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どちらの存在が正しいかなんて意味もない


「そんなに私の叫び声がききたいのかーーーー!!!」
 夏の朝っぱらから、化粧が禿げると文句を言いそうな叫び声が聞こえる。対して魔王様。無視一択。ここぞばかりに彼女が叫びます。
「私をかえせーーーー!!!」

ガッシャーーーーーンン!!!!!

 しかし、彼女を叫びを遮る派手な音が立ち上がりました。これには無視一択の魔王様も、変わらず肺活量を鍛えていた彼女もふり返ります。
「お、お嬢様……」
 メイドと言う身分(公式)とキャラクターを確立しつつある策士……ではなくピアが指をぷるぷると指しながら(人を指さしてはいけません。魔界人? それならオッケーでしょうか)言います。
「お嬢様、その髪は……」
「え? 切ったわよ暑苦しくて」
 胸元まで伸びていた髪をバッサリ。今はやりのショートカットですねぇ。しかし流行っているのか雑誌で押しているから流行っていることになっているのか……どうなの?
「魔王様!! 今すぐ夏を廃止に!!!」
「あほーーーー!!?」
 初めてラーラが侍女に向かって手にしていた本を放り投げた。
「ひ、ひどいですわお嬢様。お嬢様の髪を結わくのを心の支えに、次にお嬢様がいらした際の髪型を雑誌で勉強しつつ、実験台……ではなく協力者のおかげで腕を上げてましたのに……」
 侍女はばっとしゃがみこんでいつもより多くしゃべっております。ちなみに放り投げた本は弧を描き侍女を通り越し、空気……もといいちおう宰相らしき犠牲者にクリーンヒット。ポールは星になった。
「んーごめん」
 一応ここは謝るラーラ。もちろん。泣き崩れた侍女に向かって。
「お嬢様。髪の長さは腰までが基本です」
 復活した侍女が自分の趣味を押し付けてきました。
「なんのマンガだ!? リアルに求めるな!!」
 現実問題そこまで伸ばした事のないラーラが抗議します。
「なぜ切ってしまわれたのですか?」
「だって、暑苦しいし、なんか自分で自分の首絞められそうで。この前首に汗で髪がはりついててうなされたの」
「ああ」
 よろりと、どこかの人間よりお嬢様らしく倒れ込むメイド。スポットライトが輝きます。
「ああ……なぜ……なぜあなたは……」
「どこの芝居だ!?」
「で、暑いから寒くしろということか」
「言ってないし!!!」
傍観していた魔王様が話しかけます。すべて現実になりえるのでうっかりでも変なことは言えない。
「魔王様。お嬢様の髪が一気に伸びる方法はないでしょうか? 一晩で」
「ホラー人形か!?」
「なんだそれは」
「大切にしないでぞんざいに扱った人形の髪が夜な夜な伸びる恐怖」
 ……そんな話だったろうか?
「素敵ですわ〜」
「どこが!?」
「さぁお嬢様。今すぐ伸ばしてください」
「できるか!!!」
「こんな感じか?」
 さて魔王様。ことりと人形……ぶよぶよの茶色いかろうじて人型の物体X(黒髪使用)をテーブルの上に置きます。カシャリと、部屋の中が暗くなって人形にスポットライトが浴びせられます。しばらくぶるぶると人形が震えたかと思えば、ぼわっと髪が伸び始め……
「わーわーわぁぁぁあああーーーーーー!!!!!」
 地味にセンドールの低い声で実況がついておりましたが、どこぞの彼女の叫び声で台無しです。
「うるさいぞラーラ」
「うるせーーー!!!!」
 魔王の言葉に、とりあえずセンドールの足を蹴り飛ばすラーラ。ピンポイントで脛を狙ったのかセンドールがちょっと不快そうにしました。
「あれ? そこにあるのは髪が伸びきった時に持ち主に襲い掛かる「呪われれちゃん二十六号」じゃないですか」
「売りもんかぁぁぁーーー!!!!」
 デューが続けます。
「まぁ髪が伸びるスピードが速すぎて業者に無差別に攻撃をはじめてしまうんですがー」
「迷惑すぎるーーーー!!!」
「恋人にプレゼントしたいランキング絶賛第一位だったな」
 レイスがばさりと新聞をおろした。
「まぁ実際に販売できた例はひとつもありませんが」
「なんなんだーー!?」
「夏の三千七百九十四大怪談のひとつだな」
「そうですねー」
「多すぎるーー!!!!」
「そう言えば、この城」
 デューが意味深に続けます。ばっと明かりは消え、懐中電灯……ではなくそれっぽく光る何かで顔を下から照らしながら続けます。
「でるんですよ」
「な、にが……」
 ドン引きラーラ、涙目です。
「誰もいないはず。その廊下。しかしふと気がつけば、きぃ……きぃ……と、ゆれる扉。ふと閉めたはずではと記憶をたぐりながら中に入り……ゆれるカーテンの隙間から……見えたんです」
「……」
 ラーラ、聞こえないと耳を塞ぎます。その傍にそっと近づいて、吹き込みます。
「到底ありえないところに浮かぶ、……首が」
「いやぁーーーー!!?」
「あーあったなそんな話」
 かちっと電気(?)の入る音で部屋に明かりが戻ります。端っこで震えるペットを残して他はいつも通りです。
「あれは結局なんだったんですか」
「きーこーえーーーなーーーいいい!!!!」
「それよりもっと面白い話があるぜ」
「なーーーいーーーー!!!」
「ある夜。見張り番をする兵士達が……見るんだよ」
「もがっ!?」
 叫び出しそうなラーラの口を魔王様が塞ぎました。
「交代の時間が来て夜半番になって、ふと周回し来てきた兵士が異常がないと言うんだ。そいつも一緒に朝まで過ごすんだが……」
 ほうほうと魔王様。魔王様の指を噛むラーラ。
「朝起きると……ひとり足りないんだ」
「!? ラーラ。噛むのはいいが噛み切ろうと頑張るのはやめなさい」
「上官に確認すると昨晩は四人で見張りだったらしい。途中でやってきた兵士は……誰だったのだろうか……ふと気がついた。その男が寝ていたところは人型にぐっしょりと濡れてまるで」
「わーーーーー!!!!?」
 魔王様の指を噛みまくって口から追い出したラーラが叫びます。
「今年も暗闇で大怪談ですね」
「むりーーーー!!」
「いったいさっきからいつもよりうるさいぞ。怖いのか?」
 ぴっきーんと、ラーラの顔が凍りました。
「怖い訳ないでしょう!? ……たぶん。でもホントに出たらどうするのよ!!?」
「何を言うラーラ。おばけなんている訳ないだろう」
「なんでよ」
 きっぱり言い切った魔王様にラーラは疑問を投げかけます。答えは簡単でした。
「非科学的な存在など信じられん」
「お前の存在のほうがよっぽど非科学的だーーー!!!」
 はぁと、呆れてため息をついた魔王様。
「ラーラ。現実を直視しなさい」
「あんたに言われたくないわーーーー!!!」


サブタイトル『変わらぬ期待と夏の風物詩』
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