――――“王子”様! 床に寝そべるのはおやめ下さい。風邪でも引かれたらどうしますか!」
 まだ、寝巻きのみでは肌寒い。

「………」
 歴史のノートを閉じて、本棚に戻し、ベッドに入った。

「“王女”様! 糸くずは籠に捨ててください!」

「………」
 ゴミを集めて、弦鋼に渡した。


「…………」
 一瞬、怒鳴りかかろうかと思った弦鋼だが、そこは子どもと大人の差。

 もぞもぞと二人がベッドに入るのを確認して、部屋の中の灯りを吹き消した。入り口の横にある蝋燭(ろうそく)一つだけ消さずに残して。


「おやすみなさいませ。それから、侍女が起こしに参りますので。」
 寝坊させてもくれないらしい。

 バタンと扉を閉じて、弦鋼は廊下に出た。



「「…………」」


「…………ねぇ」
「…………ああ」


「「おやすみ」」


 意味深に声を掛け合って、二人は眠りの中へと向かった。





きぃ―――
 ゆっくりと静かに弦鋼が部屋に入る。二人が寝たのを確認しに。

 寄り添うように眠る藺志と藺宇のことを、弦鋼は区別することが出来ない。

 だって、髪の長さは同じだし、着ている寝巻きもおんなじで。

 え? 何でかって聞く?

 それは簡単一重に言うと、母親の趣味としか言えません。




 さてさて皆様わかります? 次の日になってこの二人、いったい何をすることか―――――




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