彼の贈り物


「何かほしいものはあるか?」
 さて、ほしいもの?
「!」
「権力は駄目だぞ。誰を殺す気だ?」
「……!」
「武器も駄目だ。だいたい持っているだろ。それだっていろいろ黙らせるのが大変だったんだぞ」
「………!」
「毒薬も駄目だぞ、毒蛇もだ。だから誰を殺す気だ誰を」
「全部、くれないじゃないのよ」
「他にあるだろう!? 他に!! 普通その他のくくりの物をほしがるだろう!?」
「え〜?」
「宝石と「邪魔なのよね」」
「服と「余ってる」」
「本と「書庫からかっぱらったままだったわ」」
「「………」」

「せ〜ねか〜さまーーー!」

「実験台はあれよ?」
 豆粒ほど小さくしか見えないのに、声が響きわたった。遠目でもわかる。きっと笑顔でやってくるに違いない。
「やめてくれ、この時期にそんなものを注文したら王妃がどんなものか疑われる」
 さて今日はどうしてやろうか……ん?
「どういう意味よ」
「そのまんまだろう。この国の王妃は王を殺す気だ、とか言われかねないぞ」
「そうか、もう一人実験台が……」
「ぉい、おい待て」

「せねかっ様〜」
コケっ! ドンガラガッシャーン!!!

「える〜モアーーー!!!」
「きゃーーセネカ様の八番目にお気に入りのまがまがしい感じの血染め風味の真っ赤なカップが!!? 粉々に!? どうして!!?」
「あんたが持ってこけたからでしょうが!?」
「なんでわかったんですかぁ!?」
「私の目は節穴だとでも!!?」
 派手な音と続いて、きゃーー!? と、問題あるような……あるか。間の抜けた声。
 背後に、見送った。


「で、結局どうなってんだ?」
「………」
「収穫なしか、何しにいったんだ?」
「うるさい」
「だいたい、柄にもない事をしようとするから問題になるだろう?」
「黙れ」
「まぁ王妃のほうはきっともう話があったことすら忘れているだろうし」
「……」
 否定できない……
「他の侍女に聞いた所でどうにもならないし」
 エルモアに聞いたらばれる。だったらと本人に聞きに行ったのに。
「無駄足か」
「少し黙ってろ」
「大臣は何が言いたかったんだろうな」
「うるさい」
「お前が先走って脅すから何も聞き出せなかったな。王妃がいくらか必要としている意外」
 そうなのだ。この前大臣が一人やってきて……

「陛下、申し上げたいことがあるのですが」
「……なんだ」
 目の前に立つ大臣に対して、国王の声は冷たかった。なんと言っても、国王は話を聞く気がなかったから。
 なんたって、どうせ大臣の言うことなんてそうたいした事ではな……
「王妃様の使用費用なのですが、」
 がほっと、国王は話を聞く気もなく飲み始めたお茶を噴出した。
 大臣はこそっとにやりと笑った。
「セネカが何か買ったのか?」
「それは……私の口からは申し上げられないと申しますか」
「で、何を買ったんだ」
「ですから」
「わざわざ話しにきておいて、何も言わないつもりか?」
 それを盾にして話を進めようと思った大臣は、早くも窮地に追い込まれた。国王の傍にいる一番の護衛は、いや戦略ミスだろと頭を抱えた。
 そして大臣は、王妃がいくらか自分が使いたいのだがどうすればいいのかと聞かれたと述べた。
「何かほしいのか?」
「だから俺に聞くな。本人に聞け」
 そんな会話が、多々執務室で交わされた。


「セネカさま〜ぁ。国王様かえっちゃいましたよ〜」
「あんたのせいでね」
「違いますよぉ〜愛情度のもんだじゃっ?!」
「もんじゃ焼き? ――なにそれ?」
「うううっしりませんー」
「鉄板で焼いてほしいの?」
「焦げ目っておいしいですよね!」
「あげるわよ。炭とか」
「食べられませんー!」
「栄養価は高いって聞いたわよ」
「セネカ様の健康食品ですか?」
「ほほほほ……食べたいのね」
「あのぉ〜その手に持っているものは?」
「鉄べらよ」
「……あんまり聞きたくないんですけど、どうするんですかぁ?」
「押し付け焼きね」
「こっ国王様何しにきたんでしょうかね!!?」
「知らないし、興味ないし」
「セネカ様! 夫婦愛の欠落は片方の無関心から生まれるんですよぉーー!?」
「じゃぁあんたを焼き終わったら会いに行くわ」
「今から行ってくださいーーー!?」


