ブレンドハーブティー



「ねぇセネカ様ぁーーぶべしっ!!」
「………」
 蛙がつぶれたような音が聞こえ―――ないわね。
「…ぅ……うっうっ……ひどいですセネカ様。いきなり何するんですかぁ」
「何? あなたが何か余計な事を言う前に、テーブルに突っ伏すさせてあげただけよ」
「何も言ってないですーー」
「言うつもりでしょう?」
「ううっひどいですー鼻の頭擦りむきました」
「よかったじゃない。皮が強くなるわ」
「あ! そうなんですか!」
「……そうよ」
「なるほどーー」
「まったく、お茶がこぼれたわ。注ぎ足して」
「でも、さっきも口につけてなかったですよね?」
「まずいから」
「なんでーー!!」
「なんで? なんでって? この口が言う!? ぇえ?」
 ほおをつねりながら引っ張る。
「いひゃっいひっいひゃひゃはははっ」
 ※注 いたっだって、セネカ様がっ
「あのね、自分のいれたお茶だってわかってる?」
「ひゃひっはー」
 ※注 知ってまーす!
ずごん!
「…………」

 それきり、静かになる。外にセネカ専用に作られたテーブルと椅子。晴れた日の午後はいつもここでお茶をしていた。―――セネカにしてみれば他の場所にも行きたいのだが。今のうちはまだおとなしく使うだけ使っておこうと思っていた。

 こくりと、おそらくハーブブレンドティーを目指したのだろう。な、色からしておかしい(黒っぽい紫)お茶を飲むセネカ。
「にがっ」
 お茶がーー?
「ある種国宝ものね」
 普通のハーブティーですら絶対におかしいのだ、勝手にブレンドしてまともなものになるはずもない。――――そう、兵士の一人、二十人を城のお抱え医師に見せなければならなくなったくらい。の、兵器として。
 ………使い方違ってません?

「有効利用」

 しかし、そんな殺人茶を、毎日毎日飲んでいる王女様。―――ぁあ、耐性(たいせい)がついたんですね。きっと。あれですよ、“慣(な)れ”。
 ―――うん。常識って、なんだっけーーー……

「ぜ、ぜねがさ……ま……」
 ひくひくと、震えながらも片手をテーブルの上、セネカの視界上に上げてきてエルモアがうめく。どうやら、さっきまで地面とキスしていたらしい。セネカの足下、真珠をあしらったヒールが光る。
「どうかした?」
 悠然(ゆうぜん)と足を組みなおして、セネカはまたお茶を飲んだ。
「そういえば、どこに行っていたの? また迷ってたわけ?」
 なんつー白々しさ。
「迷ってません!!」
「あっそ、じゃ、寒くなったわ。部屋からショール持ってきて」
「お部屋ですか?」
「そ」
「…………」
「早く」
「せ、セネカ様のお部屋って、………あっち?」
 なんで、空を指すのかしら?
「行ってくれば」
「無理です」
「鳥になれ」
「それこそ無理です」
「大丈夫。墜落したら埋めてあげるわ」
「それってなんですかーー!!」
「やさしさ」
「………」
「セネカ様、人間って、暖かいんですよ?」
「あら? 私は暖かいわよ。基礎体温」
「…………」
 にっこりと、微笑むセネカ。その後ろに雪山が見える。――――ぁあ、風の音が聞こえる。そう、吹雪いている。雪がうなり、荒れ狂う……

「早く逝(い)って来い」
「イジメですかぁーー!!!?」

「………何をしている。何を?」
 この場所にテーブルを置かせた張本人(国王)が、タイミングを計ってやってきた。
「お茶」
「……入れてます」
「………いつも、こうなのか?」
「“こう”とわ?」
 セネカは首を傾げた。
「何か、あったかしらねぇ?」
「さぁーー?」
 ふられたほうもふられたほうだ。
「………。」
 面白いな。
 国王は暇つぶしと言わんばかりだ。
「………」
 遊ばれてるわね。セネカは、カチンと来た。

「―――そうですわ陛下! ぜひ、お茶をご一緒しません事? ね、エルモア」
「はーーい! 入れます!!」
「何?」
 国王は焦った。どうみても、セネカの前にある飲み物がまともだとは思えない。
「せっかくご一緒いたしましたのに?」
 さめざめと泣きまねをしてみた。
「その猫かぶりはやめろ」
「あっそぅ。じゃ、飲め」
「………」
「はいどうぞ!」
 そんなうちに、エルモアが国王にお茶をだした。ルシークス国から持ってきたセネカのお気に入りのティーセットのひとつだ。赤いバラに、黒い羽根のあしらわれた白いカップ。

 そして、中身は真っ黒。

「「…………」」
 さすがに、セネカも黙った。
「―――エルモア? 私のと違うみたいだけど?」
「え? 何を言われるんですかセネカ様! 同じものです!!!」

 明らかに見た目が違う。誰が見ても一目瞭然(いちもくりょうぜん)。だがしかし、そう勢いよく断言するか、普通?

