眠り姫


「………遅い」
「そのほうがいいだろ」
「って、あんた。遅刻でしょ?」
「今日は、休みだ」
「―――脅迫?」
 脅しこんだのか?

「政務が大切か世継ぎがほしいか問いかけたら、投票でこうなった」

「……」
 大臣って、何人いたかしら?
「四人だが?」
「………」
 それは満場一致なのか、三対一なのか。
 そう、大臣が四人で、はかりごとを決める時は意見を半々に分ける。最終的な決定権は王に与えられ、大臣達の最終意見決定の挙手など、建前だ。

 しかし、それは政務中の話。

「まだ時間があるだろう? もう少し寝かせてくれ」
「一人で寝てろ―――放して」
「ぐーー」
「ちょっと!」

 そんな感じで、王妃の部屋に入り浸る国王。
 まさか、夫婦そろってお休み中の寝室に、例え真っ昼間でも入り込むほど命知らずはこの城にはいない。そのはずだ。
 もちろん、ここまできたらもしや病気(それは病気に失礼だろう)かと問いかけたくなるほど場の空気が読めないあの子を除いて。さてさて、今はどこにいるのでしょうね?



「王妃様に……殺される、無事、首が飛ぶ、生還、絞首刑、天国……」
「おいおいおいおい、ギーリック。何してるんだ?」
「あ、隊長。今日陛下は?」
「まだ起きてこないぜ〜〜まぁ、起きていても出てこないかもな」
「? 確か侍女たちが、久しぶりに王がおこしになったと話してはおりましたが」
「そ、しかもだ。今日は大臣を黙殺して休暇をもぎ取ったのさ。邪魔でもしようものなら、」
「左遷……出世、」
「だからなんなんだ、嫌味か?」
「いえ、それが………たいちょーーー!!! 俺の骨が明日転がっていたら!! 拾ってくださいねぇ!!!??」
「ななっなっななんだ?」
「っうっうっぅ、それが……」
「だから、早くしろ」
「昨日陛下に、明日の朝は餌を撒(ま)くなよと……」
「エサ? なんだよ、動物飼っていたのか?」
 ある意味で、“動物”。躾けられた犬のほうがおとなしい。というか、役立つ?
「王妃様の命令と、陛下の命令が違うのです!! どちらに従うべきか……」
「決まってるだろ」
 “王”だ、王。
「ですが隊長!! あの“王妃様”ですよぉ!!」
「………」
 なんとも言いがたい。
「ですから、もし万が一にもこの計画がばれたら、……首が飛ぶ……」
 咎(とが)められるのは国王ではないらしい。
「で、なんだそりゃ?」
「知りませんから! 前にエルモアさんが瓶の中に入っているキャンディーを一つずつ大丈夫かそうじゃないか言いながら食べていって最後の一つが本当になるって……」
 そうかーーだから最近巷(ちまた)でキャンディーがよく売れているのかーー……違うだろ。
「気休めか?」
「たいちょーーー助けてくださいーー」
「――――無理だな」
 セズは匙(さじ)を投げた。




ひゅーーーーこつんっ

「いたっ……? なんでしょうか?」
 足下にきらめく銀。
「わーースプーンです! でも、なんで?」
 ……えっエルモアが、まともな人間のような思考回路を!!!?
「あ、そっか〜〜脱走したんですね!」
 持ちえるはずがなかった。
ぎゃーーぎゃーー
「かわいい小鳥さん〜〜」
 黒くてでかい鳥が飛んでいる……ここ? そうですね、深い森ですよ。わーー“深い”ですねぇ〜〜

 ナイレイル国の領土かどうか疑うのもお忘れなく。



「…………ぅ……ん……」
 しょうがなくクラウドに拘束されたまま眠りについたセネカ。しかし、
「ん?」
 素肌に触れる手の感覚にぱっちりと目覚めれば、さっき起きたときに新しく着替えた寝巻きの紐が再び解かれている。そして進入している、腕と手。
がんっ
 手元にあった王杖で殴りつけた。
 すごすごと手が引っ込んだのを見送って、暖かいぬくもりの寝台で再び眠りにつく。横を向いて少し丸くなって。まるで、何かを守るように。

