ある兵士の受難



 俺は、今、すばらしく沸き立っているこの気持ちを書き綴りたいと思う。この国の兵士となって早五年。ようやく!! ようやくこの時が!! なんと先日この国の王妃となったルシークス国の王女様――王妃様の護衛をすることとなったのだ!! 王妃様の部屋の前の護衛は、ローテーションがくまれ……おっとっと。これは城内でも企業秘密だ。軽々しく話していいものではない。とにかく! 俺は今王妃様の部屋のまん前の扉の前に立っているわけだ!! 入ろうとする奴を止めて!! 「何用だ」と問いかける!! く〜〜かっこいい俺。いっそのこと何か事件でも起きないだろうか、それを俺が一瞬にして解決して、そして陛下のお目通りよろしく……

「―――ちょっと」

「はっはぃぃい!!?」
 びびった。まさか中から声がかかるなんて。

「エルモアは?」
「エルモアさんですか? 方向音痴の?」
 そういうと嫌そうに顔をしかめた王妃様。え゛!!? 禁句だった? まずい、俺の首が飛ぶ!! ぁあ、短い護衛人生だ……
「つれてきて頂戴、早く」
「は? しっしかし王妃様の護衛が」
「いらないし」
 そう言って剣を首もとに突きつけられた。
「そこそこの奴なら切り捨てるから。気になるなら代理でもよこして」
 そっそんな……
「早く」
 問答無用で追い払われた。



「マジかよ……」
 廊下を歩きつつぼやく。しかし、王妃命令。逆らうわけにも……そうか! これをクリアすれば俺の株が上がる! よし頑張るぞ。なんでも、エルモアさんは自分が極度の方向音痴だと認めたがらないので有名だ。王妃様も言われた。「エルモア見つけて私の部屋はこっちだから案内しますって行っても、私は迷子じゃありません! って言って別方向に行くわよ」――よくわかっていらっしゃる。さすがだ。で、だ。

「どーすっかなーー」
 そんなエルモアさんを王妃様の部屋まで連れて行くのが俺の任務だ。とりあえず、まずは目的人物を探すか。



「っきゃーー! どいてください!!」
「ぅおっとっ……なんだ?」
 食事に誘われて調理場にいないかとやってくると、どうも修羅場らしい。朝から。何事だ一体? 普通こんな事ないぞ。

 一人捕まえて問い詰めた。

 ――なんでも、卵がないらしい。ニワトリ小屋が荒らされているそうだ。ニワトリが暴れていて誰も近づけなかったそうだ。落ち着いた時に行って見れば、卵は全滅だそうだ。今日の朝食に卵が使えないということで、急いで代わりを用意しているらしい。

 なんだってそんなことが? ま、いーかと思いつつ。どうせ国王の食卓なんて俺には無縁さ。



 あ、いた。エルモアさん。……いや、誰も廊下を移動するのは無理だろう。無理だって。でもあの王妃様ならやってのけ……やめよう。命取りになるような事を考えるのは。

「さてどーするか……」
 うしろからこそっと追いかけつつ、独り言。たぶん、俺が出て行っても無視されるだろうな……。とにかく、王妃様の部屋まで連れて行けばいいんだろ……?


※ ※ ※


「かっわいい〜〜セネカ様みたい!!」
 ……マジですか?

 と、言う事で突然だが、俺はヘンゼルと・グレーテルの話を思い出し、飴玉を先回りして撒いてみた。まぁ、こんな怪しいもの普通拾うわけないかと思えば……そうだな、普通の人じゃないし。いいか。これで。俺の思惑通り、徐々に近づく王妃様の部屋。ほっ。これで任務完了だ。―――しかし、最後まで気が抜けないか。

「――って! こんな事している場合じゃない! 早くセネカ様のお部屋まで!!」
 今更だろ、今更。しかも、律儀に全部拾って。飴代、王妃様支給してくれないだろうか……切実に。

「お部屋は……ここじゃないですか!! よかった〜いい子だわ〜〜自分から来てくれるなんて!」
 無理無理。そして基準が理解できん。

 まぁ、とにかく俺の任務は、

「おはようございま〜すセネカ様!」
「遅い!!」
ドゴガゴン!!

「………」
 終わった。よな?



 その日の夜、なぜか兵舎まで押しかけてきた(?)王妃様。

「ギーリック!」
「ははっはいい!!」
 もう何度も呼びかけたらしい俺の名に、答える。もう疲れたので早々に眠っていたところ、同室のザデォがたたき起こした。曰く、「王妃様が呼んでいる」。

「なななんでしょうか!!?」
「明日は焼き菓子がいいから」
「は?」
 それだけ言って、王妃様は俺の手に袋を手渡した。じゃらりと、金属音。
「……え゛?」
「甘いものね」
「おおおうひさま!!?」
 答える間もなく、王妃は歩き去った。………ってその先に、なんで国王陛下がーー!!?

「何しでかしたんだお前……」
 ザデォが引きつった顔で問いかける。俺は呆然としたままだ。何か少し会話したらしい王妃様と国王陛下は、そのまま城の中に消えた。

「ななにごともなく……?」
「ギーリック」
「隊長!! 何事ですかぁ!!」
 もう半泣きだ。
「うろたえるな――と言うほうが無理か」
 そうです!! 大きく頷いた。
「どうやら、王妃様の……娯楽に付き合わされるみたいだな」
「なんで俺が!!」
「今日の朝部屋の前にいたからだろう」
「………」
 言葉もない。

「まぁ、何を頼まれたかは知らんが、機嫌を損ねないように頑張れ。



 ―――どうやら、俺はあの王妃に捕まったようだ。喜ぶべきか、それとも。そして今でも、首はつながっているみたいだ。


おまけのおまけ⇒その日のセネカ