大臣


「セネカ様!!! 聞きましたか」
「時間切れ。―――何がよ」
「時間切れってなんですかぁーーー!! 私がんばって来たんですよーー!」
 何がって、聞いてるでしょう?
「あうっ! イタイですーー」
「で、何を」

「あ、そうなんです! 王様が第二妃を取るとか」

「あっそ」
「え゛!!? なんでそんな冷めているんですか! まさか、冷戦ですか? いつの間に王様を見限ったんですかセネカ様!!」
「あのねぇ」
「ふひーーふひひひーー」
 ※注 いだーーいたたたーー
「まるで私が捨ててきたみたいね」
「ふへ? ほへへへふははぅー?」
 ※注 ほへ? 違うんですかぁー?
「別に」

 確かに、クラウドは最近来ない。というか、忙しいみたいだわ。それに比べてお父様は五人も娘がいるんだから、ある程度は無能でいてよかったってことよね。逆にクラウドは有能すぎて、きっと大臣達が必要としているんでしょうね。
 政務をこなせといいながら、同じくらい世継ぎを残せって事よね。勝手ねぇ。

 自分達が無能なのを棚に上げて。







「あの一昔前の人間共、結婚しろ結婚しろと言ってくるから結婚したら今度は世継ぎか」
「お前も大変だなーー」
「うるさい」
「で、どうなんだ、実際」
「お前、俺を怒らせたいのか?」
 最近大臣達は、世継ぎ話に現(うつつ)を抜かれて、政務に支障が出ている。というか、はっきり言って滞っている。
「手抜きが多すぎる」
 会議を終えて夜になれば、問題が発覚して借り出される。しかも、なまじ終わったと聞いたものの実際を聞いて卒倒しそうになる。
「不備が多いんだ!」
「わかったって」
 信用して任せているというのに、最近は特に手を抜かれている。終わったという言葉を信用しているのに。
「あいつら、そろそろ引っ込んでもらうか」
「潮時、か?」
「老人は老人らしく“優雅”な引退生活をすべきだろう?」
 黒い、黒いぞクラウド。その顔。腹。視界の端にもかからないこの世の片隅にでも追いやる気か?

「で、それはいいが」
「なんだ?」
「王妃はどうやって対処するんだ?」
「………」
 お前、そこが一番の難関だろ?





「あ、セネカ様ーー」
「どうかしたの?」
「夜に王様がやってくるそうです!」
「本当に?」
「た、たぶん……」
 最近は、その連絡があっても直前になって来なくなる。あわただしく早馬が走りこんでくるからだ。どうも、最近政務に“穴”が多いわ。一体全体何に思考を取られ……
「―――なるほど」
「何がデスかぁ?」
「いや、頭の固い年代“者”には、困ったものね」

 ―――なんですか、それ?







「どうぞ」
 真っ暗な窓の外に輝く灯火を、見ていた。ノックの音に声を返せばクラウドが入ってくる。
「………冷えるぞ?」
 近づいてきては窓を閉じる。厚めのカーテンが引かれ、部屋には二人。最初は気配を感じたけれど、気になるから追い出せと言ったら次から誰もいなくなった。天井から窺う気配も、窓を覗き見る者も。――どれもこれも、無粋な年代者達の趣向。
「……」
 背後から抱きしめてくるクラウドの吐息が熱い。丁度体を預けるように寄りかかった。
「――疲れた?」
「ああ」
 うんざりしているような感じだった。

「寝るなら、ここはいや」
「………」

 窓の外から、二人の影が近いのは窺える。
 すると、ひょいと抱き上げられて寝台の端に腰を下ろされる。見上げた視線が絡むと、そのまま身体が重なった。


 始まりは、長い。いつでも。
 終わりは、早く。振り返ればもう戻れない。

 なんて、時間は残酷なのだろう。


「ふ………ぁあ!」

 不意に、狂おしく激しくなったものに、セネカは身をゆだねた。





「……ん?」
 閉じたまぶたの外が明るい。もう朝かと思う。唇から、唇が離れていくのを感じた。
「……」
 もう、起きたのか。なんだって夜はこうも早く朝になるのだろうか?

「………」
 目を開いて、首を少し上に向ける。まるで抱き枕のように背中に回された腕に力が入った。

「――――聞いたか?」
「何を?」
「………大臣が、第二妃を所望だ」
「それで?」
 だから、なんなの?
「………」
「俺は、いらない」
「で、どうするの?」
 世継ぎを残すという“義務”は。

「………俺は、お前だけいればいい」

 そう言って寝台を下りたクラウドは、グラスに水を取り飲み始める。そのままグラスを持って近づいてきて、当然のように口付けされる。のどを潤す水が流れていくように、私の頭がすっと澄んでいくようだ。

「―――なら、手伝ってあげるわ」

 こちらに背を向けて仕度を始めたクラウドが振り返る。
 朝日を浴びて、白いシーツを身体に巻きつけたセネカが、やけに美しかった。





「これはこれは王妃様」
「こんな所まで何の御用で?」
 にやりと笑ってから、怪訝そうな大臣に花がさいたように微笑んだ。
「それが―――」






 そして、次の日。

「どういう、ことだよ……?」
 やってきたセズの言葉に驚愕が混じっている。
「セネカが、大臣達に慰安旅行を勧めた」
 と言うよりも、追い出した。ルシークス国の、双子の黒魔術師の姉の所に。
 ついでに持たせた手紙には、一言。『材料を送りますね。お姉様方。どうぞ、有効にお使い下さい』
 ちなみに、慰安旅行を進める前に散々大臣をいじめいて。もう扱いはエルモア以下。ぅわあ最悪。
 意気消沈して家に帰れば、その家での居場所はなくなっていました〜〜(クラウドの策略)。そのまま王妃の提案と言う慰安旅行へ。ルシークス直通馬車に押し込まれ、拘束。

 大臣達が一晩で入れ替わられて、その息子、他に有能であるとクラウドが判断した者達が政務を執り行う事になった。そんなあわただしい中でも、表面上普段とかわらない。さすが国王。
 若者は優秀ですよ〜時代は動いているのだから、自分の利益だけ安泰なら他はどうでもいいと言わんばかりの大臣は用なしです。

 後の歴史書の「一日で大臣総入れ替え!?」と、詳細の書かれていない文を読み、何があったのか暴こうと奮闘する学者が多かったとか。






「「セネカの贈り物?」」

「ごみ?」
「生もの?」
 ある意味どちらも当てはまる。
 がらがらとやってきた馬車。
「……干物」
「……ミイラ」
 同じもの同じもの?
「実験台」
「生贄」
 同じ事同じ事。


 数年後帰ってきた元大臣の爺どもは、風前の灯だった。





2007.03.05