セネカとエルモア 最後に国王



〜Seneka Side〜
「ルシークス国第五王女セネカ・ルシークスと申します」
 ゆっくりと名乗ると、国王と側近、周りにいたすべての人たちに、うんざりとするような空気が流れた。そう、まさに“またか”とでも言いたげな。

「………」
 よく見知った空気の中、私はさらに言う。

「―――――ナイレイル国王陛下、我が国王の娘は、五人しかおりませんので、私を追い返せば終わりますが?」
「―――っ」
 さすがに短く国王が息を呑んだ。
 そりゃぁねえ、いい加減にしろって言いたくもなるでしょうよ。


〜King Side〜
「ルシークス国第五王女セネカ・ルシークスと申します」
 正直、“またか”と思った。この国の王はいったい何を考えているんだ?
 第五王女だぞ、第五。第一王女から第五王女まで全員やってきたんだぞ。

 はっきり言ってうんざりせざるを得なかった。家臣もそれを察したらしい。何と言っても、第一王女と第四王女が恐ろ…執念深…しつこ……一途だった? ので。

 いい加減であの国とは一生縁を切りたい………

「―――――ナイレイル国王陛下、我が国王の娘は、五人しかおりませんので、私を追い返せば終わりますが?」
「―――っ」
 まるでこちらの考えを読んだかのように言う第五王女。………追い返す?

「大変でしたでしょう? エリスお姉さまは執念深い上にしつこいので」
 けらけらと笑う女。
「まるで追い返してもらいたいような口ぶりだな」
 心に思った事と、反対の事を言っている。
「――――国王陛下は、追い返したくなのですか?」
「………」
 そう言えば嘘になる……が。


〜Seneka Side〜
「大変でしたでしょう? エリスお姉さまは執念深い上にしつこいので」
 だって、自分の出世がかかっていたし。まぁ、きっとこの国王様好みだったんじゃない? 帰ってきてからの荒れようはすごかったもの。まぁ、負け犬がただ暴れているだけだけど。

 ちなみに第一王女はレイネ、第二王女はリノル、第三王女はアイレ、第四王女はエリス、最後は私、セネカのあわせて王女五人。お父様―ルシークス国王の意思で、なんとしてもこの国―ナイレイルに誰か一人嫁がせたいみたい。ってかさ、全員って逆効果でしょ。アイレお姉さまでやめときゃよかったのに、まさかエリスお姉さままで行かせるんだから。馬鹿じゃないのーー

「まるで追い返してもらいたいような口ぶりだな」
 ………ん? ずいぶんと口先ではいい事を言うのね。でもこの空気の中じゃ説得力ないから。
「――――国王陛下は、追い返したくなのですか?」
「………」
 沈黙した国王、――――ちょっと、中途半端に何考えてるんだよ。


「でしたら、私帰りますので」
 さー帰ろ。私結婚する気ないし。これでこの国とは同盟とかそういういわゆる手を結ぼうてきなことはできなくなったわね。かわいそうなお父様。―――苦労すればいいんだわあの馬鹿おやじ。

「…………」
 沈黙したままね、ま、いっか止められないし。
 くるりと振り返ったのは、別にさっさと部屋を出ようとしたからだけじゃないから!!
 バタバタと扉を隔てた先があわただしい。でかいし重そうな扉を通して聞こえてくるんだから、相当大騒ぎしているのか?あ、なんか人の声―――

「――――邪魔すんじゃねぇ!!」

「………」
 あれ、今のって………

「セネカ様!!」
 ドガンと扉を蹴り開けて入ってきた女―――よくまあそんな力が……

「エルモア?」
 何でいんのよあんた―――

 久しぶりにあったエルモアよりも、気になったのは後ろにいる積みあがった兵士……
 と、肩で息をしていたエルモアが走り出す。

「セネカ様ーー!!」
ガン!!!
 するりと、よけた。だってそうでしょう? 涙ためながらいかにもそれらしく振舞って走ってくるのよ!! 気持ち悪い! しかも全力でよ! ぶつかったら痛いじゃない私が!!

