〜2〜

「焼きりんごが食べたい」
 すべては、この王妃の一言から始まった。
「わかりましたセネカ様! このエルモア」
「あんたが作ったのじゃない焼きりんごが食べたい」
「なーーーんでーーですかセネカ様!! それって偏見ですよ! いじめですよ!! わがままですよ!」
「問題あるっての?」
「……う〜」
 空に響き渡る大声に続いて、地面に響き渡る地鳴り。そして最後に空気を振るわせたのは、侍女のうめき声だった。
 高い空の上を、一羽、鳥が飛び去った。きっと、この場にいることに身の危険を感じたのだろう。野生の勘で。
 だがしかし残念なことに、この侍女にはすばらしき第六勘はいつまでたっても備わりそうにない。
「だって〜セネカ様ぁ〜」
「なによ」
「りんごはそろそろ潮時なんですよーどうして旬の時期に言わないのですかぁ〜?」
 ここにきて、まともな意見が出ました。そして王妃の額に青筋が浮かびました。
「食べたい時に食べて何が悪いのよ」
「そして暴君王妃になるんですよねっ」
 語尾に星がつきそうな勢いでしゃべる侍女が取り出したのは一冊の本。
 題名、「暴君王女1 〜悪女は笑う〜」
「続くのね」
「はいっ!」
 本は焚き火の中に投げ捨てられた。
「一緒にもえてこっ」
 王妃の言葉は、次の侍女の言葉にさえぎられた。
「レイネ様の作品なのにぃ〜」
「……実話?」
 レイネお姉さまの?
「ちゃんとあとがきに実はモデルは私の最愛のい」
 そして、侍女の言葉も途中でさえぎられた。鈍い音と共に。
「なんだって?」
「さ、最愛の……」
 ゴゴゴと、何か不吉な音があたりを支配する。まずい、何かがまずい。いや感じるのは、身の危険?
「せ、セネカ様!!」
「何をあせっているの?」
「作者に訴えるべきです!!」
「レイネお姉さまに?」
「はい! あっ、でもセネカ様ができないっていうなら、それもまたよしっぎゃーーー!?」
 心地よい風が、何かがこげるにおいを運んでいった。


 で、結局。

「焼きりんごを食べ損ねたじゃない。まったくエルモアときたら!!」
 ずかずかと、廊下を進む王妃。その後ろを、触らぬ王妃に祟りなしと彼女が通り過ぎたあとに現れる侍女、兵士、大臣。――大臣?

「ぜ、ぜねがざま……」
 そして、先ほどのお茶会の会場には、ひくひくと痙攣を続ける侍女が半分地面にめり込んでました。
 たぶん、やんちゃな少年が今ここにいたら、棒でつんつんと突かれたいたことでしょう。きっと。


「Cooking Time」


2009.03.24