親子―おまけ

 ぱかっと、目を開けた。ぼけーっと天井を見つめて、ここはどこだろうと考える。
 それから、あわてて左右を見渡す。
 右側には、大好きなお母さんが、反対側に、お父さんが。
 びっくり、した。
 どきどきとあわてて、しばらく待ってみた。それから、夢じゃないんだと安心する。
 なので、じーっとお父さんを見つめた。お母さんと違って、お父さんとは普段全く関わらない。
 なんだか、遠い人のようだった。
 それが、隣で寝て――
 いなかった。
 ぱかっと、お父さんの目が見開いてびっくりする。ふるえた肩、硬直しながらも。開いた口。
 しーと、お父さんの指が唇に当てられた。
 こっそり振り返ると、お母さんはまだ寝ていた。ほっと、する。
 お父さんが“シサツ”とか、難しい言葉で理由を言われていない時、いつもお母さんはどこか――寂しそうだから。
 ゆっくり寝ていてほしかった。
 でも、僕はもう眠くない。驚いて目が開いてしまった。
「土産は、部屋に運んであるぞ」
 心引かれるお父さんの言葉にそろりと寝台を抜け出した。


 最初は慎重に、しかしだんだん急ぎ足で遠ざかっていく足音を見送る。
 ふっと笑って、距離を縮めた。覆い被さってその唇を塞いだ。
 その眠りを、促すのではない。逆、だ――
「……んっ!」
 一気に覚醒したのかその目が見開かれた。かなり機嫌悪そうに、何か気になるのかその視線がさまよう。
「部屋に戻ったぞ」
 追い返したのかと、鋭い非難の視線を受けた。
「違う。土産を見にいった」
「どうだか――ぁ」
 余計なことを、考える暇を与えない。
「重い」
 そうだな、逃がす気がないからなと、もれた言葉に口づけを返しながら頭の中で答える。
「だから、朝……ふぁっ」
「何か言ったか?」
 耳に、唇を寄せた。
「このっ」
 どこまで本気なんだか、自分でもわからない。笑った。セネカも、あきらめたのか、あきれたのか、くすくすと笑いはじめた。
「もういいだろう。何も、言うな――」
 ただ――
 唇を、首筋に――
「お父さん!」
 がくっと、気がそがれた。
 扉を開けて、入ってくる。姿。走ってきたのだろう、上気した頬で走り寄ってくる。
「おはよう、ミスト。どうしたの?」
 身をはなして、起きあがって、セネカが問う。
 その、いっさい何事もなかったかのような、態度。
「お母さん!」
 勢いがいい。
「な、何?」
 その勢いに、セネカも驚いていた。
「お土産がいっぱいある!」
「……そんなに?」
 なんだその、あきれた視線は!
「いいだろう」
「よくないでしょう。何してんの税金で」
「ぐ……」
 それは責めてるのか。そうか。
「大変だったんだからな!」
 武器とか毒以外で探すのは! どいつもこいつもうるさいから一人で探したんだぞ! 服も宝石も余っているらしいからな!
「なんの話?」
 意味不明だと言いたげに首を傾げている。その細くて、白い首筋に――まぁいい。そこはまぁいいだろう。
 まったくとつぶやいて、歩く。渡すものはそこに、隠してある。
「?」
「ほら」
「……」
 なんで、そんなに真剣に見つめてんだ?
「何を疑っている」
「毒蜘蛛?」
「なんでそう言う発想になる……」
「レイネお姉さまのプレゼントよ」
「蜘蛛か?」
「黒こげのイモリとか」
「どうしたんだ?」
「リノルアイレとトレードしたわ」
「なんだったんだ?」
「仕込み傘」
「……渡し間違えたのか?」
「たぶん」
 あの時のおねー様。眠そうだったからなぁ。
 ぼんやりと、回想に耽るセネカ。
 ……そう言う問題か?
「お母さん、あけないの?」
 そろそろあきてきたのか、早く中身が知りたいとミストが迫る。
「へっ!? ぇえ、そうね」
 慎重に、それこそ何かが爆発するのかと思うほど慎重にセネカが包みを開く。 かなり緊張、した。背筋を何かが通り抜けていく。
 そして――
「箱?」
「オルゴールだ!」
 がっくりと脱力して、うめいた。
「おる?」
「オルゴールよ。こうやって」
 なんのことだか首を傾げる息子。答えながら、セネカがネジを回す。それを放した時に流れる曲。
 流れる風と、時間。
 オルゴールを見つめるミストと、そのミストを見つめるセネカを、見ていた。
 ……たまには、いいものだと。




2009.08.04