「ひ、ひどい………」
 何がよ、てゆーかどこがよ。―――ちょっと、床に叩きつけた顔でこっち見ないでくれる?
「何してるわけ?」
 なつかしいわね、これがまだ私の侍女だった頃――
「セネカ様に“やりたい事をやろうともせずに人に流されている奴が、本当にやりたい事をできるはずもないでしょう”と言われたあと、侍女を辞めて、そして家を出ました」
 それは聞いた。で?
「それで、とにかくふらふらとしていたんですが……」
 ダメダメね。
「このたびこの国で文官に!!」
「まだなってないと」
 がーーんと、私の一言にショックを受けたらしいエルモアは口を開けた。
「ひ、ひどいセネカ様……」
 いや事実でしょ。
「そりゃまだ見習いですけれど、そりゃまぁ見習いですけれど……」
 しくしくと泣き出す始末。あーーうるさい。

「そんなこと私に言ってどうするわけ? いくら私があなたに取っていいと思う道を示しても、あなたがいいと思わなければ意味がないし。喜びも満足もしないでしょうに。逆に、あなたが例え待遇はどうであろうと自分で決めた道ならば、自分が満足しているでしょう? それ以上私に何を期待するのよ? 良かったねと祝ってほしいわけ? そんなもの他でもないあなたが感じていることでしょう? 取り立てて私が言ってあげなければならない事?」

 見ればわかるし、今、満足しているかどうか。これでも数ヶ月は私の侍女だったのよね。今思うと奇跡じゃない?

「―――侍女?」
 ようやく反応らしい反応を示した国王。あ、いたのか。
「ええまぁ、エルモアは私の侍女でしたが?」
「お前が……?」
「ひどい陛下まで!!?」
 あ、この点に関してはあの国王と話し合いそう。だって、
「あんたがお茶入れると苦いし」
「うぐ、申し訳ありません……あ!! でもセネカ様の入れたお茶はとっっってもおいしかったです!」
 そりゃあんたのが不味いから私が入れたのよ自分で!
「城の中では迷うし」
「ぅ………だって、だって、広すぎです……」
「私の部屋にもついに一人ではこれなかったわね」
「……うううぅ……」
「よく寝坊するし」
「セ、セネカ様お一人で着替えられていたじゃありませんか……」
 まぁね、末っ子だったからか服装にはとやかく言われなかったから、動きやすくて着替えやすい服を特注したもの。

「………なるほど」
 何か納得したらしい国王。何よいったい。
「陛下、お聞きの通り私をこの道に進ませて下さった方です」
「だろうな……」
 可笑しそうに国王は言った。何を笑うのよ。何を。失礼ね。

「セネカ様! この国には何日のご滞在で?」
「もう帰るわ」
 またも、ズガガーンとショックを受けたようなエルモアの顔。
「な、なんで!!?」
 “なんで”ってむしろなんで私がいないといけないのよ。
「帰る」
「なんで!!? 帰ってまたネチネチと根暗よろしく陰険に邪悪にたち悪くリノル様とアイレ様とエリス様と国王陛下をいじめるんですか!?」
「………」
「ぃっ! いたい……」
 無言で、何か言う前に殴りつけた。
「ぃい!! タイイタイイタい……」
 ついでに耳を引っ張ってみた。
「ぅぅぅ。暴力反……」
 ぁあ? っと、見下(みくだ)してみた。
「せっ! せっかくだからもっと、お話ができるかなーー? なんて……」
 語尾が小さい。
「だって、私、もう……」
「?」
 今度は泣き落とし?
「会えないかと、思って……」
「………」
 こういう真っ直ぐなところは、好きだったわ。
「――――別にいいじゃない。」
 ひどい! 私にとっては重要なのに!! と、言いたそう。
「会えるか会えないかなんてわからないけど、今ここで会えたなら、またいつか会える。」
 涙の溜まった目が怪訝(けげん)そうにゆれた。
「会えるか会えないかなんて、そんな人事なの? “会えるか、会えないか”、“会いたいか会いたくないか”でしょう?」
 機会は、いくらだってあるし、作り出せる。
「会いたければ来なさい。どこにいるのかわからなければ探しなさい。」
 きょとんとした目と目が合った。
「私が会いに来てくれるなんて、期待しないで頂戴」
 はっとしたように見上げてくる顔。