「………」
「……どうぞ、陛下?」
 どうせ人事だし。セネカは思い直した。

「………そっそういえばお前文官になるんじゃなかったのか?」
「―――はっ」
 苦しい言い訳ね。

「あ、やめましたぁ」

「「は!!?」」

 まったく同時に同じ事を言う自分の主(セネカ)と国王。この二人は仲良しさんだなぁ〜〜……なんてのんびりとエルモアは思った。

「なんですって?」
「あれ? 言ってませんか?」
「んですって?」
「いいいひゃひゃいひゃひゃい!」
 ※注 せ、セネカ様さまさま
「いつ? なんで?」

「この前の講義の時にーー」
 のんびりとエルモアは話し出した。

 もわんもわん。そんな効果音と共にエルモアの頭の上に雲が立ち上りそうだった。

「先生の所にプリントを取りに言ったら、たまたま開いていた窓から蜂が飛んできて先生の頭の周りを飛び回っててーー先生気がついていなくて〜〜いまだぁ!! と思って紙の束で先生の頭……の、上を飛び回る蜂を叩こうとしたら先生の頭に直撃」

「で?」

「で、先生のカツラが窓の外にぴゅーーって」

「って?」

「飛んでいって落ちるかと思ったら、鳥が持ち去ってしまいました」

「「………」」

「みんなが楽しそうに笑う中。先生は私に出て行けーーって言って追い出されたんです」
「他には?」
「お前は破門だーーって」
「………」
「でも、いいんです! またセネカ様のお傍にいられれば!!」
「実家に帰れ」
「なんでですかぁーーー!!!?」
「………」
「……陛下。冷めないうちにどうそ」
 逃げようと後ずさった国王に、セネカは声をかけた。
「どうぞ!! ぐぐぃっと!」
「………一気飲み?」
 そう言いつつも、セネカはまた一口。お茶を飲んだ。――――はために見れば優雅さが漂う。見た目だけ。

「………」
 周りで家臣が止めるに止められない状況の中。意を決して国王はカップを手に取った。
「あ! おかわりはたくさんあります!」
 ――――最悪ね。セネカは思う。
「………」
 さりげなく芝に流そうかと思っていた国王は、まったくなんの打算もない言葉に打ちひしがれた。
「………いただき、ます………ぐはぁ!!!?」
 そのまま脱力しながらも飲んだ一口。国王は倒れた。

「へっ!! 陛下!!?」
「誰か! お部屋にお運びしろ!!」
「い、医者だーー!!」
 慌てふためく側近。大臣。――――それこそ、お茶を飲んだだけなのに。


「陛下ーー気をしっかりーーー!」


 ばたばたと人々が走り去って、一陣の風が吹く。カップを手に取り、何事もなかったといわんばかりのセネカが。お茶を飲む。からになったカップに次を注ぐエルモア。―――セネカの顔に怒りが浮かんだのは見えていない。

「どうしたんでしょうか陛下?」
「おいしくって気絶したんでしょう」
「そうなんですか!! わかりました! お見舞いにお茶入れてきます!!」
「―――行って来れば」

 セネカは、止めなかった。



 その後、二人の午後のお茶会はと言いますと。遠めに目を伏せる人々は多くとも。近づく人はいなかったそうですよ。………無謀(むぼう)な国王様を除いては。





お茶じゃないですよね。平然と飲んでるセネカが恐ろしい。
飲み続けてきてますからね。(そういう問題か?)
「Her family」はややこしいのでまた今度
国王で遊ばしてみました
ってかこの世界で“文官”ってなんでしょうね。
それは短編のなごり(だって、話し続けないつもりだったから問題にならない)。

ちなみに一番最初。エルモアに「セネカ様って“ツンデレ”ですよね」って
言わせる予定だったけど。
この世界でツンデレって通じるのか…
それよりもセネカはツンデレの分類に入るのか…



2006.10.12