結婚式で


 ゴーンと鐘が鳴り響く、光まぶしく、髪をなぜる風。


 ――今日は、歴史紙上もっとも、この国の行く末を案じる日となるであろう(発掘された国王の側近の日記より)。





「行くぞ」
「そうね」

 この(ナイレイル)国では、婚儀の式は普段は放置状態の式場で行なわれる。なんだかんだでもとの資金の出所が怪しい豪華な白のドレスに身をつつんだセネカと、同じく白の礼服に身をつつんだ国王が並ぶ。開けられた扉をくぐった瞬間に鳴り響いた鐘の音が、はじまりの合図を告げていた。


 この式に出席できるのは夫婦となるものの家族、親類。国の中の有力権力者。他国のものは入れない。それと警備のために、国王の側近を勤められるほどの実力者達だった。

 ――よく考えるべきだった、ルシークス国からは、国王とその娘達しか来ていなかったことを(式の直後の国王談)。


 正面の祭壇にいる神官に、祈りを捧げられて誓約を結ぶ。それで婚儀は終了だ。必要最低限は。もちろんそれだけで終わるはずもない。まずは長々と神官のお祈り、お説教。ありがたみを感じろというほうが無理な話しだ。たいていここで何人かは眠気に誘われるはずだが……今日は頑張っているな。俺の苦労がわかったか。


「それでは誓約を……」
 いい加減暇を持て余していたセネカと、俺の意識が神官に集中する。よかった。とりあえずこの話をすっ飛ばせと言いたいとしか読み取る事のできない攻撃(さっきから足を踏まれっぱなしだった)から逃れられる。

「二人は……」
「……やはり許せるかぁ!! セネカと結婚したいなら俺の屍(しかばね)を超えてゆっ……」
 人が立ち上がる音に続いて、何かが割れる音と、人が倒れる音がした。
「………」
 あまりに一瞬の事で目が白黒する。結婚させるためにセネカを俺に会わしたんじゃないのか?それにいつの間にか、目の前の祭壇においてあった花瓶の一つが消えている。青い顔の神官を見て振り返ると、後頭部に何かがぶつかったらしいルシークス国王は、仰向けに倒れていた。泡を吹いて。
「せ、セネカ?」
「はい何か?」
 また、いい笑顔で振り向くセネカ。何もなければ、微笑ましい姿だ。視線の先に映る国王は倒れていて、セネカの右腕が手首まで水で濡れていなければ。
「切れ味のいい短剣を持参しとくんだった」
 神官の顔が引きつった。さすがに婚儀の儀式で女性に武器を持たせないだろう。俺は続きを促した。

「えーーそれでは、お二人のこ……」
「やはり冗談ではないわ!! 考え直して国王っ!!!?」

 ………このパターン、いつまで続くんだ?
 まるで死体が積み重なるように二人目。消えた……割れた花瓶。振り返れば涼しい顔で微笑む第一王女。ぶつぶつと小声で話をしていてどれどころではない第二第三王女。

「………」

「セネっ!!? ぐぎゃぁ!」
 気がついたらしい国王が起き上がる前に、セネカはピンヒールで踏み潰した。って、いつの間にそこに?

「よく、わかったわ」
 にこやかに言い切ったセネカ。見る間にどこから運んだのかわからないロープで国王と第四王女を簀巻(すま)きにして転がしだした。
「ちょっとお姉さま!! 見てないで手伝って!!」
「ぇえ!? なぜ?」
 まるで天使の鏡だと称されるくらいかわいく首をかしげる第一王女。
「何でよ!! 国王の不始末は第一王女のお姉さまが取るべきだわ!!」
「確かに、お父様とエリスがいたら騒がしくてならないわ。追い出すのは大賛成だけど、それは貴女の役目でしょう?」
「「同感」」
 いつの間にか、話を聞いていたようでもう二人も同意する。
「だからなんで!! その根拠は!」
「………」
 目を細めて微笑んでいた王女が目を開き、声をつむぐともう二人の声が重なった。

「「「末っ子だから」」」

「納得できるかぁーー!!」
 再び飛んできた花瓶をさらりとよけて、第一王女は言う。
「早くその二人を追い出してセネカ、いつまで中断させておくの?」
「お姉さま、私だって認めたくないけど、これはお姉さまの父親と妹よ?」
「血のつながりがあることが唯一の汚点だわ」
「お姉さまはそれ以前に正確の問題でしょ?―――いよっと」
 そう言いながら、国王とエリスを開いた扉の外に……
「セーーネカ様ぁーー!! ふげぎゃん!!?」
 いた、エルモアに叩きつけた。
「な、なんですかぁ?」
 また擦りむいたらしい鼻の頭を抑えたままエルモア。
「見張ってて」
「誰をデスかぁ!!? っは! 国王様!! なんてひどい仕打ちを受けているのですか!! 誰がこんな事を!!」
「んーーんんんーー!!」
 注※ ぜーーセネカぁーー!!
「わかりました!! この紐が取れないように見張っときます!!」
「よろしくね」
「はい! だって命はおしいです!!」
 バンっと、目の前で勢いよく扉は閉じられた。


