彼女の家族


〜Seneka side〜

「………はぁ」
 もう、何度ついたかわからないため息。―――むしろわざとよ。わざと。
「………」
 隣に、なぜだか緊張気味の男……なんでよ。馬鹿おやじとお姉さま達が来るだけじゃないの。兵士もいつもの倍はいるし。ってかエルモア――――迷子ね。

「――――」
 まわりがざわついているわね、着いたのか。
 閉じて下を見ていた顔を上げると、いきなり目の前に国王の背中が……
「………」
 押しのけて階段を下りた。

「「…………」」
 嘆いたのは側近だった。

「セネカ! 妾でも無理だと思ったのに!!」
 一ヶ月前までぼろぼろだった馬車が綺麗になっている。―――ご苦労様修理師。いつも無理難題を押し付けられ……

どごん!
 するりと、よけた。まるで何もしなくとも流れる川の流れのように、それが当然。

「……ほめている父親の扱いか?」
「どこが?」
 何をほめているわけ?
「いや〜〜本当によくやっ」
 立ち上がる途中で足を引っ掛けてまた転ばした。

「あら、お父様。どうしたのですか?」
 一部始終を見ていたレイネお姉さまがいう。
「レイネお姉さま」
 腰を折ってご挨拶。
「いいのよ、セネカ――――お久しぶりですわ国王陛下」
「――――ああ」
 にこやかに微笑む笑みに、一瞬見とれた国王が答える。ある意味、騙されなくてよかったのかしら。
「「セネカ。ナイレイル国王様」」
「リノルお姉さま、アイレお姉さま」
「おいわい」
「よろこび」
「ありがとうございます」
「……」
 何か、かみ合っているようなない会話。同じ顔の双子が、同じように礼をした。

「お退きなさいあなた方!! お久しぶりですわ、国王陛下」
「お姉さまも、元気そうで」
 私をすっ飛ばして国王に挨拶しているエリスお姉さまに、言葉をかける。

「「………」」
 一瞬、バチリと二人の間を火花が通った。



〜King side〜

「………」
 まずい……
 こんなに緊張していたのは久しぶりだった。まして、客を迎えるためだけに。

「………はぁ」
 うしろからため息が聞こえる。いい加減で嫌がらせか?

「――――」
「!?」
 ざわめきが広がって、近づいてくる馬車。目の前に止まったと思う間もなく、後ろから押し退かされた。
「……」
 驚いているうちにセネカは階段を早足で下りていた。呆然としていると、頭を抱えたような側近の一人が近づいて我に返してくれた。

「セネカ! 妾でも無理だと思ったのに!!」
 最初に出てきたいきなり中年の男が走り寄ってくるのが、見えた。
どごん!
 ぁあ、よけたな。まるで川の流れだ、流れ。違和感もない。と、いうことは、あれがルシークスの国王か。……今度は気絶したか?

「お久しぶりですわ国王陛下」
「――――ああ」
 そして何事もなかったかの用に――実際ない。姉妹の二人が簡単に挨拶を終える。すぐにこちらに声をかけて微笑みかける第一王女レイネ。その笑顔に瞬間見とれる。その完璧すぎる笑顔に何か不吉なものを覚えて、彼女の求婚を断った事は記憶に新しい。

『ごきげんよう。わたくしは、ルシークス国第一王女レイネと申します』
 あの時の笑顔に、謁見室では皆がほうっと見ほれたのだ。しかし、俺は背筋が寒くなった。



『―――この国は、わたくしには眩しすぎるのですっ!』
『王女……?』
 会話の途中で何を言い出すんだ?
『実は、愛を誓い合った方がいるのです、ですが、お父様の言いつけで……ぅ……』
『なっ』
 そんな都合のいい話、信じられ……
『それはなんと理不尽な!!!?』
『許すまじ!!』
 ………たのか?
 なぜだかいつの間に、王女に同情したらしい大臣共が……お前ら、顔と、豊満な胸を強調する露出の高いドレスに感化されたな!!?
 王女が泣き崩れると、胸元が余計に強調された。
『お帰り下さい王女様!!』
『どうぞ! お幸せに!!』
『ありがとう! 皆様のおかげで希望が持てましたわ〜〜』

回想終了

「………」
 まてよおい、なんなんだこの流されっぷりは……第一、セネカの姉………?

「「セネカ。ナイレイル国王様」」
 思考を中断するように、また声がかかった。
「リノルお姉さま、アイレお姉さま」
 その通り、第二王女リノルと第三王女アイレだ。
「おいわい」
「よろこび」
「ありがとうございます」
「……」
 なつかしい。まったくもって区別がつかない。同じ顔で漆黒の瞳に長い髪。第三王女が来たときなんか、なんでまた来たのかと思ったぞ。


『………どうも』
『………』
 俺は、いろんな意味で引きつっていたと思う。
『へ、陛下……』
『どういう、事なのでしょうか?』
『俺が聞きたい』
 長く黒い髪、いったい何を目指しているのか問いかけたくなるほど真っ黒な服に身をつつんだ王女。
『同じ、顔』
『は?』
『第二王女―リノル』
『……何?』
『………』
『……まさか、双子なのか?』
 こくりと、第三王女―アイレは頷いた。そして沈黙した。