 穏やかな日差し、柔らかな日。眠りに誘われるには絶好の日和(ひより)だった。


 寝台に凶器を持ち込むほどに。



 この国で、日常なんてそんなものでしょうね。



「ぬぅ〜〜」
ぱたっ
「あっちですね!」
 わーーはじめてみたよ〜〜木の枝で進行方向決めている人。
「れっつごー」
 片腕を空に突きつけて、勢いだけはいいんですけどね〜
 森が深すぎて光がもう届かなくなってきているし、しかも、枝が指す方向……先が見えませんけど?
 あ、森の中じゃもともと視界は悪いかもしれませんね。

「ふんふ〜〜ん。今日のお昼はなーにっかなぁ〜〜」
 彼女に伝えるべきことは他にありますよね。



「たいちょーーぅぅう」
「あーーうぜぇ! おい誰か!! ザデォはどうした!!?」
 うわっこの人別の人にギーリックを押し付ける気ですよ。
「たいちょうぅぅぅ」
「泣くな」
「すびばぜん〜〜」
「―――わかったよ」
「隊長!」
 きらりと、涙が光った。そう、儚い貴婦人なら絵になるだろうに。この、婚期を逃した男が涙ぐんでも……
「とにかく、朝エサを撒かなければいいんだろ?」
「………は?」


 セズ曰く、「ようは、あの女を王妃様の部屋に連れて行くようにお前は命を受けていた。しかし、」
 ここで、うんうんとギーリックが頷いた事もお忘れなく。
「クラウドに今日の朝誰も来ないようにされた根回しに巻き込まれたと」
 ここで、以下略。
「でだ、お前に与えられた王妃の命を振り返ると、“あの侍女を王妃様の部屋に連れて行く”だろ?」
「そうなんです!!」
「それは“今日中”に」
「―――ぁああああ!!!!」
「なんだよ!?」
「そうですよね!! 確かに、王妃様は朝までに連れて来いとは言っておりません!」
 どう頑張っても朝までにエルモアが部屋に着くのは無理がある。
「そういうこった」
「わかりました! もう昼ですし、いいですよね!?」
「―――いんじゃね?」
 もう、こうなったらいつでも。きっと、何かない限りクラウドは出てこないに一月分給料賭ける。
「よしっ急がないと!!」
「で、エルモアって女はどこにいるんだ?」

「―――!!!?」

 さて、難関が落ちてきました。

「何固まってんだよ」
「たいちょうーーーぉぉううう!!!」
「すがりつくな!」
「たぁすけてくださーーい」
「なんでだよ!」
「いっそ城の兵士を総動員して下さいーーー」
「女一人連れてくるのにどれだけ費用がかかるんだよ!」
「あのエルモアさんですよ〜〜〜」

 セズは、“まだ”エルモアのすごさを知らなかった。


 よくわかっているねぇギーリック。やっぱり、関わった時間に比例してその人に本性はよくわかっていくものですよねぇ?



「あらぁ? ここは海?」
 そう海です。砂の海。―――おわかりでしょうか……砂漠です。
 さて、ナイレイルに砂漠はあったのでしょうか?

 うーーん私に聞かれても。



「ふんふ〜〜んふふふ〜〜でーきた!」
 砂の城。
ゴーーーっ
 明らかにおかしい強風に吹き飛ばされた。
「げほ……げほっうへぇ〜〜お砂はまずいです」
ぐ〜〜
「おなかすきましたぁ〜」
 ふう、と座り込んだ。

「―――? あ、いい香り〜」



「たいちょ〜〜〜」
 もはや、直視したくない光景。
「わかった、わかった!!」
 なんでクラウドがおとなしくていい日なのにこんなに付きまとわれなきゃいけねぇんだよ!
「とにかく撒いてみろよ〜案外エサの匂いに食いつくかもよ?」
 ……どっかの犬じゃあるまいし。
「やってみます!!」



ばたばたばた……
「おい……」
「はい!」
「何している?」
「いえ、よく匂いが届くように」
 仰いでどうする。
「はいっ隊長も!!」
「俺も!?」
 あ、ちなみにさっきからこの廊下には誰も通りかかりません。
 はいなぜかーー

