〜1〜

 すっと手を伸ばして、引っ込めた。何度目かわからない。
 最初に見て思った事は、「小さい」で口にすると呆れられた。次に手渡されて、暖かさに驚いた。
 あれ以来、触れない。暇がないとも言うが……
 再び手を伸ばす。その手は、隣で眠るセネカの髪をすく結果になった。


「――ん?」
 息子と共に眠ってしまったセネカが目を覚ます。それを知りながら、伸ばした手で髪をすく。
「……ド?」
 寝起きだからか、最後の音しか聞こえてこない。
 寝台に赤子を挟んで、二人。
 視線だけ向けてくるセネカの髪をすく手を止めて、頬に当てる。その手に重ねてくるようにセネカの手が当てられた。
 途端に、くすくすと笑われる。
「何がおかしい」
「……だって」
 まだ笑っている。何か見透かされているようだ。
 ぁあいつ、こんなに美しく笑うようになったのかと自問する。
「大丈夫よ」
 ひとしきり笑って、こちらの心配を消し去るように、不安を感じさせないように教えてくれる。
 ごくりと緊張を飲み込んだ。
 頬から離した手を再び伸ばす。
 ささやきを子守唄に、赤子は眠っている。
 小さくて、とても小さい。
 そっと伸ばした手をそのほほに当てた。ぬくもりと、暖かさが、同じだった。
「……」
「っ!」
 体を動かすように寝返りを……打てないのか。
 突然声を漏らした息子にあわてる。セネカが笑っている。少しだけ恨むように視線を向けた。
 絶対、知っていてやっている。
「平気よ――ほら」
 その手に導かれるように、再び手を伸ばした。ほほに触れて、小さい掌に当たる。本当に小さい。自分も、こうやって生まれたのかと――
「………」
 長い指が、小さい掌に包み込まれた。握られている。
 必死に、自分の人差し指を握り締める息子。何か声をあげながら、再び深い眠りに落ちていく。
「………」
 助けを求めるようにセネカを見ると。また笑っている。今度は肩を震わせている。絶対、ここに息子がいなければ腹を抱えて大笑いしているだろう。
「――ぉい」
「なによ」
 笑い声が混じって、目に涙を浮かべている。心底楽しそうだ。
 いらだちを抑えずに、覆いかぶさって唇をふさいだ。



「せーねーかぁーさま〜ぁ?」
 さっき、産まれた息子と共に昼寝に入ったはずなのだが、そろそろ乳母がやってくる時間だ。
 王子の養育は、これまでの慣習にそって乳母に任せることになっている。セネカ自身が養育する事はほとんどないが、日に何時間か母の顔を覚えさせるためでもある。
 こそこそこそっとエルモアは部屋の中に入る。王子が寝ている場合が多いので、彼女も最近は……ようやく、静かに部屋に入るというスキルを身につけたようだ。
「せね……」
 そして、いつものように寝台で昼寝する母子に声をかけようとして、止まった。
 文字通り止まった。
 何に驚いたって、たぶん。国王様の手が握られていることだったのかもしれない。片手は息子に。そして、もう片方の手が繋がる先は――


 エルモアは、生まれた息子を囲んで眠る国王夫妻を残して、そっと部屋をあとにした。

 お茶の時間は、まだあとなのです!


「Short Sleep」
 


2009.09.27