「まったく」
「ああ、騒がしかったわ〜〜もっと早くに対処すべきでしょうセネカ」
「だからなんで」
「さ、ちゃちゃっと終わらせて」
「………」

 怒りに狂っているとしか思えないセネカが再び俺の隣に並ぶ。

「……ごほん。では誓」
 言葉は、続かなかった。
「なっ!!?」
 突然沸き起こった黒い煙に、神官がつつまれた。とっさにセネカをかばってすぐに晴れ渡る雲。と……
「いやぁぁああーー!!」
「!!?」
 いつの間にか戻ってきて椅子に腰掛けていた第四王女エリスが絶叫した。
「――ちっエルモア。あとで縛る」
「おいおい……」
 それもそのはず? 神官は青くでかい蛙となって祭壇の上にいた。
「リノルお姉さま! アイレお姉さま!」
 セネカは振り返って叫んだ。怒っていた。
「黒魔術なのか……?」
 信じたくもない。
「成功」
「積年の怨み晴らしたり」

「リノル、アイレ」

 ピキリと、場が凍った。
「な、ぁに?」
「レイネ、お姉さま?」
「もとに、戻せるのでしょうね?」
「「……………師匠は」」
「あなた方は?」
「「…………」」
「何かお言い」
「魔力が、少ないから」
「すぐに、戻る」
「本当?」
「「たぶん」」
「たぶん?」
「「ひぃ!!」」
 びくびくと、二人は縮こまった。

 そうこうする内に、神官は元に戻った。しかも、
「陛下、私はいったい何を……」
 蛙になっている間の記憶はない!! 今がチャンスだ!!!
「いや、何もないというより早く進めてくれ!」
「は、はい!」

 その後、気絶したエリスは再び式場の外に放り出され(またもエルモアに激突)。双子はレイネの怒気に黙り込み。とても厳粛(げんしゅく)な雰囲気で儀式は進んだ。(式の直後のレイネ談。)
 実際は、もう……微笑んでいたのはレイネだけと言う異様さ。(振り返った国王談。)



「まったくもう、ねぇセネカ。みんなで行くと言ったとき止めにかかった大臣を黙らしてきて、正解だったわね」
「殺すなよ!!」
「失礼ね。殺してなんかいないわ。ちょっと、書類の束に埋もれてあげただけ」
 窒息してないといいけど。
「いや! そこはおとなしく従っとくべきでしょうお姉さま!!」
「あらまぁ〜〜? どうして?」
「寒気が走る!!」
「おめでとうセネカ、これで天国の方々も浮かばれるわ」
「誰だよ!!」
「え? だから背後に気をつけてね」

 不吉な言葉を残して、第一王女は去った。すっかりおとなしくなった双子と、何かを嗅がせて眠らせたままの国王と第四王女を連れて。


「また来るわねぇ〜〜」
「二度と来るな!!」

「まったくだ」
「あ!(忘れてた。)」
「おい、今なんか考えなかったか?」
「気のせいよ、き・の・せ・い!」
「そうか?」
「そうだから!!」
「…………」
 ため息をついて、ゆっくりとセネカを抱き寄せた。
「……」
 城の中からは、華やかな宴がまだ続いているように沸き立っている。この国王は、抜け出してきたのだろうか?
「騒がしい一日だった」
「本当だわ」
「だが、」
「?」
 見上げると、目が合った。
「楽しかったな」
「どこが……」
「いや、俺は兄弟がいなかったから」
「あんなにはいらない」
「………」
「まだ」

「セーーネカ様ぁーーー」
 ガクッと、国王の気がそがれるのがわかる。

「何よ……」
「見てください!! 死守しました!!」
 そう言って、簀巻きにされた人型の人形(リノル&アイレ作)を連れているエルモア。

「いーがげんで、とっくの昔に帰っていると気がつけーーー!!!!!」

 抱きとめられていた腕の中から抜け出して、エルモアを蹴り飛ばした。

「ははは……」
 また乾いた顔で眺める国王に、密かに見守っていて、その場を離れようとしていた側近はため息をついた。


「っ! セネカ様!! 今日はお祝いなんですよ!! どーして殴るんですかぁ!!?」
「あんたがいなければまだ楽しめたわーー!!!」


 新しい王妃の絶叫が、城中に響き渡った。



「大丈夫です陛下、まだ夜は終わっていませんから」
「そういう問題じゃないだろうが……」

 諭しだした側近に、国王は呆れていた。



あれですね国王の疑問は、大臣とかがなぜ来なかったのかってこと。
従者は馬車を操縦していた人とかですから。

ってか全員暴走していて収集がつかん!!


200.11.10