答え→いち早く状況を察した聡い人(誰でしょうねぇ? そんな常識人。ま、誰だって関わりたくない事は全力で非難しますからねぇ)がこの先通行止め。と、札を用意してよく見えるように台車に貼って置いたから。もちろん、廊下の前後に。
 この廊下が通れないと確かに不便ですけどね〜〜誰だって被害を受けたいかと問われれば迂回しますよ。


「わーーいぃいい香り! 今日はパイです〜!」

「「ホントにきた……」」
 お二人さん、これでもう同類。


『セーネッカ様ぁ〜〜今行きます〜〜』


 かっと目を見開いて、セネカは目覚めた。天井を見つめたまま言う。
「不吉な声が聞こえたわ」
「それは、また」
 俺にも聞こえたが?
「とりあえず、」
「なんだ?」
「潰れろ」
 そう言って国王に枕を投げつける。
「おい」
 なんなく受け取った国王が、セネカの腕を引き寄せた。
「ちょっ」
 今度こそ、国王の腕の中に逆戻……

べこっ!
 王杖が嫌な音を立てた。



「おはようございま〜す!」
「―――今もう夕方」
 ジャッ――っと、寝台のカーテンを引いて足首の埋まる絨毯(じゅうたん)に裸足(はだし)で立ったセネカ。
「あれぇ〜セネカ様。どうしてまだ寝巻きなんですか?」
 ほけっと、首をかしげたエルモア。
「は?」
「セネカ様〜いくら身分が王妃様でいるからって、お昼まで寝ていたら駄目ですよぉ〜お天道様に睨まれますよぉ〜」
 怖いんですよぉ〜と、エルモア。そして、
「ひどいですひどいです。私がセネカ様に会おうと銀のスプーンを拾って、歩いて。森の中で紫と黄の鳥の主に道を聞いたり、青みどろの沼の主に食われそうになったり。つたに絡まったり食虫植物の数を数えたり。砂漠でせっっかく作ったお城が風に飛ばされたりしていたのに!! セネカ様はまだおやすみになっているなんて!! 私の仕事が増えるじゃないですか!!」
 普段、なんの仕事してるんだ? しかも、それがお前の仕事だぞ、一応。というか、本来。

 ってそんな数回は死んでそうな危機(?)を潜り抜けてきたはずなのに、なんでそんな小奇麗なの?

 と、いつもなら脱兎ごとく花瓶でも飛んできそうな展開ですが、おとなしいですねぇセネカ。の、そのうしろにごごご……と、マグマが昇ってきていました。しかし、外見は海の底のように、深く、暗く、声が届かないほどに、口の端をあげただけ。
 一重(ひとえ)に、表情に表すのをこれだけに抑えられるのはセネカの家庭環境の賜物(たまもの)だろう。

「……知らなかったわ〜あなたがそんなに永眠したかったなんて」
「違うますぅ!」
「そうなの、じゃぁ冬眠しろ」
「起きれませんん!!」
「大丈夫、きっと王子様が起こすために迎えに来てくれるわ」
「それって、いつですかぁ?」
「百年後」
「死んでますぅ!!」
「大丈夫、あんたなら」
「無理ですぅ!」
「平気」
「うっぅっう、ひどいですぅ。それに、そんなに都合よく王子様なんて迎えに来てくれるわけないじゃないですかぁ!!」
「……そうね。あ、わかったわ。私のひひ孫にでも迎えに行かせるわ」
「そんな歪んでそうな王子様は嫌ですぅ! ――イタイですぅ!!」
「何が、歪んでいるって? ………あ、これの事?」
 もはや見慣れた王杖登場!! ……一部ゆが……曲がっている……
「ううう……凶器を出しましたぁ……」
「剣とどっちがいい?」
「どっちも嫌ですぅ!」
「まぁ私って寛大。武器を選ばせてあげるなんて!」
 今日、一番の笑顔。輝いている……


「さぁどっち?」







もとネタの眠り姫そう関係ね〜〜なーー
ちなみに、クラウドが嬉しそうにしていたのは言うまでもなかったり。



2007.03.05