「でも、」
 まだ何かあるわけ?
「だけどやっぱりもったいないです」
「何が?」
「だって、だってセネカ様本性はどす黒い上に性悪なのに!! いだっ!? どこか適当なところに嫁入りしてしまうなんて!! セネカ様が男だったら確実に私夜這いに行ってるのに……」
「……ぁあ、安心して頂戴。あなたを窓から叩き落して、次の日には棺桶で安眠できてるようにしといてあげるから。」
「私の愛わぁーー!!?」
「綺麗さっぱり燃やしてくれるわ!!」
「セネカ様のバカーー」
 ガゴン! と、今までで一番鈍い音がした。―――手が痛い。
「ぅうっ、痛い……」
「帰る!!」
 今度こそ歩き出した。
「待ってぇ〜〜行かないで〜〜」
 ずるずると、私の足にしがみ付くエルモア。
「えーーい! うっとうしい」

「いったい、何をしにこの国に来たんだ?」
 国王がもっともな質問をする。

「あ゛? ボケ親父が“もう、お前しかいない! いや、失敗する可能性のほうが高いような気がするが我が娘セネカよ! 何でもいいとにかくナイレイルとの関係を有効にするには! ―――そうだ妾でいいとにかくうまく取り入って来い!!” とか言うからとりあえず断ってまぁむしろ関係を持とうとするほうが無謀だって事知らしめようかと思いつつ面倒だからささっと帰ろうとしてるだけど?」
「で、帰ってどうなさる気ですの?」
「とりあえず陛下の嫌いなネコを寝室に送り込むってどうよ?」
「……一匹じゃありませんわよね……?」
「ん〜〜そうね五十匹くらい?」
「……………」
「………確か、前にエリス様に似たようなことしませんでしたか?」
「あの時は蛙よ。二百匹。」
「セネカ様ぁ」
「何よ」
「セネカ様の嫌いなものって、何でしたっけ?」
「おしえてあげない」
「なんでーー」
「言ったら寝室に運び込むでしょう?」
「もちろっ」
 言葉を続ける前に床に沈めてやった。

「―――ちょっと待て」
「?」
「???」
 歩き出した私に国王が声をかけた。その手の中には書状。見間違えるはずもないあの印は私の国の国王の印。
「これからすれば、お前は俺に求婚してきたんだよな?」
「書類上は」
 あっけらかんと言った。だって、私の意志関係ないもん。国王は少しひるんだような気がしたけど、気のせいだったみたい。
「だとすれば、お前は俺の返事を聞くまで帰れまい」
 ぅわやな予感。
「では、どうされますか?」
 睨み付けてみた。だって、今更何を取り繕えと?
「そうだな……返答は二週間後」
「じゃ、二週間後にまた来ます」
 帰ろうとしたところをホールドアップ、ちょっと、何復活してんの?
「二週間!! はいはーーい! 私また傍仕えやります!!」
 冗談!!?
「あ。ああかまわないが……」
「行きましょうセネカ様!!」
「…………迷わず案内できるんでしょうね」
「任せてください!!!」

――――どうやら、帰れないらしい。



「おい、誰か後ろからついていけ」
 エルモアの方向音痴っぷりは、この国でも有名だった。


「………あら?」
「迷ったのね…」
「ち! 違います!! 曲がり間違えただけです!!!」
「そーーいうのを迷ったって言うんだこのボケーーー!!!!!」


 怒鳴り声が響く。当分退屈しなそうだと、国王はほくそ笑んだ。



 結局、それから国に帰った事は一度もない。……なんでかって?

 帰りたいと思わなかったからよ。
2006.08.24