暇つぶし


「ひどいですぅセネカ様! どーしてそうやって私をいじめるんですかぁ!!?」
「え? いじめられるのが趣味じゃなかったの?」
「ちがますぅ!!?」
「じゃぁ日課?」
「あ! そうなのかもしれません――じゃなーいっ!!」
ガンッ!
 テーブルをひっくり返そうとして、セネカに椅子を投げつけられたエルモア。
「骨董品(こっとうひん)よ。もっと丁寧に扱ったらどうなの」
「……」
 いや、あなたは……?


「お〜やってるやってる」
「何をしている」
「もうあれだよな。物見料とってもいいんじゃね?」
「……売るつもりはない」
 そんな事してみろ、うなされるぞ?
「ぇえー」
「何が“えー”だ」
 歳を考えろ。
「なぁなぁもっと近づいてみねぇ?」
「……」
 なんだ、こいつ。物好きか?
 しかし、一人で勝手に行かれるのも癪(しゃく)なクラウド。


「ねぇ〜セネカ様」
「なに」
「もしもーーですよぉ」
「だから何」
「何かを壊してしまったら、どうやって隠しますかぁ?」
 何かが割れてつぶれるひどい音。
「ひどいですセネカ様! どーして殴るんですかぁ。そりゃ確かに、セネカ様の十二番目にお気に入りのカップをさっき割りましたけどぉ〜〜」
「ねぇエルモア、自業自得って知ってる?」
「なんでしょうそれ?」
「あんたのことよ!!」
「また殴ったぁ〜」


「………」
 そろそろ、後悔しだしてもおかしくない。
「……なぁ」
「なんだ」
「あのテーブル、無事なのか?」
「ナイレイルの中でも、一、二位を争うほどの“壊れなくて頑丈さ”を売りにしている店のものだが?」
 セネカがきた当初に用意したものはすでに暖炉の薪となった。


「ねぇねぇセネカ様!」
「だから何」
「ルシークスで、国王様のお小遣いから金貨をかっぱらった時はどうやったんですか?」
「お父様の? なつかしいわね」
 国王の小遣い……と言うか国の税や財政に関係する事は第一王女レイネが取り仕切っている。
 何をまかり間違ったか国王の小遣いも取り仕切っている。
「かっぱらって遊ぶだけ遊んで、」
「うんうん」
「お父様にてきーとなお土産を買っていって」
「……うん?」
「お父様のために買ってきてあげたのーー! って言ったら涙ながらに大喜びよ?」
 たとえ自分の分の小遣いがなくても、私が忙しいお父様の代わりに買いに行ったの!
 と言って騙す。
「セネカ様……」
「なによ」
「人を呪わば穴二つですぎゃーー!?」
「誰が呪ったって?」


「それなら、毒を食らわば皿まででだろう」
「それはいいが、お前。自分の事だろ?」
「……」
 セズの突っ込みに、何も言えないクラウド。


「でもセネカ様〜誰も呪った事ないんですか?」
「それはリノルとアイレコンビの専売特許」
「セネカ様できないんですか!?」
「やってほしい?」
「国王様を」
「どっちの?」
 心持ち、セネカがイラだった。いや、もともと怒っていたが、別の中枢を刺激された……?
「だぁって〜」
「ぁあん?」
「暇なんですもっ!?」
 見事な手腕で、骨董品のテーブルの下にエルモアは押しつぶされた。


「どっちを呪うんだ?」
 じっと国王を見ながらセズが言う。
「何が言いたい」
 頭を抱えたまま国王は護衛を睨みつける。
「いや、せっかくだし」
「何がせっかくだ。苦しむのはお前だぞ」
 俺が呪われている間に仕事がたまって困るんだ。
「呪いが解けたらさらにお前が苦しむんじゃないか?」
「………」


「暇だからって国王を呪ったら、牢獄行きよ」
「でもセネカ様が呪えば牢獄に行かないですむじゃないですか!」
「ばれるようなへましないわ」
「セネカ様、得意そうです!」
 隠蔽工作とか、口封じとか。
「見本を見せてあげるわ」
「ぁの〜〜……セネカ様」
「何よ」
「見本を、見せるんですよね」
 その手を、どうしてこっちに伸ばすんですか?
「身をもって体験できるのよ。光栄でしょう?」
「じっけんだいーー!!?」


「生贄か」
「そうらしい」
 セズの言葉に、クラウドは頷いた。
「ちょっと前に大臣が犠牲になったな」
「そうだな」
「お前、変わってやれよ。案外喜ぶかもしれないぞ」
「俺に死線を越えて来いと?」
「いやぁ〜愛だねぇ〜」
 本気で言っているのか、と。国王は護衛の首を絞めにかかった。


「まったく」
 侍女の口を封じて――ほこりを払うかのようにパンパンと手を叩いたセネカは息をついた。
 その目が、ゆらりと揺れる。
 やや上、窓辺、二つの影が見える。なんか、遠めに見ても何をしているのかよくわからない。
 王妃は、一歩足を進めた。


「で、でもよぉ、王妃の暇つぶしはどうあっても必要だろう?」
「……そうだな」
 声が沈んでいる。
「だから、国王が自ら犠牲になれば万々歳」
「怒るぞ」
「愛が試されてるじゃねーか」
「……」
 国王は本気で頭を抱えた。自身の身が大事か、王妃の娯楽に犠牲になるか秤にかけられている事に対して何を言ったらいいか考えているのかもしれない。
「こっちくるぞ」
「なにっ!?」
 国王は呆然としていて、気がついていなかった。
 いや、こちらに向かってくるセネカを見ていたので、そのせいで自分の居場所(覗き見をしていた事)がばれるという思考にいたらなかったらしい。
「何してんの?」
 二階の窓の下から、その視線ですべてを凍りつかせるかのように、セネカがこちらを見上げている。
「いや、特に何も……」
「昼間の護衛の数が心配で、むしろ自分が向かうって言い出しっ」
 最高速で、国王は自分の護衛を窓から突き落とした。
「……」
 さっと落ちてきたセズ(それ)を避けてセネカはドレスの埃を払った。
 まるで、何かが移るのを拒否するように。
「上がってこないか?」
 無言で、セネカは後ろに二つの人影を放置したまま歩みを進めた。
「ぁあはいはい。どうせ俺はお邪魔虫ですよ」
「セネカ様〜どこまで行くんですかぁ〜?」
 ぼやいたセズの言葉の次に、続いた言葉。国王夫妻は地面に落ちた護衛に鋭い視線を送った。
 彼の周囲だけ、なぜか温度が下がった気がする。
「……まじで」
 セズは、自分が足止めの役割になってしまったことを、受け入れるしかなかった。





2009.02.25