 護衛に言い負かされて、泣く泣く書類整理をしていたところ、どがんと、扉が蹴破られた。
「……セネカ?」
「何?」
「どうした? いきなり」
「ちょっと、薪がほしいんだけど。大量に」
 最後の一言に力が入っていた。
「……調達する前に城に火をつけるなよ」
「無理かも」
「そうだセネカ」
 意を決っして、国王は口を開いた。
「なによ」
 ぐるりと、セネカは振り替える。
「……お前」
 首を傾げる王妃。壁際に控えていたセズがこっそり「ぉお」っと目を輝かせていた。
「薪で何をするんだ」
 がくっと、セズは頭を落とした。
「薪は薪よ。物を燃やす意外に何があるって言うのよ」
「権力も剣も毒も駄目だと知って放火に走るのか?」
「うるさいわね。くれるの? くれないの?」
 そう問いかけられる国王をセズはこれじゃ駄目だなと見送った。

「……うるさい」
 王妃の去った執務室で、国王は長年付き合ってきた護衛が口を開く前に黙らせた。
 彼の計画は、滞ったままだった。



「おっはようございますセネカ様!」
 朝、朝食を終え、午前に簡単な謁見を済ませ、リゾットで昼食を済ませ、日当たりのいいテラスでお茶を飲む王妃に近づく侍女。
「おはよう?」
 まず時間帯的に間違いなのだが、
「なに、その格好」
 その事は、侍女=エルモアの真っ赤な服に真っ赤なスカートに真っ赤な帽子に真っ赤なブーツ! という格好につっこんだ王妃のつっこみリスト第一には挙がらなかった。
「はい! 今日は贈り物がいただける日です!」
「いや、あんた配る側でしょ」
 ががーんとエルモアの頭に衝撃が走りました。
「違います!」
「じゃぁなんなの?」
 っていうか、いつのネタよ?
「形からはいるんです〜もうセネカ様〜知らないんですか?」
 今度は、王妃の頭に稲妻が通りました。
「そうね。私も準備してあるのよ」
「本当ですか!」
 目を輝かせるエルモア、その横で、テラスの椅子に腰掛けた王妃がごそごそと何かをさぐる。そして――
「ほら。これで完璧」
 王妃=セネカは、ぶすっと取り出したものをエルモアの頭に突き刺した。
「……あの〜セネカ様?」
「なによ」
「これって、トナカイさんの角じゃ」
「そうよ」
「なんでですか?」
「あんたの変装でしょう?」
「そうなんですかぁー?」
「そうよ」
「変だなーそんなつもりじゃなっ」
「そして食べられるんでしょう?」
 セネカの一言に、エルモアはずざざーーーっ! と飛びのいた。
「せっセネカ様!?」
「なによ」
「やっぱり肉食なんですね!」
「どういう意味よ?」
「いたいですー」
「折れたら困るでしょ」
 角が。
「角なんてないですー」
「あるじゃない。ほら、落ちたわよ」
 再び、容赦なくぶすっとエルモアの頭に角を突き刺すセネカ。
「そんなぁー」
「特技は分裂でしょう? もとに戻るといいわ」
「もうせねかさまぁ〜そのネタいつまでひっぱるんですかぁー? 乗り遅れてますよ〜流行に〜」
 ぶぎゃっと、言葉が続いた。
 駆け巡る冷めた風、冷め切った心。そして、根本的に欠けているもの。
「それは愛情です〜〜〜!!」
「感じ取ってよ」
「どこにですか!?」
「すべてにおいて」
 長く伸ばした爪を眺めながら、セネカは足元の物体にちらりと目をやった。


「結局、当日になってしまった……」
「決まらなかったのか?」
「いや、決まったというか……無難に落ち着いたというか……」
「つまる所、ほしいものかどうかわからないむしろ持っていそうってことか」
 セズの一言に、国王はこれ以上ないほど落ち込んだ。
「おい、おい帰って来い。埋まるな」
「だまれ」
 声がよわよわしい。


「ねぇセネカ様。それで、セネカ様が〜真っ赤に扮装して〜私がトナカイで〜何するんですかぁ?」
 テラスに座るセネカにお茶を注ぎながら、エルモアが考える。
「今日は、贈り物をする日でしょう」
 何かの陰謀で、そうなった。世間一般で言われる、年に一度のお祭りごと。本来は子供のためであった。しかし、大人でも、恋人達、夫婦で贈りあう。
「セネカ様〜ぁ」
「なに」
 すすすすっと近づいてきた侍女に、半眼で視線を向けながらセネカは答える。
「やっぱり、セネカ様は国王様がだいすきっべぎゃ!?」
「さぁ、そろそろ日が暮れるわね。エルモア、いつまでもそんなところで寝ていると風邪を――ひかないわね」
 そういって、足取り軽く王妃は城の中に帰っていった。
「ぜ、ぜね……か……さ」
 残された侍女は、最後の言葉を言い切る前に力尽きた。



 さて国王は、真新しいティーセットをセネカに送った。色は白。縁際に青いリボンの細工。取っ手は細く、中央に水晶。
 無駄に豪華で、無駄に白いカップだった。

 それをセネカが使ったかどうかは、エルモアしか知らない。






クリスマスネタに、なる予定だったもの。



2009.03.25