 そして、第二王女と同じようにたっぷりと俺の顔を見て、気がすんだらしく勝手に帰っていった。

『何をしに来られたのでしょうか?』
『もう、いいだろどうでも……』

 謎だった。第一、あの双子の王女に無言で睨まれていたのだ。疲れた。

「お退きなさいあなた方!! お久しぶりですわ、国王陛下」
「お姉さまも、元気そうで」
 第一王女とは違う普通の笑みで(それでも傍目には魅力的に映るのかもしれない)、第四王女―エリスが声をかけてくる。……そうか、コイツもいたのか。と、聞きとがめたセネカがうしろから声をかけている。
「「………」」
 一瞬、バチリと二人の間を火花が散ったように思う。誰も気にかけていないのでほうっておく。母親が違うとかで二人は半年と歳が離れていないそうだ。
「セネカ、私は国王様と話しているのよ?」
「またふられるために?」
「………」
 どうやら、本当に仲は悪いらしい。

「ほらほら、セネカ。お祝いなのだからそんな本性を表さないで頂戴」
「お姉さまこそ」
「おほほほ、どういう意味かしら?」
「別に」
「………」
 やはり、一波乱ありそうでならない。

 第四王女は苦手だ、求婚しに来て、断っているにもかかわらず執念深い……うえに恐ろしかった。何をそう必死に……

「そのせいであぶれてるって理解してる?」
「このっ!!」
 せネカの的確な指摘に、言葉を失っていた。
「自覚してないからたちが悪いし」
「お黙り!」
「黙るのはそっちよ負け犬!!」
 勝ち誇ったセネカの笑みが黒い。



〜Senaka & King side〜

「セネカさま〜〜ぁ!!」
 剣呑な雰囲気をぶち壊して、さらに悪化させると断言できる声が聞こえる。
「来た……」
「あらぁ?」
 “あらぁ”じゃないでしょうが!!
「まぁ、エルモアあなたはここにいたのね」
 驚いたようにレイネ。
「もう方向音痴は直ったの?」
 復活したエリスは、ズドンと星を落とした。
「………ぅぅう。この姉妹は性格わ」
 何よ、“悪い”って?
「く、口で言ってくださ」
 面倒。
「いたい……」


「しかし、何で五人ともいるんだ?」
 一人も嫁いでないないって。
「ぁあ、レイネお姉さまは、結婚相手葬ってきて。リノルお姉さま、アイレお姉さまは黒魔術師に弟子入りしていて。エリスお姉さまはあぶれ」
「…………」
 何からつっこむべきなのか?
「ぁあ!!!」
「な、なんだ」
「あなたがいなければ、私は帰れるのね」
「それは困る」
 ひどい婚約者が……
「聞きたいんだが」
「何」
「何を葬ったって?」
「それは、かつての私の夫ですわ」
 さめざめと、第一王女レイネは泣く。
「愛し合っていたんじゃないのか?」
「それは、もう過去の事……彼がいなくなってしまってわたくし……」
「晴れて生まれ祖国に帰ってて、国王をなくした悲しき王妃は国を属国に仕立て上げて国庫をほぼすべて祖国のために費やしていると」
「あら、セネカ。それではわたくしが夫を殺すために嫁いだみたいね」
「否定してないけど」
「ふふ、誰も疑わないってつまらないわ」
 満面のあの笑みで、レイネは言い切った。
「それに、どいつもコイツもわたくしが小国のものだからって馬鹿にしていますし。お父様がもっとしっかりなさっていれば、わたくしが他国から資金を調達する必要もないのに」
「強奪ね」
「まぁ、セネカ。貴女の婚礼資金、どこから出していると思っておいでなの?」
「え゛?」
「ふふふ、夜後ろから足音が聞こえても振り返らないでね」
「………」
 本当に、この王女を王妃に迎えなくてよかったと思う。


「さあセネカ!! 今日は宴だ!! 他国の資金を費やそう!!」
 いきなり復活したらしい馬鹿親父がわめく。
「もう帰れ」
「なにぃ!!!?」
 国王は打ちひしがれた。
「………くっ! 聞いてくれわが息子よ。なぜわが娘はこうも冷たいのだろうか? 昔はよかった。『お父様』とかわいく言いながら走り寄ってきて、階段のうしろから突き飛ばされたり、肉食獣を飼いたいとつれてきて目の前で鎖を外されたり、何が作りたかったのか謎な炭を残さず食べてねと置いていったり………ぁあ、あの頃がなつかしい」
「………」
 そうか?
 乾いた表情でセネカを見ると、すでに姉と他の従者を連れて城の中に向かっていた。
「………おい」
 これ(ルシークス国王)と一緒に置いて行くな!!


「国王様! よろしければ私を案内していただけませんか?」
 まったく相手にされていないと気がつく気のないらしい第四王女エリスが、再び国王に擦り寄る。


「くっくっく結婚だって」
「聞いたわリル」
「セネカに仕返しをするいい機会じゃない? イレ」
「「積年の怨みを……」」
「くけけけ……」
「あははは……」
 焦って継父を振りほどこうとするナイレイル国王の後ろで、はれて黒魔術師に弟子入りをはたした双子は、顔を寄せ合ってささやきあった。



「ほへぇ〜〜?」
 そしてエルモアは、そんな光景を見て一人、みんな仲良しだなぁと勘違いしていた。





 ルシークス国第五王女セネカと、ナイレイル国王陛下の結婚式が、三日後に迫っていた。



変な家族。
そしていつの間に結婚することに……


2006.11.10