I
慣れきった日々に叫び声は欠かせない


「おじょーう様!」
「どうしたのそんなに息を切らせて。言っとくけど、泣き脅そうが、良心に訴えかけようが何しようが永住しないったらしないのよ」
「うう……ひどいですお嬢様。まだ何も言っていないのにこの仕打ち……」
「で、どうしたの?」
「そうなんですお嬢様。困ったことに魔王様のやる気、元気、毒舌、が最近すっかり減ってしまったのでここはひとつお嬢様で遊んでもらおうかと」
 最後のひとつは少ないに越したことはないような気が……
「却下」
「うう…お嬢様。時間にして七秒八ですわ」
「それが?」
「十秒は考えていただかないと」
「自分が犠牲になってこーーい!」



「ああ、見つけましたよラーラ」
 その言葉に、舌打ちしたラーラと、あのメイド、しくじったなというデューの言葉が重なった。
 ちっメイドが先発か。
 ここは無視して進むべき。さくさく〜と。
「……ちょっと」
「なんですか?」
「邪魔なんだけど」
「邪魔してますから」
「どけ」
「いや、ですね」
「まったく、ラーラといい魔王様といい。どうして人の話を切かない大人に育ってしまったのでしょうね」
「そっくり返すからその言葉」
「何はともあれ」
 ぽんと、レイスが手を叩く。ちょー嫌な予感。
「しばらく魔王様の相手はラーラがして下さいますね?」
「絶対にいやだーーー!!!?」
 走って、逃げた。


「ぁあラーラ。そんなに猪のように突進しては廊下がかわいそうだろう」
「私の精神の平和のためだぁぁぁああ」
「はて? ミジンコに脳味噌は存在していたか?」
「人類に脳味噌はデフォルトだーー!!!」
「そうなのか」
「私を帰せーー!!」
「その話の飛びっぷりは相変わらずだな」
「一番重要でしょうが!!!」
 うん? 話がわからなかったのか魔王様が首を傾げる。
「私を帰せーーー!!!」
「耳に優しくないぞ」
「うるさーーい! このじじい!」
「じじ……老体に優しくないぞ」
「私が大事にしてるのは自分自身だぁ!!」
「身勝手な」
「あんったに言われたくないわーーー!!?」


「ふぅひとまずラーラがきたので魔王様はご機嫌ですね」
「いやぁ、よかったよかった」
「平和が一番ですね〜」
 のほほんとお茶をすする魔界三人衆……しかし、
「ラーラがいると、確かに魔王様は元気にはなりますが……」
 なごむ三人の空気に割り込む。書記兼秘書係? ポールが言う。
「また書庫の本が犠牲にならなければいいですが」
 ピキと、亀裂の入る音がする。笑顔を張り付かせたまま固まった三人衆。
 その首が、動きます。哀れポールは、ひぃっと悲鳴を飲み込みました。
「魔王様。ご機嫌ですものねぇ」
「そーですよ。ラーラがいれば機嫌がいいんですよ」
「そうだよなぁ」
 ジリジリと距離をつめられるポール、逃げ腰です。
「せっかく人が忘れていたのに、」
 人でしたっけ?
「平穏に浸ろうと思ったのに」
 いや、魔界ですから。
「てめーの一言でぶちこわしだ」
「ぎゃーーー!?」
 哀れ。魔界は今日も、平和です。


「なんか、余計なことを言ったばっかりに袋叩きにあっていそうな哀れな人の断末魔が聞こえたんだけど」
「なんだそれは」
「でも、魔界には人なんていないから。気のせいね」
「自己完結か?」
「何落ち込んでんのよ」
「ラーラ、少しは人の話を切いたらどうだ」
 ぷっちーんと、乾いた音を立てて何かが切れました。
「そっくり返すわーーー!!!」
「ラーラ、突然叫ぶのは世界に迷惑だから止めなさい」
「誰が人の話聞いてないですってぇぇええーー!」
「ラーラ、その大声は私に迷惑だから止めなさい」
「願ったり叶ったりだわーーー!」
 きーんと、何かが通り抜けていきました。
 しかしそこは魔王様。そこはやっぱり魔王様。
「ラーラ、世界より私の方が重要だろう」
「魔界より魔王より私が大事だーーー!!」
「誰だ、ペットに人権を与えたのは」
「私が人間に生まれた以上人権もデフォルトだぁぁぁあ」
「デフォルト=初期値……そうか?」
「悩むなぁーーー! 首を傾げるなぁーー! 信じられない物を見るかのような哀れみの視線を向けるなぁーーー!!」
「設定が細かいぞ」
「うるさーい!」
「やっぱり私を大事にするべきだろう。ほかは塵かペットだ。いやぁ。簡素かつ完結。これくらいでないと駄目だろう」
「老体は最近式についていけないだけでしょう!」
「シンプルイズベストだぞ」
「ここに来てカタカナでしゃべるなぁーー」
「最近の流行だろう」
「とりいれるなぁあ!!」
「まぁまぁラーラ、世の中魔王と塵とペットで問題ないだろう」
 うんうんと頷く魔王様。ラーラが握り拳をふるわせます。
「問題あるわーーー!!」

 とそこへ、再びメイドがやってきた。

 お茶の時間。
「ったくあの万年老人。最悪ね」
「魔王様ですかぁ?」
「そうよ。あの年齢詐称人物よ」
「魔王様は魔界人であって人でないので、問題ないですねぇ〜」
「喧嘩売ってる? それとも嫌み?」
「ぇええ!? なぜですのお嬢様!?」
「私はねぇ! 帰るのよ!」
「あ、お嬢様〜今洋なしのタルトが届きましたわ〜」
「食べる」
「いい香りですわ〜」
「おかわり」


 夕食に向かう。
「だまされたぁ!!」
「何を廊下の真ん中で人聞きの悪いことを叫んでいるのだ。ちなみに、騙す騙されるの場合、騙された方が悪いんだぞ?」
「お前が発端だーー!!」
 あのあと、タルトのほかにスフレと羊羹とムースが出てきた。おいしかった。
「それはそれなのよ!」
 会話の途中だったのよ!!
「ラーラ、よくまぁ意味のわからないことをべらべらとしゃべれるな。話が飛び飛びだぞ」
「あんたたちには言われたくないわぁーー!!」
 達=その他諸々。
「また人聞きの悪い。」
「うるさーいっ!!」

 魔界は、今日も平和だった。


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